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私だけのロックンローラー


 今日は家の近くに新しく出来たパン屋へ彼女とやってきた。

 「私が作りますよ?」なんて彼女は言ってくれるけど、たまにはこうして連れ出して驚く顔が見たい。

 

「ふぇぇ……お洒落ですねぇ……」


 彼女は私の服の袖を摘んで身体を密着させている。

 こうしているとおまちにも溶け込めると言っていた。

 随分身勝手な話だけど、こうして私に依存してくれている姿が堪らなく愛しい。


「ふむふむ……パン・ド・ロデヴ……クイニー・アマン…………ろ、ろっげんしゅろーとぶろーと……ふぇぇ……」


 彼女は頭にハテナを浮かべながら品定めをしている。

 可愛すぎる……


 店内には豊富な種類のパン。食べたいものが多いみたいで、困ってしまっている彼女。

 こんな時はいつも私が代わりに選んであげる。

 食べたかったであろうパンを取っていくと、取った分だけ顔が赤くなっていて……

 興味も好物も、彼女の愛しい部分を理解出来ていることが何よりも嬉しい。



 せっかくなので、隣接されたカフェスペースで買ったパンを食べることにした。

 そこは美しい木々、敷石のレンガに木製のガーデンチェアが映える中庭。

 そんな素敵なシークレットガーデンからは地元のラジオ局からFMラジオが流れている。

 リクエスト曲は少々この場に似つかわしくない、昔流行ったであろう昭和のロック。


 気を取り直してパンを食べようとしたけれど、このお洒落な場所に少し緊張している彼女。

 おでこに優しくキスをして、和ませる。


「ねぇ、ダジャレ勝負しよっか。私からいくよ?」


 竹炭パンをちぎって頭の上に二つニョキッと出す。

 笑ってくれると嬉しいな。


「見てみて、パンダ(パンだ)」


「ふふっ、可愛らしいパンダさんですね」


 落ち着いた、淑やかな笑顔。

 緊張がほぐれた彼女は愛しげな瞳で私を見つめていた。

 引き寄せられるように、キスをする。

 

「じゃあ今度は雫の番ね」


「そうですねぇ……ダジャレですか……」


 暫く考え込んでいたが、ラジオから流れてくるロックンローラーのワンフレーズを聞くと、少しだけ目を見開いて次第に顔が赤く染まっていった。

 

 それは、思いついたけれど恥ずかしくて仕方のないという、愛しすぎる表情。

 

 そんな彼女の手を優しく握り甘い瞳で見つめると、震える唇を少し噛んで握り返してくれた。


「では……私が何者か尋ねていただけますか?」


「ふふっ、あなたは誰なの?」


「……鮭児です。だって私は── 」 


 アウトロ、それは計らずともロックンローラーと重なる台詞。

 この愛しい姿を忘れることなんて……今生では無さそうだ。


「シャケのベイビー…………」


 頭の先から爪先まで真っ赤になった、私だけのロックンローラー。


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