15 再捜査 3
貴族学校にやって来た。
卒業して2年しか経っていないが、懐かしい感じがする。
「センパイ、準備は整っているニャ」
今回は、ミケが助手を務めてくれる。ミケからの依頼だから、当然と言えば当然だけど。
「捜査に協力してくれる学生は集めているニャ」
「ありがとう。でも数が多いな・・・」
「それだけ、フィオナが慕われているということニャ」
教室に集まったのは、総勢22名。その中には俺が3年生の時に面倒を見た班の学生もいた。
早速、全員に対して事情を説明し、その後個別に事情聴取した。
しかし決定的に無実を証明する証言はなく、「フィオナ様は悪くない」「フィオナ様はそんなことをする人じゃない」といった思いを述べるだけの者が大半だった。
「エミリーがフィオナ様に吊るし上げられたという件ですが、貴族の令嬢たちが『調子に乗っている無礼なエミリーに注意をしてほしい』とフィオナ様にお願いして、仕方なくそうしたんですわ。フィオナ様が率先して行ったことではありません」
まあ、そうなんだろうけど、だからといって、フィオナ嬢が罪を犯していないという証拠にはならない。
でもその中でも、多少は有用な証言も得られた。
「エミリーの教科書が盗まれたという事件についてですが、その日フィオナ様とは、冒険者ギルドの近くの路上ですれ違って、挨拶を交わしています。その日僕は、授業をサボって商業ギルドに新商品の企画説明に行っていたので、間違いありません。捜査局の事情聴取では、授業をサボったことがバレるのが怖くて黙っていました。すみません・・・」
ミケに確認してもらったところ、この証言は裏が取れた。
商業ギルドに記録が残っていたからな。
「皇太子殿下からプレゼントされた魔法の杖が折られた事件の犯行時刻、エミリー様を繁華街で見ました。このことは捜査局には言ってません。だって、夜遊びしていることを知られたら、婚活にも影響が出ますし・・・でも、フィオナ様を助けることができるのなら、恥を忍んで証言致しますわ」
そんな感じで、粘り強く話を聞いていく。
その結果、「教科書盗難事件」と「杖を折られた器物損壊事件」については、フィオナ嬢のアリバイが確認された。
「これで大丈夫かニャ?」
「軽微な2件の無実は証明できるが、メインの殺人未遂事件については、覆すだけの証言はなかったな。それに情状証人ばかりだし・・・」
情状証人とは、裁判で被告人の心証を良くするために証言する証人のことだ。
フィオナ嬢の有罪が確定した時には、多少役に立つとは思うが、無実を証明することはできない。
「センパイでも、今回は無理なのかなニャ・・・」
「気を落すな。裁判まではまだ時間がある。引き続き情報を集めておいてくれ」
「分かったニャ」
★★★
それから、色々と捜査をしたが、無実を証明する証拠は得られなかった。
そんな時、父から呼び出しがあった。時間になり、実家に向かう。
実家に着くと父と母だけでなく、マイケルとフィリップも集合していた。
食事を取りながら、話を聞く。
「慣れない夜会に出て、情報を集めてきたぞ。貴族どもの自慢話を延々と聞かされるのは、うんざりしたがな・・・」
「でも私は楽しかったわよ。なんか秘密のお仕事をしてるみたいでね。それと残念だけど、貴方も貴族よ」
父も母も普段は出ないような夜会に出て、情報を集めてくれていたらしい。
「それでだが、フィオナ嬢に同情的な意見も多い一方で、否定的な意見もある。大方が嫉妬だな。まあ、総合するとフィオナ嬢は皇太子妃に相応しい人物だと思う。私はフィオナ嬢がそんなことをするような者だとは思えない」
「私もそう思うわ。それとエミリー嬢だけど、あまり良い噂は聞かなかったわ。かなりあざとい娘のようね。女の敵ってあんな娘のことを言うのだと思うわ」
マイケルが口を開く。
「こっちは、エミリー嬢について、全く逆の調査結果が出ている。品行方正で文句のつけようのない令嬢だと資料には記載してあったな。しかし、詳しい経歴はいくら洗っても出てこなかった。逆に怪しいな」
「マイケル、その話だと私は敵国のスパイを疑うな」
「ええ、私もその線はあると思いますね。ここまで資料と印象が違う者も珍しいです」
「そうだわ。それと実家のルーカス男爵家だけど、火の車だそうよ。養女にしたのだって、何か裏があると思うわ」
「そうですね・・・以外にこの事件は闇が深いかもしれませんね」
俺を無視して、マイケルと両親で盛り上がってしまっている。
話に入れないフィリップが無理やり会話に入ってくる。
「えっと・・・アレク、何か困ったことはないか?変な奴らに着け狙われているとか、秘密の怪しい組織に命を狙われているとか・・・」
「ありがとうございます、フィリップ兄さん。今のところないから、安心してください」
「そ、そうか・・・」
会話が途切れた後、父が言う。
「アレク、あまり力になれなくてすまんな。一応法務省の知り合いに確認してみたら、罪を認め、婚約破棄するなら、退学処分だけで済むようなことを言っていた。納得いかんかもしれんが、そういった解決策もある」
「私も父上の意見に同意する。目撃者が第一騎兵隊長の令息と宮廷魔導士団長の令息だから、余程の事がない限り厳しいと思う。私が上司に掛け合えば、退学ではなく停学のうえ、卒業延期で済ませることができるかもしれない。納得はいかないが、人生は長い。こういった理不尽なこともあるものだ」
夢を諦めた二人の意見は理解できる。
父もマイケルも家族を養うために自分を曲げて頑張っているのだと思う。そういう現実的な解決策を教示してくれるのも納得だ。
そんな時、フィリップが突然声を上げた。
「兄上も父上も間違っているよ!!アレク、お前は正義を貫け。俺が何とかしてやる」
正論だが、それだけで世の中は渡っていけない。
また変な雰囲気になったところで、母が言う。
「どちらが正しいとも言えないわ。でも後悔だけはしないようにね。それとフィリップ、食事中に怒鳴ったら駄目よ」
「ごめんなさい・・・今日は俺、帰ります」
フィリップはそのまま家を出て行った。
時間を置いて、俺も帰宅することにした。
帰り際、母に言われた。
「フィリップはね、貴方が生まれた時、大喜びしたのよ。『これで僕もお兄ちゃんだ』ってね。それから何かと貴方の世話を焼くようになったけど、貴方は何でも上手くできたから、フィリップに頼ることもなかったわね。フィリップはいい子よ。だから、何かあればフィリップを頼ってあげてね」
「そうします」
そうは言ってみたが、フィリップに頼ろうとは思わない。
部屋に帰り、ベッドに転がる。
「なんか忘れているような気が・・・あっ!!」
そういえば、ギルドの調査依頼のことをすっかり忘れていた。
「とりあえず、資料だけは読むか・・・それで簡単な報告書を作って・・・」
そう言いながら、ドゥウェインさんから受け取った資料に目を通す。
「あれ?これって・・・」
衝撃の内容だった。
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