17 裁判
再捜査の結果、フィオナ嬢の無実は証明できる。これが現代日本なら・・・
不安要素は別の所にある。相手が相手なのだ。
被害者は平民上がりの男爵令嬢エミリーだが、バックに皇太子ウイリアムとその取り巻きたちが付いている。また、捜査局の面子もある。つまり、でっち上げられる可能性もあるということだ。これは父の情報から推測したものだ。だって、殺人未遂事件の被疑者が罪を認めただけで退学処分で済むなんてあり得ない。捜査局としても、フィオナ嬢の自供がなければ立件は困難で、何とか穏便に処理しようと思っているのだろう。
だって、皇太子絡みの事件じゃなかったら、拘束すらされないだろう。いや、面倒くさいから「学校なんだから、そっちでやってよ。教育の一環として」と言って、捜査もしないかもしれない。過去を遡れば、痴情のもつれがエスカレートした、よくある話だ。
また、捜査局の中にも、冤罪を主張する捜査員がいるそうだ。これはマイケルからの情報だ。しかし、皇太子の命令だからやるしかない。役人のつらいところだ。だから、何が何でも有罪にしようとしてくるに違いない。
なので、法廷での戦略を練る。
その上で、弁護人となるルートナー伯爵に弁護方針を説明した。
「流石はセンパイじゃな。儂が見込んだだけはある。概ねそれで構わん。どうしても困ったら儂が何とかしてやる。まあ、期待せずにおってくれ」
「は、はい・・・」
多分、いつも通り何もしないつもりだろう。
★★★
裁判開始10分前、控室で最後の打ち合わせを行う。
証人として出廷予定のミケが怒っている。
「卑怯ニャ!!この国の司法は腐っているニャ」
「ミケ、落ち着けよ」
「だって・・・フィオナが可哀想すぎるニャ・・・」
ミケが怒るのも無理はない。
というのも、「教科書盗難事件」と「杖を折られた器物損壊事件」の無実を証明するための証人二人が辞退を申し出てきた。詳しくは聞かなかったが、圧力が掛かったのだと推測する。
「それはそうと、ミケは大丈夫なのか?」
「クロネコ商会は圧力に屈しないニャ。親友を見捨てることなんて、絶対しないニャ」
「分かったから、法廷ではちゃんと丁寧な言葉で喋れよ。それとこんな事態を想定して、対策を練って来たんだからな」
ミケ以外に情状証人として証言してもいいという学生もいたが、迷惑が掛かると思い、学生の証人は頼まなかった。別の証人は用意したけど。
「ドゥウェインさん、ゴードンさん、今日はありがとうございます」
「気にすんな。しかし、こんな事をやっているなんて、びっくりだぜ」
「言ったでしょ、ドゥウェインさん。刑務官は世を忍ぶ仮の姿だって・・・」
「そうだな。俺もおかしいと思ったんだよ。アレクがなぜ刑務官になったのかってな」
世を忍ぶ仮の姿ではなく、本当の自分だ。
安定した人生を送るためにこの仕事をしているんだ。二人は何か勘違いをしているようだけど、今はそれどころじゃない。
「では皆さん、行きますよ」
「はいニャ!!」
「おう!!」
「任せとけ!!」
「気合いは分かりましたが、丁寧で冷静に答えてくださいね」
★★★
裁判が始まった。
被告人席にフィオナが座り、被害者席にはエミリーが座っているのだが、その隣には皇太子とその取り巻きたちも座っている。無言の圧力を裁判官に掛けているのだろう。
捜査局の検事が罪状が読み上げ、フィオナに質問する。
「・・・以上が罪状です。被告人、間違いありませんね?」
「全く身に覚えがありません」
「再度確認します。間違いありませんね?」
「先程申し上げたとおり、全く身に覚えがありません」
法廷内がざわつく。
皇太子やエミリーたちが物凄くフィオナ嬢を睨んでいる。これには訳がある。俺は父と母に頼んで、それとなく噂を流してもらっていた。
「少しでも罪を軽くするために奔走している。無実は証明できないから、そちら方面に注力している」
貴族は噂好きだから、捜査局にも皇太子にもこの情報は伝わる。
だから、俺が色々と動いても妨害されることはなかったのだ。まあ、軽微な事件の証人はつぶされたけど、それも想定内だ。捜査局としては、メインの殺人未遂事件さえ立件できれば構わないしな。だから、後の軽微な事件なんて、碌に捜査もしてないのだろう。それで強引な手に出たようだ。
「仕方ありません。被告人、後悔することになりますよ」
「後悔はしません。神に誓って、私は無実です」
完全に対立した形で裁判がスタートする。
こちらの証人で最初に証言したのはミケだ。この国の裁判では、事前に証人が何を証言するかを捜査局に示さなければならない。日本人の感覚では無茶苦茶だと思う。だって、証人に証言させないことができるからな。実際、そうされたしな。
「フィオナ様は本当に人格者ですニャ。私たち平民、それに獣人にも優しく接してくれているニャ」
「分かりました。席にお戻りください」
「もっとフィオナ様の素晴らしさを話したいけど、仕方ないニャ・・・あっ!!思い出したニャ!!エミリー様の教科書が隠された時、別の場所でフィオナ様を見たという学生がいたニャ。それと杖が壊された時も別の場所で・・・」
「証人!!口を閉じて、席に戻りなさい」
ミケは強制的に席に戻らされた。
これはミケのアドリブだ。証人に圧力を掛けたことが、どうしても許せなかったみたいだ。伝聞証拠は基本的に証拠にならないが、フィオナ嬢に想いは伝わったと思う。
「ありがとう、ミケ・・・」
フィオナ嬢がつぶやくのが聞こえた。
それからは、被害者エミリーの証言や目撃証言などを中心に裁判が進んで行った。検事はフィオナ嬢が素行不良学生であるという証人も用意していた。皇太子と関係の深い学生と教師だ。証人の質だけで言うとミケとは比べ物にならないだろう。
粗方、証言が終った。
俺たちはここまで、反論せずに言いたい放題言わせていた。宮廷魔導士団長の令息レオナルドの証言は整合性がまだ取れていたが、第一騎兵隊長の令息アーノルドの証言は無茶苦茶だった。ころころ変わるし、明かに矛盾がある。しかし、敢えて指摘しなかった。
それは犯行時刻を確定させるためだ。
これまでの流れから、分が悪くなると犯行時刻を変更してくるだろう。そうさせないためにこれまで、言われっぱなしにしていた。
俺は被告人席のフィオナ嬢に耳打ちする。
「さあ、反撃開始だ」
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