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大切な我が家


 我が家の庭は結構広い。

 二十三区外、百五十坪の土地に吹き抜けと屋根裏部屋が素敵な、小ぢんまりとした二階家。

 外周部は人目から遠ざけるかのように木々が植えてあり、外から見ればちょっとした林のようになっている。


 そんな素敵な我が家の庭は、彼女が手を施し更に素敵になった。


 季節を感じさせる花壇。

 何種類もの野菜が育つ畑。

 日々手入れされている木々に芝。

 

 今日は木製のブランコに揺られながら、ポンちゃんと新緑を満喫している最中。

 目の前には一匹の鳩。


「見てみて、ポンちゃん。ポッポさんだよ?」


 じゃれ合うように鳩に近づくポンちゃん。

 振られてしまい、寂しそうにトボトボと私の元へ戻ってきた。

  

「ふふっ。じゃあ、私と遊ぼっか」


 ボールで遊んだり、縄跳びでじゃれ合ったり。

 遊び疲れたのか、私の膝の上で甘えるポンちゃん。

 無邪気な姿に、私の心も開いていく。


「私ね、動物って好きじゃなかったの。だから初めてポンちゃんを見たときは……嫌だなって思っちゃった。ごめんね」


 頭を撫でると、気持ちよさそうに目を瞑る。

 昔の私だったら、動物に話しかけるなんて想像も出来なかった。


「いつからかな……仕事が終わってこの家に帰るときに、雫だけじゃなくてポンちゃんのことも考えるようになってた。いつも雫よりも先に玄関で待ってくれてるんでしょ? ふふっ、ありがとポンちゃん」


 嬉しそうな顔で手を擦り合せ私を見つめるポンちゃん。

 気持ちはきっと、伝わったよね。


「お待たせしました。アップルパイが出来ましたよ」


 いい匂いと共に、大好きな声が近づいてきた。

 私もポンちゃんも、尻尾を振って待っている。


「これは私達の分で……これがポン助専用のアップルパイだよ」

  

 ガーデンテーブルに置かれていく、アップルパイと紅茶。

 お皿とフォークを配膳してくれる横顔に軽くキスをすると、嬉しそうな顔で彼女は微笑んだ。


「ふふっ。二人で仲良く何をしていたんですか?」


「んー……幸せを噛み締めてたっていうか……」


 愛らしく私を見つめる彼女。

 柔らかな風が吹くと、新緑の香りが私達を包み込む。


 どちらからともなくキスをすると、周囲の音が次第に薄くなっていく。

 木漏れ日の下のティータイムは、水で優しく溶かした絵の具のように、淡く美しい世界。

 唇が離れると、名残惜しそうな瞳と共に私の袖を指先で掴む彼女。


「……その最中かな」


 再び唇を重ねると、周囲の音は完全に消えた。

 いつまでもこうしていたい……淡く色付いた、世俗を離れた理想郷。


「……私だけを見てください」


「ふふっ、ポンちゃんに妬いてるの?」


 わざと煽るような言葉を選ぶと、彼女は精一杯の勇気で私の身体に顔を擦り付けてきた。


「おいで、しーちゃん」


「にゃん……」


 ここは沢山の幸せが詰まっている、大切な我が家。


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