38.同室への依頼
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青木優吾、中村亘、斎藤卓也の三人は自分たちの部屋で各々のベッドに座っていた。その表情は一様に暗い。
「…どうするよ?」
「どうするって言われても…」
生気のない声で尋ねる優吾に同じく生気のない声で答える卓也、そしてお互いにため息をつく。こんなやり取りがもう三十分以上続けられている。
「正直手の打ちようがないですね…何かをしようとしても時間がありませんし」
眼鏡を吹きながら亘が諦めたような口調で言う。
「こんな急に言わなくてもいいのにな…心の準備もできねぇっつーの」
優吾は愚痴るようにそう言うとベッドに横になって天井を見つめた。
優吾たちがこういう状態になる一時間ほど前、大臣のカイルに呼ばれ謁見の間に来ていた。そこにはティアの姿はなく、カイルと数人の神官の姿があった。
「えーっと…俺たちなんか呼ばれるようなことしましたっけ?」
自分たちがなんで呼び出されたのか皆目見当がつかない優吾は恐る恐るカイルに尋ねる。隣では卓也が震えており、亘も緊張の面持ちで立っていた。
「ユウゴ殿、そう恐れることはない。別にお主らを罰するためにここに呼び出したわけではないのでな」
カイルが笑いながらそう言うと、優吾たちは安堵の吐息を漏らした。
「それではなぜ私たちはここへ?」
処罰のために呼ばれたわけではないと分かったので緊張は幾分和らいでいるが、それでも呼ばれた理由がわからない亘がカイルに問いかける。
「うむ、実はお主らに王国から依頼をしようと思ってな」
「王国からの依頼…」
卓也がごくりと唾をのむ。王国からの直々の依頼が単純なものであるはずがない、それがわかっているため身体がぶるりと震えた。
「諸君らは竜人種を知っているな?」
「え?あぁ、座学で習ったな。竜みたいな人間だっけか?」
「…竜人種とは竜の血と人の血を併せ持つ亜人族の一つ。見た目は人族と変わらないがその身に竜の力を宿しており、普通の人族とは比較にならないほどの戦闘力を有する、と教えていただきました」
優吾のあいまいな答えを補足するように亘が続ける。それを聞いたカイルは満足そうに頷いた。
「うむ、よく学んでいるようで安心したぞ」
「その竜人種と私たちに何の関係が?」
一向に話が見えない亘は首を傾げた。
「竜人種が住まう地は知っておるか?」
カイルに聞かれ、優吾が亘の方を向くが首を左右に振る。すると何かを考えていた卓也がおもむろに口を開いた。
「えーっと…竜人種はこの地から海を渡ったサリーナ地方の『龍神の谷』というところに住んでいたはず」
「おぉ、そこまで知っておったか!これは感心感心!」
カイルに笑顔で褒められ、卓也があいまいな笑みを浮かべる。
「卓也君よく知っていましたね。たしか授業ではそこまで聞いていませんが」
「うん。この城の書物庫で竜人種に関する本があったからね。それで読んだことがあったんだ」
「はぁー…流石本の虫だな」
優吾が感心したような呆れたような声で言った。
「そこまでわかっているなら話は早い。諸君らにはこれから『龍神の谷』にいってもらい、竜人種との交渉にあたってもらう」
カイルの発言を聞いた三人はポカンと口を開いた。言われていることの意味は分かるが理解ができていないといった様子である。
「…詳しい話を聞いてもよろしいですか?」
一番最初に我に返った亘が抑揚のない声で聞いた。
「お主らも知っての通り、竜人種はとても強力な種族だ。これから魔族との戦いで是が非でもこちらの戦力に引き入れたい」
「…でも本には森霊種以上に閉鎖的で、多種族との関りを持とうとしないって書いてあったけど」
「彼らは自分達の種族を何より大切にしている。そのため五年前の魔族との戦いでは、自分たちの種族にも害が及ぶと人族側で参加してくれた。今回もこちらの陣営として戦いに参加していただきたい旨を伝えてきてほしい」
「…もし交渉がうまくいかなかったら?」
極力平静を装って尋ねたつもりであったが、優吾の声は若干上ずっていた。
「最善は共闘だが最悪は魔族側についてしまうこと。協力が得られないのであればどちらにも手を貸さぬよう、静観を決めこんでもらいたい」
カイルの話を聞いて、三人は顔をみあわせる。少し悩んだ後、優吾が意を決して三人が共通して思っていることを口にした。
「そもそもなんで俺達なんすか?こんな大役、他に適任がいるでしょう?」
カイルがとってつけたような笑みを浮かべる。
「お主らが優秀だからだ」
「「「へっ?」」」
あまりにも予想外の返答に三人は間の抜けた声を上げた。
「まずはユウゴ殿。貴殿の【商人】のスキルには【交渉術】のスキルが含まれている。このような大事な交渉事には貴殿のそのスキルがどれだけ重宝するかわかるだろう?」
「あー…まぁそうか」
「そしてワタル殿。貴殿の冷静な判断力はこれから見知らぬ土地に行くお主らにとって最も必要な力の一つ。予期せぬ事態が起こったときに、貴殿が的確な判断を下すことにより問題なくことをなせるであろう」
「…評価していただいて嬉しい限りです」
「最後にタクヤ殿。貴殿の知識量にはまことに感服した。さらに【司書】のスキルの本を通る能力を活用してこの旅で見た土地の地図を作っていただきたい。頼めるか?」
「…僕が本と認識するものは作ることができるので、おそらく地図も作れると思います」
「ならば結構!他に質問はあるか」
「……………」
三人は俯いたまま答えない。
「よし、それでは早速『龍神の谷』に向かってくれ。移動には王国の’グリフォン’を貸し与えるのでそれを利用するように」
「「「はい…」」」
三人は力なく返事し、謁見の間を後にする。三人の姿が完全に見えなくなるとカイルは満足そうな笑みを浮かべた。
「よろしかったので?」
神官の一人がカイルに声をかける。
「誰かがやらねばならない任務だ。『龍神の谷』には魔物も数多く存在するため多少は腕に覚えがなければ竜人種に会う前に死んでしまう。仮にあの三人を失うことになろうとも我々には【勇者】と【聖騎士】、【剣聖】、そして【聖女】さえいればどうとでもなる」
「いえそのことではなくて」
神官が周りを気にするように声を潜めた。
「女王に知らせなくてよかったので?」
神官の言葉を聞いたカイルがつまらなそうに鼻を鳴らした。
「なんだそんなことか。あのような小娘に適切な判断が下せるわけもない。報告したところで無駄なこと。せいぜい良い傀儡を演じてもらおうではないか」
それだけ言うとカイルは踵を翻し、自分の部屋へと戻っていった。
そのようなことを経て、今に至る。
どうすることもできないということはわかっているのだが、どうしても部屋から出る気が起きない。
「これってさぁ…もしかしたら…」
優吾はそこで言葉を切る。この先を口にしてしまうと、自分でそれを認めることになりそうで嫌だった。
「もしかしてではなく普通に捨て駒でしょう。まぁ竜人種との交渉は必要なことなので誰かがいかなければならないですが、それは失っても痛手でない人物でしょうね」
「だよなぁ…」
優吾は両手を枕にして諦めたように呟く。
「卓也、竜人種ってのは凶暴なのか?」
「それはわからないけど…自分たちの領土を侵すものには容赦ないって書いてあったな」
「…私たちが侵略者と思われたら無事では済まない、ということですね」
三人は大きくため息をついた。
「…ここで悩んでてもしょうがありません。行ってみて何らかの対策を練りましょう」
亘の言葉を頷くと、三人は立ち上がった。
「姐さんにはどうするよ?」
「…美冬さんには話さない方がいいと思います。怒り狂って魔法による直談判ってことになりかねませんから」
「美冬さんならやりかねないね」
「じゃあ姐さんには内緒ってことで、そうと決まったらちゃちゃっと行きますか!」
自分を無理矢理鼓舞しながらグリフォンのいる馬宿に向かう。美冬に会わないように慎重に行動した三人だったが、馬宿の前にいる仏頂面の人物を見てその場に立ちすくんだ。
「………なにそんなあほ面浮かべてるの」
そこには少し機嫌の悪そうな北原美冬が立っていた。
「な、なんで姐さんがこんなところに?」
優吾は内心パニックになりながらもやっとの思いで声を絞り出す。
「………『龍神の谷』に行くんでしょ」
「っ!!?」
驚きのあまり声を出すことができない三人を見て美冬はニヤリと笑った。
「………あんたたちのことでボクが知らないことは何もない」
さらっと怖いことを言われる。
「…どこで知ったかは知りませんがこれは私たちに課された依頼。美冬さんに迷惑をかけるわけにはいきません」
気を取り直した亘は眼鏡をくいっとあげて美冬に言った。美冬は眉を顰めるとすたすたと亘の前まで歩き、跳び上がると思いっきり脳天にチョップをかました。
「痛っ!!な、なにするんですか!?」
頭をさすりながら亘は涙目で訴える。美冬はやれやれと肩を竦めた。
「………あんたら三人への依頼は姉御であるボクへの依頼」
「っ!?あ、姐さん!!」
「…美冬さんって僕らの姉御なんだ」
ぺったんこの胸をそらしながら自信満々に言い放った美冬に優吾が尊敬のまなざしを向ける。その隣で卓也は意外と姐さんって言われるの気に入ってたんだ、と内心思っていた。
「まぁ美冬さんは止めても聞かない人なので、私たちにはどうすることもできませんか」
「………亘、生意気」
「痛っ!?」
美冬は無表情で亘の脛を蹴り飛ばす。あまりの痛さに亘はうずくまった。
「………こんなことしている時間はない。優吾、亘、卓也、さっさと行くよ」
「りょーかい!!」
「わ、わかったよ!!」
「…痛くて動けないんですが」
若干一名、恨みがましい視線を向けているが美冬は気にせず馬宿に入っていく。
中には十頭もの’グリフォン’が並んでいた。その姿は鷲の翼と上半身、そしてライオンの下半身を持っており、そのランクはB。非常に温厚な性格で頭もよく、人を乗せて空を飛ぶように躾をすることもできる。人を四,五人乗せることのできる体格を持つ。
美冬たち異世界人は基礎訓練として馬上訓練およびこのグリフォンの騎乗訓練も受けていた。そのため’グリフォン’に乗っての飛行は特に問題なく行うことができる。
適当な’グリフォン’を選ぶと縄を外し、その上に専用の鞍をつけた。美冬は三人を先に乗せ、’グリフォン’に手を添えながら庭へと出ていく。誰もいないと思っていた庭には’グリフォン’にまたがった先客がいた。
「………隼人」
「やぁ、美冬。こんなところで会うなんて奇遇だね」
笑顔を向ける隼人とは対照的に美冬はいつもの通り無表情を貫く。
「………何してるの?」
「ん、ちょっとね」
「………いくら【剣聖】でも’グリフォン’を勝手に使うことはできないはず」
「そうなんだよね。だから俺の姿を見たってことは秘密にしておいてくれないかな?」
飄々とした態度で言う隼人に対し、美冬は目を細める。
「………行くの?」
「……………」
美冬の問いかけにも隼人は笑顔を浮かべるばかり。
「………原因は優吾たち?」
事の成り行きを黙ってみていた三人の方へ美冬はちらりと視線を向ける。
「…それもあるけどね。一方的な情報は情報にあらず、てね」
隼人は手綱を引っ張った。隼人の’グリフォン’が羽ばたき始める。
「じゃあ、俺はいくけど、美冬も気を付けてね」
「………隼人に心配されるまでもない」
最後まで無表情だった美冬に微笑みかけると、隼人を乗せた’グリフォン’は空へと駆け上がっていった。それを何とも言えない表情で見つめる美冬。
「………本当、馬鹿なんだから」
美冬の呟きは優吾たちにも聞こえないほど小さなものだった。




