14 再捜査 2
次の日、俺はマイケルがいる教育省を訪ねた。
受付で用件を伝えると、すぐにマイケルの執務室に案内された。
「待っていたぞ。こっちに来い。応接室に資料を用意しているからな」
応接室に入ると、机に資料が山積みになっていた。
「こんなにあるんですか?ここまで多いとは・・・」
「ここだけの話、フィオナ嬢はああ見えて、かなり優秀な魔導士だからな。教育省でも調査の対象になっていたんだ。もちろん、皇太子殿下と婚約しているというのもあるがな」
「そうなんですね」
早速、資料を読み込んでいく。
まずはフィオナ嬢の個人情報についてだ。資料によるとジョブは「風魔導士」とあった。魔力量もかなり多い。
「なるほど・・・「風魔導士」だったんですね。全く知りませんでした」
「私としては、フィオナ嬢が羨ましいよ。私にも同じような才能があればと今でも思ってしまうな」
マイケルはそう言うが、マイケルは決して無能な魔導士ではない。
宮廷魔導士団で芽が出なかったのも、事情がある。宮廷魔導士団では、フィオナ嬢のような何かの魔法に特化した魔導士が優遇される。マイケルはジョブは「魔導士」だが、何かの魔法に特化しているわけではない。魔導士版の器用貧乏なのだ。
これが冒険者なら、かなりいい線まで行けると思うが、宮廷魔導士団は風魔法派閥や火魔法派閥などのような派閥があり、どの派閥にも入れないマイケルのような魔導士は冷遇される傾向にある。
「そんなことはないと思いますよ。マイケル兄さんも、凄い魔導士だと思います」
「気を遣わなくていいぞ。では私は少し仕事をしてくる。何か質問があれば、言ってくれ」
そう言うとマイケルは退出した。
俺は更に資料を読み込んでいく。
★★★
個人情報を把握した俺は、次に事件の詳細を確認する。
フィオナ嬢は10個の容疑で訴追されていた。一番大きなものは、同級生に対する殺人未遂だが、その他にも同じ被害者の同級生に対する度重なる嫌がらせ行為についても訴追されている。
「皇太子殿下の意向で、「立件できるものはすべて訴追しろ」との指示があった」
資料に書かれていたメモにはこのような記載があった。
メモはマイケルが書いてくれたものだ。
俺が来る前にマイケルなりに調査をしてくれたようだ。本当に有難い。
まずはメインの殺人未遂事件だ。
資料によると、被害者は同級生のエミリー・ルーカス。ルーカス男爵家の令嬢だが、平民出身だ。「光魔導士」という珍しいジョブ持ちで、将来性を見込んで、教会の紹介でルーカス男爵家が養女にしたようだ。金髪青目の美少女で天真爛漫な性格のようだ。身分に関係なく誰とでも同じ態度で接することから、エミリーのことを良く思っていない貴族の子女も多い。
事件が起きたのは、新学期が始まってすぐの4月15日午後2時15分頃、被害者エミリーが教室の移動中に北校舎の階段から何者かに突き落とされた。幸い軽傷で済んだのだが、皇太子ウイリアムの耳に入り、ウイリアムは激怒する。というのもウイリアムは、エミリーを憎からず思っているとのことだった。
天真爛漫で、皇太子の自分にも全く気兼ねなく接する美少女を好きになるなんて、よくある話だな・・・
そこからウイリアムが徹底した調査を指示し、直接の目撃証言はないものの、状況証拠から容疑者が浮上する。フィオナ嬢だ。
すぐに捜査局が捜査を開始した。捜査の結果、婚約者である皇太子ウイリアムとエミリーとの仲が深まっていくのに嫉妬したフィオナ嬢が、犯行に及んだというのが捜査局の見立てのようだ。
フィオナ嬢が容疑者として浮上した根拠は以下のとおりだ。
①被害者エミリーの供述
エミリーは「何か風魔法のようなもので吹き飛ばされた」と供述している。
フィオナ嬢は「風魔導士」だから、犯人像に合致する。
②目撃者の供述
皇太子ウイリアムの取り巻きで、旧騎士団の流れ汲む第一騎兵隊長令息アーノルド、同じく宮廷魔導士団団長令息レオナルドが揃って、「現場付近でフィオナ嬢が慌てた様子で、走り去っていくのを見た」との供述をしている。
③状況証拠
フィオナ嬢はエミリーを大勢の前で吊るし上げていたとの事実がある。
これについては、大勢の者が目撃しており、皇太子ウイリアムが仲裁に入っているので事実だ。
そして犯行時刻、フィオナ嬢にアリバイがない。
ここまで資料を読む限りでは、フィオナ嬢はかなり分が悪い。
俺が悩んでいると、マイケルが応接室に入って来た。
「アレク、あまり根を詰めるなよ。お茶でも飲め」
「ありがとうございます」
「それと追加の資料だ」
走り書きのメモだった。
仕事と言ってはいたが、マイケルは資料をまとめてくれていたようだ。しかし、フィオナ嬢にとっては不利な内容だった。
「信じられません・・・フィオナ嬢が素行不良学生だったなんて・・・」
「残念だが間違いない。教師や生徒から同様の証言があるし、記録にも残っているからな」
メモによると、フィオナ嬢は俺が卒業した翌年、つまりフィオナ嬢が2年生になってからは、遅刻や無断欠席がかなり増加している。また、俺が在学している頃は、帝都の別邸から通学していたが、2年生からは学生寮に入寮している。そして、無断外泊も繰り返しているようだった。
そういえば、2年生になってから、ミケと一緒にテスト前は必死で勉強していた記憶がある。1年生の時は、結構余裕そうだったのに・・・
ここまで証拠が集まれば、捜査局がフィオナ嬢を拘束したのも理解できる。後はフィオナ嬢を自供させればいいだけだからな。
「お前の見立てはどうなんだ?」
「今の段階では何とも・・・まだ追加の捜査が必要ですね」
「そう言うと思って、これを用意したぞ」
手渡されたのは、貴族学校への入場許可証だった。
痒い所に手が届くとはこのことだ。俺も現地での捜査が必要だと思っていたからな。
「何から何まですみません。マイケル兄さんも忙しいでしょうに・・・」
「気にするな。アレクが私を頼ってくれるなんて、滅多にないからな。嬉しいんだよ」
「恩に着ます・・・このお礼は・・・」
「だから兄貴に気を遣うな。ちょっとくらい我儘を言ってもいいんだぞ。まあ、頑張れ」
そう言うと、マイケルは再び退出した。
それから閉庁時刻まで、俺は資料とにらめっこを続けたのだった。
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