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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
サロビア平原の戦い
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18.金髪残念狐っ娘

 失いかけていた意識がまるで霧が晴れていくように鮮明になっていく。目の前にいる人が自分の知っている人であることは理解できるが、それが現実である事を認識することはできないでいた。


 自分は夢を見ている、今の今まで戦っていたのだからそんなことはあり得ないのだが、今の状況の方が雫にとってはよっぽどあり得ない。


 雫が目を見開いたまま声を出せないでいると、振り返った昴がばつが悪そうな表情を浮かべ、曖昧に笑いかけた。


「あー……遅くなって悪りぃ。あと黙って消えてごめんなさい」


 その声、その口調は雫の知っている昴のものであった。


「………昴なの?」


 やっと絞り出した声は自分のものじゃないような無機質なものだった。ありとあらゆる感情が生まれ、上手く喋れる気がしない。昴は雫の目を見ながらゆっくりと頷く。


「優吾達に聞いたけど俺は死んだことになってんだってな。心配かけてごめん」


 答え方も謝り方もあまりに懐かしくて雫の目から涙がこぼれる。雫はやっと自分を助けてくれた目の前に立つ男を昴だと認めることができた。


 倒れこむように昴になだれかかると、泣きながらその胸を何度も何度も殴りつける。


「バカっ!!いきなり居なくなっちゃって!!挙げ句の果てには死んじゃっただなんて…あたしがどれだけ悲しんだと思ってるの!?」


「……悪かったよ」


 微妙な顔をしながら自分の胸にいる雫の頭をポンポン叩く。雫が本気で怒っているのを感じている昴はしばらくされるがままであった。


「くそっ!!」


 昴に蹴り飛ばされたウォックが悪態をつきながら立ち上がる。


「攻撃しなくていいのっていうか」


 いつのまにか近くに寄っていたビルがウォックに顔を向けながら聞いた。ウォックは蹴られた脇腹を抑えながら昴を睨みつける。


「あの男……」


「油断するな。不気味な奴だ」


 ビルの後ろに立つジンロが警戒の色を濃くしながらウォックに忠告すると、ウォックは黙って頷いた。

 アニマトリウスの彼等は獣の力を取り込んでいるため相手の強さに敏感であった。突然現れた黒髪の男、昴からは雫どころか雑魚と認識している騎士よりも力を感じない。にも関わらず、本能があの男とは戦ってはいけないと警鐘を鳴らしていた。


「何者なんだ……やつは」


 ウォックは静かに呟くと謎の乱入者の出方を窺うためにスッと目を細めた。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 雫達とは少し離れた所で優吾とさおりは騎士達を助けるべく奮戦していた。


「くっ……このバカ力がぁぁぁ!!」


 優吾は'グリズリーベア'の拳を盾で受け止め、そのまま押し殴りながら吠える。'グリズリーベア'は少し体勢を崩しただけで、再び優吾に殴りかかった。


「く、そ……これじゃあ騎士達を助けるどころじゃねぇぞ!!」


 必死に盾で攻撃を耐えながら後ろにいるさおりに話しかけるが、さおりは数匹の'サーベルタイガー'相手にかなりの苦戦を強いられている。全開の状態ならまだしも、今のさおりは疲労困憊で、'サーベルタイガー'からの猛攻を防ぐので精一杯だった。

 優吾は舌打ちをしながら騎士達に目を向ける。死亡者はまだ出ていないようだが、少なからず戦闘不能者が出ており、隊が崩壊するのは時間の問題であった。


「まずいまずいまずい……!!」


 ジリジリと後ろに下げられながら優吾は必死に頭を回転させる。自分のユニークスキルにこの戦況を打破するスキルなんてない。美冬に鍛えられた魔法も、こう連撃を加えられると詠唱している間にやられてしまう。なんとかさおりだけでも、と思うが、正直疲弊しているとはいえさおりはこの場の防衛の要。抜けてしまった時点で全滅は免れない。


「どうする……どうしたらいい!!」


 力のない自分を呪いながら後ずさる。自分の背中に何かが当たりちらりと目をやると、同じように後退させられたさおりの姿があった。


「石川……」


「まいったねこりゃ……」


 優吾の声に反応して振り向いたさおりが力ない笑みをこちらに向ける。その顔を見て優吾の心がぎゅっと締め付けられた。

 優吾は魔物達の方に向き直り、覚悟を決めるとさおりの方を見ずにその小さな手を握る。


「大丈夫だ。俺が守ってやる」


 優吾は怒りを感じていた。さおりにあんな顔をさせた魔物に、自分にどうしようもないくらい腹が立っていた。余裕を思わせるように薄く笑みを浮かべる。


「こんな苦難、姐さんのしごきに比べたらわけない!!それに……」


 ギュッ、と握る手に更に力を込めた。


「好きな女くらい守れない青木優吾じゃないぜ!」


「おっ?ユウゴもやっとうちの魅力に気づいたんじゃな!!」


「あぁそうだ!!お前の魅力に……」


 じゃな?おいおい、いつからそんな語尾で話すようになったんだ?それじゃあまるで自称・美少女の金髪残念狐っ娘みたいじゃないか。っていうか石川って意外と手が小さいんだな。なんか中学生と手をつないでいるみたい…。


 優吾が恐る恐る首を動かすと、そこには満面の笑みを浮かべた自称・美少女の金髪残念狐っ娘が立っていた。光の速さで首を戻して前を見る。優吾は大きく深呼吸してからもう一度振り返った。


「なんじゃ?そんなあほ面なんぞして?」


 状況は一切変わっていなかった。自称・美少女の金ぱ……タマモが訝しげな表情を浮かべながらこちらを見ている。ゆっくりと視線を下げると、自分の手がタマモの手を愛おしそうに握っていた。


「なんでお前がいんだよっ!!」


 勢いよく手を払いのけながらタマモを指さす。タマモは払いのけられた手をブラブラしながら唇を尖らせた。


「せっかく助けに来たのにそんな言い方はないのじゃ!」


「助けに……?」


「うむっ!!」


 自信満々に胸を張るタマモ。その後ろにいるさおりは状況が全く飲みこめず目を白黒とさせていた。


「ちょ、ちょっとっ!!一体どうなってるの!?この可愛い女の子は誰っ!?」


「うちは超絶美少女のタマモちゃんなのじゃ!!」


「あっ、よ、よろしく……」


 危機的状況だというのに、笑顔で自己紹介をしながらタマモが手を伸ばすのでさおりは戸惑いながらその手を握り返した。そんな二人を見て優吾が大きくため息を吐く。


「タマモがいるってことは昴も来てるのか?」


「おっそうなのじゃ!!一度皆を昴のところへ連れて行かなければならないんじゃ!!」


 タマモは思い出したように手をポンッと叩いた。


「そうしたいのは山々なんだが……」


 優吾が周りを見渡す。タマモが来たからといって何の状況も変わっていなかった。依然として優吾達は魔物に囲まれており、騎士達は必死に魔物と戦っている。タマモも優吾と共に周りを見ながら、後ろで戦う騎士達を指さした。


「あの者たちは仲間なのかの?」


「あぁ、そうだ。魔物達をどうにかしねぇと」


「うちに任せるのじゃ!!」


「まかせるって……」


 一体どうするんだ、と声をかけようとした優吾だったが、あふれ出したタマモの魔力を見て思わず口をつぐんだ。さおりも狐耳の年下の女の子から自分達では考えられないほどの巨大な魔力を感じ、大きく目を見開いてタマモを見つめる。


「そこそこ強そうな魔物もおるようじゃからの、手加減は無しじゃ!!」


 全力で魔法が撃てることに喜びを感じながら、タマモは両手を開いた。


「“無限に続く火炎の奔流インフィニティブレイズ”!!」


 可愛い声で詠唱されたその魔法の威力はすさまじいものだった。タマモの両手から吹き出した炎は円を描きながら瞬く間に周囲に広がっていく。タマモが使用できる最上級魔法の中で最も範囲殲滅に優れている魔法。タマモの周囲三百メートル程を渦巻きながら魔物たちを一匹残らず燃やし尽くしていった。


 さおりだけでなく、それまで必死に戦っていた騎士達も茫然とタマモの魔法を見ている。自分達が炎の中にいるのに焼かれないのはなぜなのかとか、あの狐人種の少女は何者なのかとか、そんな疑問も浮かばないほど頭が真っ白になりながらその場に突っ立ていた。


 優吾だけは昴やタマモのハチャメチャ振りを話には聞いていたので、さおり達のように何も考えられないほど驚きはしない。それでも実際に目にするのは初めてだったので、顔を引き攣らせて魔法を見ながら「タマモをからかうのは控えよう」と心の中で誓いを立てていた。


「ふぅ~!!久しぶりに全力で魔法が撃ててすっきりしたの!!これくらいの魔法操作なら問題なさそうじゃな」


 後に残るのは魔物の骨と何かが焦げたような匂いだけ。魔法に長けた美冬ですらここまでの大魔法を、しかも任意の相手を傷つけないように放つなんてできはしない、と優吾は思っていた。全員が現実を受けいられていない状況の中タマモは楽しそうに優吾に笑いかける。


「さーて、昴のところへ急ぐのじゃ!!」


「無茶苦茶だな……お前……」


 優吾がさおりの顔の前で手を振ってみるも一切反応はなし。優吾は再度ため息を吐くと大声でさおりと騎士たちに告げる。


「ぼーっとしてんじゃねぇぞー!!とにかくこのちっこいのについて行くから遅れないようにな!!」


「ちっこいは余計じゃ!!」


 タマモは優吾を睨みつけると昴のいる方角へと走り出した。優吾も後ろを気にしながらそれに続いていく。さおりと騎士達は何もわからないまま、その後について行くしかなかった。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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