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爪先立ち


 今日は書店で日向さんの出ている雑誌を隈なく確認する日です。


 ファッション誌の表紙で格好良く表情をきめている日向さん。

 格好良いなぁ…………

    

 ……うん、買おう。



 それから、この雑誌は三ヶ月間日向さんの特設ページが掲載されている。

 二冊買いたいけど、我慢我慢。

 

 というわけで立ち読みです。


 ふむふむ、今月は恋愛特集なんだ。

 日向晴さんの恋愛観……

 うん、気になるよね。


“日向晴さんがキュンとしてしまうポイントはどこですか?” 


“キスをする時に(かかと)が上がる所ですね。ふふっ、あれ可愛くて好きなんです”

 

 ふむふむ、踵……

 あれ?そういえば私からキスをする時っていつも爪先立ちしてて…… 

 

“ずばり、好きなタイプは?”


“料理上手な頑張り屋さんですね”



 …………これも買おう。



 ◇  ◇  ◇  ◇

  


「おかえり雫。買い物してたの?」


「は、はい……その、書店へ……」


 買った本を咄嗟に後ろへ隠してしまう。

 とりあえず、ただいまのキスを……


 ……どうしよう。すごく意識しちゃう。

 

「雫……?」


 少しだけ、身体が震えてしまう。

 爪先立ちをしてただいまのキスをする。

 薄っすらと目を開くと、日向さんは私の足元を愛しそうな表情で見つめていた。


 恥ずかしくて涙が溢れてしまいそうだったけれど、一瞬日向さんと目が合って……

 優しく微笑んでくれたその甘い瞳に、力が抜けてしまう。


 ストンと落ちる雑誌。

 

 全てを理解した日向さんは、慈愛に満ちた微笑みで私を強く抱きしめた。


「ふふっ。それ、読んだの?」


「よ、読みました……」


「それね、流石に栞に怒られたっけ」


「……よろしかったんですか?」


「うん、好きな気持ちに嘘はつけないもの。誰かさんに……似ちゃったのかな」


 いたずらっぽく笑う日向さんが愛しい。

 口下手な私だから……どうやったら、この気持ちが伝わるのだろうか。


「さて、嘘がつけない料理上手な頑張り屋さんとは……誰でしょう?」


 言葉じゃ伝えきれないから、いつだって行動してきた。

 それでも伝えきれないほど、あなたが好き。


 いつもどおり、爪先立ち。

 踵を浮かして届く愛しい場所に、想いを乗せる。


「……キュンってしましたか?」


「…………うん。ずっとしてる」


 私には素敵で眩しすぎるあなただけど……そんなあなたに、背伸びをすると近づけるこの瞬間が私も大好きです。


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