22 フィオナの逆襲 4
早速、訓練が始まった。
流石にフィオナ嬢でもリオネッサ将軍には勝てなかった。まあ、当然だけど。
「悪くはない。しかし、レオナルドやアーノルドに勝つには厳しいかもしれんな。軍のオープン参加の訓練で、二人を見たことはあるが、魔道士としての能力は同じでも、1対1の戦いであれば、レオナルドが上だろうし、アーノルドは「上級剣士」のジョブ持ちで、軍でも有名だったからな」
レオナルドのジョブは「雷鳴魔導士」で電撃魔法に特化している。
フィオナ嬢だって「風魔導士」だから、ジョブによる差はない。しかし、1対1の戦いだと別だ。魔導士対魔導士の場合、魔法の発動の速度が大きく勝敗を左右する。威力は別にして、一般的に電撃魔法が一番速いと言われている。そう言う俺も、冒険者として活動する時は、電撃魔法をよく使っている。とにかく速く撃てるからな。
「勝つのが厳しいと言ったのは、それは真正面から戦えばという意味だ。この意味は、センパイは分かるな?」
「はい、魔道士であるレオナルドと戦う時は、魔道士が嫌がる戦い方をする。剣士であるアーノルドの場合も同じです。その戦い方を中心に訓練すれば、十分勝機があると考えます」
「そうだ。一般的に実力が同じ場合は、「魔法剣士」が有利とされる。魔導士と戦う時は接近戦に持ち込み、剣士や槍使いと戦う時は、遠距離攻撃で近付けさせない。それで相手が焦れて来たら隙を突くのが定石だ」
あくまでもこれは一般論だ。
大魔導士やリオネッサ将軍のような圧倒的な実力があれば、全く関係ない。因みに俺は「魔法剣士」に近い戦い方になる。ジョブが「マルチタレント」だしな。
「だから、器用貧乏な「魔法剣士」が、こういったトーナメント戦では上位になることが多い。戦い方を工夫すれば、実力以上の結果を出せるからな。それで軍や近衛隊は「魔法剣士」を優遇する傾向にある。「魔法剣士」は小賢しい奴が多いから、私はあまり好きではない。世渡り上手の奴も多いしな」
まさに俺だ・・・
「だが中には馬鹿な奴もいる。魔導士には魔法で正面から戦いを挑み、剣士には剣のみで戦う。私が「魔法剣士」の戦術を助言したが、『俺は相手の得意なフィールドで、正々堂々戦って勝ちたいんです。将来の大将軍ですから』と言って聞き入れなかった。まあ、結果は残念なものだ。未だに燻っている」
「そんな痛い奴がいるんですね・・・」
「・・・・・・」
フィオナ嬢が言う。
「つまり小賢しいことはせず、相手の得意なことで、ねじ伏せろということですね?」
ち・が・う・だ・ろ!!
「そう言う意味じゃない。いくら実力があっても、戦い方を間違えたら足元を掬われると言いたかったのだ」
「そ、そうなんですね・・・私はその馬鹿な「魔法剣士」をカッコいいと思いました・・・少し残念です」
フィオナ嬢の将来が心配になってきた。
魔法少女ナナの件といい、心に闇を抱えているのかもしれない。
「話は逸れてしまったが、そんな戦い方はセンパイが得意だろ?とりあえず、考えている戦術を教えてみろ」
「分かりました」
★★★
早速、俺が考えてきた戦術を伝授する。
「フィオナ嬢、魔法の二重詠唱はできるかい?」
「二重詠唱なら何とかできます。風魔法と身体強化魔法の併用だけなら・・・センパイは簡単に言いますけど、二重詠唱ができるだけで、一流の魔導士です。三重詠唱で天才魔導士、それ以上になると稀代の大魔導士扱いですよ」
えっ、そうなの?俺、普通にできるんですけど・・・
このことは黙っておこう。安心安全な生活のために。
俺はプランを練り直した。
当初は、二重、三重詠唱による攪乱作戦を考えていたが変更だ。専門職の魔導士なら、それくらいできると思っていたからな。
「そ、そうだな・・・それだけできれば大丈夫だ。では俺がこれから見せるから、それを真似してくれ。多分すぐにできると思うけど・・・」
実演をした。
俺は大したことをやっていないという認識だったが・・・
「こ、これは・・・こんなことを考えつくなんて・・・軍の戦術が一変するレベルだ」
「は、はい・・・冒険者ならAランク・・・いえ、伝説のSランクでも、こんなことはできません」
えっ・・・これもそうなの?
「そ、そうですか・・・でも、タネは単純です。風魔法を移動に使っているだけですから・・・」
「原理はそうなんだが、実際にやろうと思う奴はいないぞ」
「分かりました。とにかくやってみます」
結論から言うと、フィオナ嬢は習得までに3日を要した。
「センパイ、いい案だと思うが、火力が足りんと思うのだが?」
「それも考えてあります」
「こんなのはどうでしょう」
これも俺は大したことじゃないと思っていたが、そうではなかった。
「これも予想外だ・・・魔導士の常識が変わるぞ。魔導士団の運用自体が変わるレベルだ」
「か、カッコいい・・・やります!!やらせてください」
ちょっと厨二病チックな技だったので、フィオナ嬢は嬉々として訓練に取り組んだ。その結果、1日で習得してしまった。
大丈夫か?フィオナ嬢・・・
★★★
大会まで、残り1週間を切った。
フィオナ嬢が言う。
「センパイと将軍に指導いただいて、本当に有難いと思うのですが、不安要素があります。それは魔導士の宿命と言える魔力の枯渇問題です。私も魔力量は多いほうですが、センパイに教えてもらった必殺技は、魔力の消費量が大きくて・・・慣れればそうでもないのでしょうが、この短期間で魔力の消費量を節約するのは無理かと・・・」
「私もそう思う。軍で言えば兵站だ。補給をないがしろにしては、どんな強力な部隊も戦えんからな。当然、センパイは策があるのだろ?」
それに答えたのは、俺ではなくミケだった。
「それは任せるニャ!!クロネコ商会が全面バックアップするニャ。最高級の魔力回復ポーションを取り揃え、一流のマッサージ師も手配しているから、試合と試合の合間の回復は万全だニャ」
「ありがとう、ミケ。でも、そう何本もポーションを飲むわけには・・・ポーション酔いもあるし」
それについても対策は万全だ。
「レイモンドとアーノルド以外は、どうやって魔力や体力を温存するかの戦いになると思う。だから、そんな相手用に専用武器を用意した。ミケ!!」
「はいニャ!!」
ミケが新作の武器を差し出した。
「何というか・・・変わった武器だな・・・」
「カッコいい・・・使います!!使わせてください!!魔法少女のイメージにピッタリです」
この武器が魔法少女のイメージ?
俺にその感覚は分からない・・・
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