白い猫は笑う #3
猫の獣人だと名乗った彼女は、綺麗な金の瞳をしていた。
白い毛で覆われた、人とは違う獣の耳。同じ色の髪は肩の高さで切り揃えてある。腰の下から伸びる長いしなやかな尻尾も濁りのない真っ白な毛並みで、よほどハンバーグが美味しいのか先ほどからゆらゆらと揺れている。
まだ温かいシチューを啜りながら、彼女の話を聞かせてもらう。
どうやら彼女も目的は私と同じらしい。私が討伐に向かう予定の魔獣を、彼女も追って来たのだそうだ。
あともう少しというところで食料が尽き、腹を減らして倒れていたのだと。
そしてその魔獣を、彼女は『敵』だと言った。
彼女の家族が、その魔獣にやられたのだと……
そんな話をしていて、私はようやく今回の旅の目的を思い出した。
そうだ、私は魔獣を倒して早く自分の町に帰らないと。そうして王都から来た司祭様にお会いするのだと。
その話をしたところ、彼女と一緒に魔獣の元へ向かうことになった。
薄暗い森の奥で、その魔獣と遭遇した。
大きな牙と鋭い爪を持つそいつは、私たちの背丈よりもずっと大きかった。
でもこの魔獣の討伐依頼は、何度も受けた事があるし、これよりももっと大きな個体を倒したこともある。
その時は一人だったし、なんなら今日は獣人の彼女も居る。
そう思って、つい油断した私の隙をついて、魔獣は鋭い爪を私に向けて振り下ろした。
しまった!と思い、とっさに杖で防ごうとした。こんなもので防げるはずはないのに。
しかし魔獣の爪は私まで届かなかった。見ると彼女が私の前に出て爪を受け止めていた。
彼女が魔獣を抑えているうちに、詠唱を終える。私の掛け声で彼女が飛び退くと同時に、魔獣にめいっぱいの魔法を叩き込んだ。
大きな音を立てて魔獣が倒れ、私の任務は終わった。
「やったニャ!!」
そう言って、満面の笑みで振り返った彼女は、そのまま膝から崩れ落ちた。
また白猫の姿になった彼女を抱えて町への道を走る。
この彼女の様子は昨日とは明らかに違う。猫の姿なのに、彼女が苦しんでいるのがはっきりとわかる。
はあはあと苦しそうな息づかいの合間に、毒が……と彼女が零した。
あれは特殊個体だったらしい。
そして彼女は知っていたのだ。あれが通常の個体でない事も、その爪が毒を帯びている事も。
最初に私が彼女を拾った時、彼女はあの魔獣を追っていたのではなかった。あの魔獣から逃げて来たのだ。
敵を討とうと一人で魔獣に立ち向かい、しかし敵わぬ相手とわかり遁走した。
逃げきれぬよりはと荷物も全て捨てたのだろう。だから旅をしていたはずの彼女は、何も荷物を持っていなかったのだ。
黙っていてごめんなさいと言って涙する彼女を、そっと抱きしめた。




