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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『炎の山』と狐人種の少女
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34.フランとタマモ

 《太陽の宿》に着いたのは日が傾きかけてきた頃であった。宿に入るとカウンターに女将のフローラはおらず、代わりに玄関ホールを浮かない顔で掃除しているフランの姿があった。なにやら考え事をしているのか、昴が入って来たことには気付かず、同じどころを掃いてはため息をついている。


「フラン?」


「はぁ…」


 昴が声をかけるも心ここに在らずといった様子。


「フラン!」


「は、はい!すいません、ちょっと心配事がありまして…」


 慌ててこちらを向いたフランは昴の顔を見た瞬間、身体が硬直した。口をポカンとあけて昴の顔を凝視している。


「いろいろあって昨日はマルカットさんのところにお世話になったんだよ。無断で泊宿を空けちゃって悪かったな」


「あっ…あっ…」


 フランはゆっくりと昴に近づくと、そのまま昴に抱きついた。突然のことに昴は慌てふためく。


「な、なんだ?フラン一体―――」


「よかった!スバルさんが無事で本当に良かったです!」


 フランが昴の胸の中で涙を流す。


「昨日は魔物大暴走(スタンピード)が起こると聞いて…そしたらスバルさんが宿に帰ってこないから…心配で心配で…」


「あー…そいつは申し訳ないことをしちまったな…ただ恥ずかしいからもう少し離れてくれると助かる」


 昴が顔を赤くしながら言うと、フランはハッとすると昴から慌てて離れた。その顔は昴よりもさらに赤い。お互いになんとなく気まずいのか顔を見ることができない。


「…うちがいることを忘れないで欲しいのじゃ」


 蚊帳の外にされたタマモが不機嫌な声を上げる。昴しか目に入っていなかったフランは隣にいる金髪の狐の少女にの方を見ると目を丸くした。


「スバルさん…こちらの女の子は?」


「あぁ、こいつはタマモっていって俺の」


「仲間じゃ!!」


 タマモは意気揚々と言い放った。タマモのことを他の人に説明するにはあまりに事情が複雑であったため、必要でない限り昴とタマモは仲間だ、という一点で押し切ることにしていた。タマモも仲間という響きが気に入っていたので特に異論を挟まなかった。


「仲間…ですか?」


「そうなんだ。タマモも俺と一緒でサリーナ地方に行きたいらしく、冒険者にもなりたいってうから、せっかくだし一緒に行こうかって話になったんだよ」


「そうなんですか…」


 フランは不思議そうに昴を見つめる。


「あれ?なんかおかしかったか?」


「いえ…こんな小さな子が冒険者になることを…魔物と戦うことを昴さんがなんとも思わなかったのが少し不思議で…」


「それはタマモが戦えないと思ってのことか?」


 昴がタマモの方を見ると不満そうに唇を尖らせている。


「失敬な!うちは戦えるのじゃ!魔物なんてへのへの屁の河童なのじゃ!うちは強くて可愛いタマモちゃんなんじゃぞ!?」


 フランはくすりと笑うとタマモの手を握る。


「ごめんなさい、タマモちゃん。私はこの宿で働いているフランと言います。よろしくお願いします」


「うむ!こちらこそよろしくなのじゃ!」


 タマモは繋いでいる手を元気よくブンブンと振った。ちょうどその時、奥からフローラさんがやってくると、昴を見て目を丸くする。


「おやまぁ、昴さん無事帰って来たのかい?心配したんだよぅ」


「フローラさん。ご心配かけてすいません」


「まぁ一番心配していたのはこの娘だけどねぇ」


「お、おかあさん!」


 フローラがからかうような口調で言うとフランはまた顔を真っ赤にさせた。


「おや、見慣れない子もいるねぇ…スバルさんの連れかい?」


 娘の近くにいる狐人種の少女に気がついたフローラが昴に尋ねる。


「はい。なので俺と同じような部屋をもう一つ」


「一緒がいいのじゃ」


 いつのまにか隣に来ていたタマモの顔を見る。


「いや俺の部屋は一人部屋だから」


「一緒の部屋じゃないと嫌なのじゃ」


 タマモが真剣な眼差しを昴に向ける。その様子がどこか必死で無下にするには抵抗があった。昴は軽くため息をつくとフローラに申し訳なさそうな顔を向ける。


「すいませんフローラさん。二人部屋って空いていませんか?」


「空いてるから安心しな!それにしても随分甘えん坊のお連れさんなんだねぇ」


「べ、別にそういうわけじゃないのじゃ!」


 タマモが顔を赤くしながらプイッとそっぽを向く。後ろでフランがクスクスと笑っていた。


「助かります。それと女性用の下着とかってここで売ってたりします?」


「この宿ではそういうのは売ってないねぇ…なんだい、この子の服とかないのかい?」


「えぇ。今着ている服しか持っていなくて」


 昴が困った顔でそう言うとフランが明るい声を上げる。


「これから夕飯の買い出しに行きますので、タマモちゃんも連れていって買って来ますよ!」


「そうか?それなら俺も一緒に」


「スバルさんはダメです」


 一緒について行こうとした昴をフランがきっぱりと断った。


「女の子の買い物は女の子だけで行かないと。男の人には見せたくないものもあるんです」


 ね?とタマモに視線を向けると、タマモは少し迷ったが「のじゃ!」と元気よく頷いた。


「スバルはここでお留守番なのじゃ!」


「それはいいけど…大丈夫なのか?」


 タマモはフランの顔を見つめる。


「フランは大丈夫なのじゃ!いい人だってことはうちにはわかるのじゃ!だから二人で行ってくるのじゃ!!」


 笑顔で言うタマモを見て、昴は「そうか…」と呟くと、”アイテムボックス”から15ガル取り出し、フランに渡した。


「これでこいつの好きなものなんでも買ってやってくれ」


 フランは大金に驚きながらも、スバルから渡された金貨を握りしめ「まかせてください!」と昴に笑顔を向ける。


「タマモ、あんまりわがまま言ってフランを困らせるなよ?」


「大丈夫なのじゃ!」


 タマモは自信満々に鼻からフンっと息を出した。


「それじゃ、俺は部屋で休んでるから、帰ってきたらここで飯を食おう。ここの飯はうめーぞ?」


「それは楽しみなのじゃ!フラン、早く買い物に行くのじゃ!!」


 タマモはフランの手を取ると一目散に宿から出て行った。それを苦笑いで見送りながら、フローラにタマモの宿泊代を支払うと昴は部屋へと向かった。部屋に入るとそのまま倒れるようにベッドに横になり、昴は深い眠りについた。



 フランとタマモが帰ってきたのは日が完全に落ちきってからであった。寝ているところに容赦なく飛び乗ってきたタマモに起こされた昴は、そのまま連れられて食堂に向かい、フランと三人で夕飯を食べた。

 タマモはご飯の美味しさに感動しながら四回もおかわりをし、フランを驚かせた。

 買い物では日常品を中心に、タマモが今の服装が気にいっているので古着屋で似たような服を何着か買った、とフランとタマモが楽しそうに昴に報告する。いつのまにか二人が仲良くなっているのを見て、自分以外の人にもタマモが心をひらくことがわかり、昴は内心ホッとしていた。


 夕食を終えるとフランと別れ、部屋に戻った二人は順番に布で身体を洗った。タマモは自分のベッドのふかふか具合に満足していると思ったら、あっという間に眠りに落ちた。昴もそれを見届けてからそっと目を閉じた。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 横向きに寝ていた昴は目をさますと背中に気配を感じた。振り向くと寝間着姿のタマモが自分のベッドから抜け出し、昴の背中にひっついて寝ていた。昴はタマモを起こそうと手を伸ばしたが、その目元に涙の跡を見つけその手を引っ込める。そのままタマモが目を覚ますまで身体を動かさずに待った。

 しばらくするとガバッと身を起こしたタマモが何かを探すかのようにキョロキョロと辺りを見回す。そんなタマモの頭にそっと手を伸ばした。


「大丈夫。タマモのことを置いて行ったりしねーよ」


 タマモは昴の顔を見ると安心したやら気恥ずかしいやらで布団の中に身を隠した。


「………のじゃ」


「ん?なんだ?」


 布団の中からモゴモゴと言うタマモに昴が聞き返す。


「着替えるからタマモバッグを出して欲しいのじゃ」


 タマモは買ってきた洋服や下着を一つの麻袋にまとめて昴に渡していた。昴は”アイテムボックス”からタマモバッグを取り出し、タマモに渡すと、自分は手早く着替えてそのまま部屋を出て行った。

 《太陽の宿》の中庭にある井戸の近くで歯を磨いていると、後ろからトコトコとタマモがやってきて顔を洗い始めた。黄色い寝間着からちゃんと着替えており、上は白いTシャツ、下は昨日新しく購入した青色の袴を履いていた。


「タマモ、朝飯食ったら冒険者ギルドに行くぞ」


「んあー。わかったのじゃ」


 タマモが顔を拭きながら答える。冒険者ギルドの説明は昨日夕飯を食べながらフランがタマモにしてくれた。昴が井戸の水で口をすすぐ。


「それより、冒険者ギルドではお前の素性を説明しなきゃならないんだがかまわないか?」


「んー…昴が話した方がいいと思う相手になら問題ないと思うのじゃ!そもそもうちはあんまり気にしてないのじゃ」


「そうか…まっとにかく飯食いに行くか!」


「のじゃ!」


 昨日の夕飯がそんなにおいしかったのか、タマモは目を輝かせながら食堂に向かう昴について行った。


 フランと仲良く朝食をとった二人はその後すぐに《太陽の宿》を後にし、冒険者ギルドへと向かった。


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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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