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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
サロビア平原の戦い
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8.狂戦士の力

 際限なく現れる’イビルラット’と’ダークラビット’を蹴散らしながら勝と誠一はひたすら前に進んでいく。その後ろを多少の傷を負いながらも騎士達が続いていた。


「こんだけいると気配を感知するのも無駄ってもんだな」


 うっとおしそうに’イビルラット’を殴り飛ばしながら誠一は【気配網羅】のスキルの発動を止める。魔物との戦いが始まってから一時間弱、勝と誠一に疲れた様子はまだない。


「あーあ…コアがもったいねぇ。こんだけの量を冒険者ギルドに持って行けばかなりの金になるだろうに」


 誠一はちらりとおびただしい数の魔物の死骸が転がっている後ろに目をやりながらぼやいた。そんな誠一に襲いかかってきた’ダークラビット’に勝がバトルアックスを叩きつける。


「加藤、集中しろ」


「わかってんよ。でも集中しっぱなしじゃもたねぇぞ?お前は気張りすぎだ」


「むぅ…」


 戦闘が開始してからずっと肩に力が入っている勝を窘めるように誠一が告げる。


「それにしても…」


 誠一に言われ少し落ち込んでいる様子の勝のことなど気にも留めず、前からやってくる魔物の群れに目をやった。


「こいつらのステータス…’操り’の状態異常がついてやがんな。どうりでいくら倒しても引かねぇわけだ」


 誠一は敵意むき出しのネズミとウサギを見ながら舌打ちをする。


「たくっ…前田と同じスキルを持つ奴が相手にいるとはな。まぁそうじゃなきゃこんなに魔物を集めることなんてできねぇか」


 顔を顰めながら愚痴るように呟く。誠一のもつ【盗賊】のスキルには【鑑定】と呼ばれるスキルがあった。このスキルは絵画や骨董品、魔物の素材などの価値が見るだけで自然と頭に浮かぶ、というものなのだが、力の差がある相手に使うとその者のステータスを見ることができるという便利なスキルであった。


「前田と同じスキルなら」


「あぁ。操者をやれば魔物の相手をしなくて済むかもしれねぇが…ここまでひっきりなしに来られると動きがとれねぇよ」


「前進あるのみ」


 考えるのが苦手な勝はそういうことは誠一に任せ、目の前に現れる魔物を無心で倒していく。その後ろに隠れるようについて行きながら誠一は魔物が何者かに操られている事実を雫達に知らせる術を考えていた。


 「騎士団の奴に頼んだとしてもこうも混戦状態だと上手く伝えられそうにねぇし、俺がこの場を離れるわけにはいかねぇし…やっぱり厳しいか」


 ぶつぶつと独り言をつぶやいていると、それまで順調に前を行っていた勝が不意に立ち止まる。考え事をしていた誠一は勝の背中にもろにぶつかり後ろに倒れた。


「痛てぇなっ!!急に止まるな!!」


 誠一の悪態にも反応せず、勝は前を見据えている。不審に思った誠一は立ち上がりながら隣に移動し、勝が見ているものに視線を向けた。


「こいつぁ…」


 誠一が目の前に佇む二種類の魔物を見て顔を歪める。

 ランクCモンスター’ブルーブル’。体長は三メートルを超えるほど、名前の通り真っ青な体表をしており、その巨体を支える足は大樹のように太く逞しい。鼻息を荒くしながら誠一たちを睨みつけていた。

 そしてもう一種類のモンスターが通常の熊とは一線を画するほどの巨体、鋭利な爪に強靭な牙、勝が『恵みの森』で遭遇したランクCモンスターである’グリズリーベア’である。

 十数体の魔物がそれまで倒してきた’ダークラビット’や’イビルラット’とは比べられないほどの威圧感を纏わせ、こちらの出方を伺っている。


「熊と牛かよ…単体なら何とかなるが、複数体出てくると…どうしたもんか」


 誠一とて伊達に冒険者ギルドで依頼をこなしてきていない、ランクCモンスターにも決して後れを取ることはない。しかしそれはあくまで一対一(タイマン)での戦いにおいてのみ。


「こんなところで消耗したくねぇし…」


 魔物が操られていると分かった以上、黒幕を見越して力配分する必要があった。不確定要素の高い戦闘はなるべく避けたいのが本音である。


「加藤」


「ん?」


「俺にやらせてくれ」


「なっ…!?」


 どうやってこの局面を切り抜けようと思案していた誠一は勝の予想外の言葉に驚きを隠すことができない。なにを馬鹿なことを、と誠一が視線を向けると、勝はかつてない程真剣な眼差しで誠一を見つめていた。


「頼む」


「はぁ…お前なぁ…」


 勝が意外と頑固であることを知る誠一は呆れたように息を吐く。普段は自己主張することはほとんどない勝であったが、一度決めたことは絶対に曲げない男であった。誠一は諦めた様子で静かに後ろへと下がる。


「…スキルを使って一人残らず蹴散らせよ」


「当然っ!!」


 誠一の言葉を受け、持っているハンドアックスを握る手に力をこめながら前に立つ魔物を般若の形相で睨みつける。


「お前には恨みはないが」


 勝は静かに闘志を高めながら’グリズリーベア’を見据える。初めて会った時は奴が持つ威圧感に恐れをなし、何もすることはできなかった。だが今は違う、今は一人でも十分に倒すことができる。隆人が変わるきっかけとなった魔物をこの手でぶちのめすことができる。


「手加減はしないぞ」


 そんな勝を見ながら誠一は後ろから続々と追い付いてきている騎士達に下がるように指示する。高ランクの魔物を勝一人が相手にすることに騎士達は不安を隠すことができない。


「セイイチ殿」


「ん?」


 勝から目を話さずに、騎士団の男に返事をする。


「我々も手を貸した方がいいんじゃないですか?」


 誠一がゆっくりと振り返ると、騎士達が難しい表情を浮かべ、立っていた。誠一は軽く首を左右に振ると、勝に視線を戻す。


「あいつはそんなこと認めないだろうな。それに…」


 勝の身体に魔力が巡るのが誠一も見て取れた。


「近くにいたら殺されちまうぞ?」


「ウオオオォォォオオオォォォォオオオオォォォ!!!!!」


 雄たけびと同時に高めた魔力を開放し、スキルを発動する。そのスキルの名前は【凶化状態】。このスキルは『炎の山』で昴が対峙していた魔物たちがかかっていた”凶化”の状態異常に自らなるものである。【狂戦士】のユニークスキルを持つ勝が初めから所持していたスキルであり、凶化状態の勝はステータスが飛躍的に上昇する。そして【凶化耐性】のスキルも併せ持っているため自我を保ったままこのスキルを行使することが可能であった。

 ただデメリットも存在し、このスキルの使用後は極度の疲労感に襲われる。それだけではなく凶化状態を長時間続けていると、自分の意思で解除できなくなってしまうのだ。一度その状態になった勝を、誠一と健司が命懸けで止めたことがあり、このスキルの使用はどうしようもなくなった時の最後の手として誠一は使用を禁じていた。


 凶化状態になった勝は身体から紫色の魔力を滾らせ、瞳の色が赤く光り輝いている。あふれ出す破壊衝動を抑えながらバトルアックスを握ると、前に立つ魔物の群れに飛び込んだ。


「なっ…!?」


 誠一と共に後ろで見ていた騎士達が驚きの声を上げる。勝が魔物に突撃した瞬間、勝の姿を見失い、次の瞬間には先頭に立っていた’グリズリーベア’の頭が宙を舞った。

 驚異的な勝の速度についていける者は魔物も含みこの場にはいなかった。勝は頭を失った’グリズリーベア’の足を片手で掴むと、軽々と持ち上げその場で振り回し、周りの魔物を吹き飛ばしていく。近くに誰もいなくなるとゴミを捨てるように’グリズリーベア’を投げ捨て次の獲物へと飛び掛かった。

 ’ブルーブル’は頭に生えている二本の槍のような角を向けながら勝目がけて突進するが、勝は事も無げにその角を掴んで’ブルーブル’の動きを止めると、そのまま持ち上げ地面に叩きつけた。叩きつけられた’ブルーブル’は角が真っ二つに折れ、そのまま動かなくなる。

 なおも続く勝の蹂躙劇を目の当たりにした騎士達は戦慄を覚えながらも、その戦う姿から目を離すことができなかった。


「確か…あの戦いに加わりたいんだっけか?」


 からかうような口調で後ろにいる騎士達に誠一が声をかけると、全員が慌てたように首をブルブルと横に振った。あまりの必死さに思わず苦笑いを浮かべる。


「そうだよなぁ…普通の神経なら嫌だよな」


 誠一が視線の先には最後の’グリズリーベア’に止めを刺した勝の姿があった。一つ息を吐くと勝に近づき、その肩に手を乗せる。


「お疲れさん」


「…おう」


 短い言葉で答えながら勝は今自分が倒した’グリズリーベア’目を向けた。自分の友を変えてしまった元凶と同族の魔物を倒したところで達成感などない。あるのは虚しさが広がる空虚の心だけだった。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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