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大将=恵那
寿司を食べに行くにはまだ早かったので、軽く買い物に付き合うべく街へと出ていったのだが、さすがに5人も女性がいると服一つ買うのも一苦労だ。
あれもいいこれもいいと引っ張り回されること数時間……ようやく全員が満足するだけのものが購入でき、皆の両手は買い物袋で一杯になっている。
さすがにこのままでは色々と問題があるので、一旦家に戻って荷物を置いてから寿司を食べに行くことになった。
数時間も歩き通したせいで脚がパンパンになっているが、女性陣を見れば普通に歩いている。
歩きにくいヒールで歩き回っているのに、なぜああも普通に歩けるのか謎だ。
買い物袋を置いて寿司屋の五郎に到着したのだが、皆のテンションが少しだけ高く、先程の買い物で盛り上がった勢いが未だ鎮火していない様だった。
「恵那ぁ! 来たわよ!」
のれんを潜るやいなや大将に向かって叫び、大将も苦笑いでそれに応えてはいる。
開店してすぐだったので客がいなかったが、これで他の客がいたら結構な恥だった……。
普段の母さんなら絶対にやらないと思うのだが、買い物であがったテンションはかなりの効果を発揮しているようだ。
そして、広めの個室に案内されてからがまた大変で、誰が横か前に座るかで揉め始めた。
扉付近は自然と男護官の2人で固められるのだが、どっちの隣に座るかという究極の二択を迫られたのだ。
両者とも捨てられかけの仔犬のような目をしているので中々選べなかったので、チキンプレイな箸の倒れた方にすることにした。
箸は綾奈の方に倒れたのでそのまま綾奈の隣に座ったのだが、こんな近くで天国と地獄を見れるとは思わなんだ。
綾奈ニッコニコ明日香死んだ魚の目……。
「さ、さぁ! 頼もうか!」
無理くり空気を変えにいき、すぐに紙に食べたい寿司を書いていく。
すると、食欲がさすがに勝ったのか皆が皆メニューを食い入るように見つめ始めた。
そして、大量に書かれた紙を大将に手渡しに行くと大将のテンションがあがり、明らかに寿司を握る速度が早くなっている。
大量の寿司が運ばれて来るやいなや消えていくが、もう少し味わって食べればいいのにと思いつつもみんなに負けじと食べる。
目の前にどんどんと皿が溜まっていき、すでに50枚を超えた。
しかし、未だに勢い衰えることをしらない皆は次々と大将へ注文し、いよいよ100枚の大台に乗りそうになっている。
さすがに大将も顔を引くつかせ始め、なくなるネタも出始めそうになってきた。
他のお客も入ってき始めているので冬物の魚はオーダーストップが入り、爆食いのペースも大分落ち着いた。
「うぷぅ……食べたぁ……」
次々と沈んでいくなか、明日香vs春美の大食い対決が始まっていた。
目の前にはどんどんと皿が積み重ねられていき、遂には30の大台を超え始めている。
40も間近に迫って来た頃だった……明日香と姉さん共々口を抑えて苦しそうにしだし、いよいよ限界頂点に達したようだった。
共に38皿でフィニッシュを迎え、全員で食べた枚数は159皿もの寿司を平らげた……。
もちろん代金も凄まじいことになっているのは明らかで、母さんに3人分のお金を無理矢理こっそりと渡しておいた。
"これで温泉旅行にでも行こう……"と、悪魔の囁きを耳元ですることによってようやく受け取ってくれたのだ。
大将に美味しかったからまた来るということを伝えると、両手を胸の前で組んで喜んでいた。
何故か他のお客まで喜んでいたのは謎だったが、大将がよろこんでくれたのだったらそれでよかった。
約2名ほど動けなくなっていたので綾奈と母さんがタクシーまで背負い、なんとか帰宅することはできた。
しかし、完全にソファで死んでいる2人はこのあとの年越しそばが食べれるのか、そこだけが不安で仕方がない。
「バカねこの2人は……この後に一也の年越しそばが待ってるっていうのに……」
「そうだよっ! 寿司よりも確実に幸せになれるのに!」
母さんと明里がソファで死んでいる2人に対して毒を吐きかけている。
もちろん2人からはうめき声しかあがらないが、その悲痛さだけはしっかりと伝わってきていた。
「23時までには食べれるようにしとけばいいから、2人はソファでゆっくりしているように!」
優しい言葉をかけているように聞こえるが、2人を除いたみんなで食後のデザートの牛乳プリンをあ〜んしながら食べたのだ。
その時のこちらを見る目の潤みは、真田丸の景勝役の遠藤憲一並みだった……。
もちろん動けなくなるほど食べた2人への罰なので、一切の情けをかけずに食べさせあいをしたのだ。
「さて! 年越しそばの準備に取り掛かりますか!」
袋から蕎麦を取り出し各種汁の材料を置いていく。
鰹節や昆布から出汁をとり、その出汁を使って鶏肉を煮込んでいく。
そして、芯まで煮込んだら付け合せの汁に移して再度煮込む。
その間に薬味などを各種取り揃えておき、あとは蕎麦を湯がくだけの状態で一旦片付けをしておく。
準備が出来たら蕎麦をササッと湯がいてお椀に盛って汁をかけ、薬味などを乗せていけば……大晦日はこれで決まり!男の少し手間をかけた簡単年越しそばの完成です!
テーブルに置いていく頃には2人もなんとか年越しそばを食べれる位には回復しており、みんなで録画しておいたケツ叩きを見ながら年越しそばを食べ進める。
ほっかほかの年越しそばは胃に優しく心の芯から温かくしてくれる……。
みんなは目をトロ〜ンとさせながら汁を飲んでおり、こういうゆっくりと過ごす幸せな時間を噛み締めた。
しかし、いつまでもトロンとしているわけにもいかない。
明日のおせちの準備をしなければならないのだ。
すぐに頭をまったりモードから切り替えて、チャカチャカ準備を始める。
まずは染み込ませなければならない黒豆から仕込んでいき、鴨肉に下ごしらえをしておく。
簡単に終わるとはいえ、今日の内にやっておくだけで明日の負担は相当減るのだ。
鐘を突く音が微かに聞こえ始め、いよいよ今年も終わるときが近づいてきた。
みんなのいる場所に戻ってケツをしばかれるのを見て笑いつつ、自身に起きた衝撃的な事について振り返る。
女の子を助けたと思ったら、こんなおかしな世界に居て普通に生活している。
なんでこんなに自然に受け入れられたのかは分からないが、おそらくは覚醒する前の本来の……この世界の一也意識などが、潜在的にあるのだろうと思う。
驚きはしたが、特別受け入れ難いこととして捉えた感覚を覚えておらず、こんなにも順応できているということは、"元"の一也君のおかげとも言える。
なんでこの世界に来たのだろうかと考えたこともあるが、明確な答えにたどり着くわけもなく、なんとか出した答えは男の地位向上に努めるということだ。
向こうでは女性の社会進出を!などと頑張っていたようだが、それに倣ってこちらでは男性の社会進出を!というわけだ。
正直言って、男として生きる上でこんなに生きやすい世界はないだろう。
理想郷とも言える。
美人が多く告白は100%成功する。
働かなくても金は貰える。
やりたい放題できる……。
こんな世界で怠惰に生きていくという選択もあったが、じわりじわりと近づいてくる家族や男護官たちを見ていると、そんなことをしようとも思わなくなる。
やはり男は甲斐性!
女性にはいつも笑顔で……純粋な笑顔でいてもらいたい。
怠惰に生きる男より、引き締まったボディで紳士な男のほうがいいのはどんな世界でも良いに決まってる。
そう思えば、これからも頑張って行こうと思える。
来年も、手の届く範囲だけでも幸せにできれば良いなと思いつつ、今年が終わるのをみんなでゆっくりと待った。
「あけましておめでとう! 今年もよろしく!」
ノロにかかっててん……。
人生二度目の……。
まだ本調子じゃないんで、あとがきにも元気がでもせぬ……。
身体は鍛えていても、虚弱体質なのは変わりませぬ……。
ぐはぁ……




