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異世界のんびり刑務官~異世界で無双?そんなの俺は求めてない。ただ安定した生活がしたいだけなんだ!  作者: 楊楊
第一章 フィオナの逆襲

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18/22

18 裁判 2

 さあ、反撃開始だ。

 こちらはギルマスのドゥウェインさんが証言する。一応、フィオナ嬢の情状証人として申請している。


「フィオナ嬢はギルドに貢献してくれてます。本当にいいお嬢さんです」

「分かりました。席にお戻りください」


 続いて、ゴードンが証言する。こちらも情状証人として申請している。

 因みにドゥウェインさんにもゴードンにも、今後不利益を被る可能性があることは、事前に話している。だけど二人とも「冒険者が権力に屈したら終わりだぞ」と言って、証言してくれることになった。


「フィオナ嬢のお蔭で、ダンジョンの最高踏破記録を更新できたからな。ダンジョンでは大活躍だったんだぞ。それにこのことは新聞に載ったんだからな」

「証人、関係のない話はやめなさい」


 法廷からクスクスという笑い声と「これだから平民は・・・」という嘲笑が漏れ聞こえる。

 ミケの件もあり、皆がそう思っている。


「関係なくはないぞ。その何だ・・・階段から落ちたとかいう事件の日、俺たちは一緒にダンジョンに潜ってたからな。事件の日付が違うんじゃないのか?」


 これは変えようがない。

 だって学校で大騒ぎになっているから、記録にも記憶にも残っているからな。事前につぶされないように敢えてここまで証拠を出さないでいたのだ。


 法廷内は静まり返った。

 焦った検事が言う。


「一緒にダンジョンに潜ったという証拠を出しなさい」

「証拠と言われてもなあ・・・」


 俺が助け舟を出す。


「裁判長!!ここに冒険者ギルドのギルマスがいます。ギルドカードを称号すれば、分かるんじゃないでしょうか?」

「・・・認めます」


 ドゥウェインさんが証言台に立つ。


「その日はよく覚えています。間違いなくナナ・・・ではなくフィオナ嬢は、ゴードンたちと一緒にいました。フィオナ嬢はナナという偽名で活動しておりました。ナナとフィオナ嬢が同一人物ということを証明するには、冒険者ギルドにある魔道具を使えばすぐに分かりますよ」


 法廷内がざわつく。

 裁判長と検事がこそこそと相談を始めた。


 ここで俺が動く。


「裁判長!!よろしいでしょうか?」

「何かね?」

「フィオナ嬢も被害者であるエミリー嬢も、目撃者であるレオナルド殿もアーノルド殿も嘘は言っていないと思います」

「それはどういうことかね」

「これは推測の域を出ない仮説ですが、何者かがフィオナ嬢を陥れようと画策した可能性があります。ここで実験をさせてください」

「認めましょう」


 ミケに金髪縦ロールのカツラを被らせ、法廷の中央で一回転させる。


「このようにするだけで、同じような背格好の女性であれば、遠巻きにはフィオナ嬢に見えます。被害者や目撃者がフィオナ嬢と誤認しても仕方がないことだと思います。ここで質問ですが、エミリー嬢。顔をしっかり見たわけではありませんよね?先程のエミリー嬢の証言では、走り去る後姿を見たとのことでしたが・・・」

「えっと・・・それは・・・その・・・」

「弁護人としては、フィオナ嬢が犯人ではなく、真犯人がいるものと推認します」


 真犯人なんていないと思う。

 多分、エミリーたちの自作自演だろう。ただ、ここでそれを証明することはできない以上、彼女たちにも逃げ道を用意した。これなら、双方が傷付かなくて済む。まあ、真っすぐで痛い兄貴フィリップは納得しないだろうが、これが俺なりに出した結論だ。


 それから、裁判長は検事、被害者と目撃者を集めて協議を始めてしまった。

 後は俺が差し伸べた手を掴んでくれれば・・・


 かなり長時間協議は続いた。

 その頃、ルートナー伯爵がフィオナ嬢に近付いて、耳打ちをしていた。


 一体、何を?


 しばらくして、ルートナー伯爵が声を上げた。


「裁判長。少しよろしいかのう?」

「どうぞ、弁護人」

「ここまで裁判を見て来て、儂としてはこんなことに時間を費やす暇はないと思う。これは儂の勘じゃが、他国の工作員の関与が疑われる。捜査局はこんなことに時間を費やすくらいなら、工作員の一人でも捕まえてこい」

「べ、弁護人、その辺で・・・」


 裁判長が恐縮している。

 裁判長を無視して、ルートナー伯爵は話を続ける。


「今回の件、被害者のエミリー嬢は大変つらい思いをしたのは理解できる。辛かったのう?」

「は、はい・・・辛くて悲しくて・・・後ろ姿しか見てないので、絶対にフィオナ様だったとは・・・」

「そういうものじゃ。逆にしっかりと顔を見たというのなら、自作自演が疑われるが、こんな可憐で無垢な少女がそんなことをするはずはないと儂は思う」


 これは上手い。こうなるとエミリーは悲劇のヒロインのままで、いられるからな。

 実際、隣りにいる皇太子はエミリーの手を握っているしな。

 母の情報のとおり、エミリーはかなりあざといし、頭も回るようだ。


「それと今回の事件、フィオナ嬢にも責任がある。素行不良学生であったことは間違いないし、もっと早く本当のことを言っていれば、こんなことにならなくて済んだのじゃ。皇太子妃に相応しい振る舞いとは思えん。フィオナ嬢、反省の弁を述べよ」


「せ、先輩!!もうその辺で勘弁してください!!被告人、証言をしなさい」


 後で聞いた話だが、裁判長はルートナー伯爵の後輩で厳しく指導されていたらしい。それでやりたい放題だったようだ。


「今回の件、私の個人的な理由で真実を言わなかったことは反省しています。自分でも皇太子妃に相応しくないと思っており、婚約はなかったことにと思っております。それと罪状にはありませんが、この場を借りて、エミリー様に公の場で恥を掻かせたことを謝罪いたします。申し訳ありません」


 法廷内がざわつく。


「静粛に!!今回の事件については、事情が事情だけに判決は後日とします。これにて閉廷!!」


 裁判長は無理やり裁判を終わらせた。


 閉廷後、ルートナー伯爵が俺に言った。


「センパイは魔法少年らしいのう。刑務官は世を忍ぶ仮の姿で、大いなる悪に立ち向かうためにそうしているのじゃな?安心せよ。このことは誰にも言わん」


 颯爽と立ち去るルートナー伯爵を見送る。

 盛大に勘違いしている。俺はただ、安定した生活がしたいだけなんだよ・・・



 ★★★


 3日後、フィオナ嬢の無罪が確定した。

 刑罰は科せられなかったが、学校側から停学1ヶ月の罰則を与えられた。まあ形だけのものだ。拘留期間をそれに当てるらしく、もう停学処分も受けたことになっているので、実質これ以上の処分はない。

 皇太子としてもフィオナ嬢との婚約破棄の理由ができたことで、一応は納得できる結果になったことが大きいと思う。

 また、捜査局は2人の工作員を拘束したと発表した。

 フィオナ嬢の事件とは全く関係ないのだが、面子を保つために泳がせていた工作員を拘束したようだ。     

 まあ、そんなものだろう。


 今回はすっきりしない結末となった。

 刑罰は科せられなかったが、フィオナ嬢は皇太子との婚約が破談になったし、一番被害を受けたのはどう見てもフィオナ嬢だ。それに素行不良学生というレッテルを貼られてしまった。


 もちろん許せないと思う気持ちもある。だが、一介の刑務官の俺にはどうすることもできない案件だ。

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!

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