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どこまでも


 土曜日の朝、私達の家にあるものが届きました。

 私もポン助も、恐る恐る近寄って眺めています。


「ふぇぇ……これは普通自動二輪車……ですよね?」


「もー、教科書みたいな言い方するんだね」


 日向さんは私の頬にキスをすると、嬉しそうな顔で普通自動二輪車を見つめている。

 淡い水色がお洒落な、綺麗な車体。


「このバイクね、ずっと欲しかったの。もう生産されてないから、程度のいい物を探してもらってたんだけど……乗らずに室内で保管されてあったこの子が偶々見つかったから、新車の倍の値段で買ったの。ふふっ、可愛いでしょ?」


 子供みたいに無邪気に笑う日向さん。

 あなたが嬉しいから、私も嬉しくなる。

 

「ふふっ、そうですね。私もこの子を好きになりました」


「ダメ……好きなのは私だけなの」


 可愛すぎます……

 堪らず抱きしめて頭を撫でると、頬ずりをして甘える日向さん。

 お部屋に戻って、暫しの間戯れた。

 

 ◇  ◇  ◇  ◇


 ベッドの上で絡まりながら先程の話に戻る。


「日向さん、バイクの免許証はお持ちなんですか?」


「うん、雫と出会ってから取ったの。今日で一年経ったから、一般道なら二人乗り出来るんだよ」


 ニコニコと嬉しそうな日向さん。

 可愛くて愛しくて、思わず抱き寄せて頬ずり。

 

「私の後ろに雫を乗せてツーリングしたかったの。何かの雑誌であのバイクを見て……これだって。そしたらね、あの子が見つかってしかも一年経つ今日納車出来るって言うから── 」


 いつになく高揚している日向さん。

 大人びてる日向さんも好きだけど、今日みたいに目をキラキラさせている無邪気な日向さんも好き。

 とどのつまり、全部好き。

         

「では、乗せていただけますか? その……私だけ……ですよね?」


「うん、雫だけ。ぜんーぶ、雫だけ♪」


 二人同じ顔をして、甘くて蕩けるキスをした。

 

 ◇  ◇  ◇  ◇



 色違いのツナギにジャケット。

 靴も格好良いお洒落なブーツ。

 この日のために日向さんが内緒で用意してくれていた物。

 

「雫すっごく可愛い。一緒に写真撮ろ?」


 撮るとその場で写真が出てくる奇天烈なカメラ。

 ことあるごとに記念写真を撮る私達だから、数え切れない程の想い出達が形になって部屋に飾られている。


 セルフタイマーをセットして、バイクの前で撮影です。

 素敵な想い出がまた一つ、増えました。


「これは雫のヘルメットね。ふふっ、可愛いでしょ?」


「わぁ……これってポン助ですか!?」


 プラスチックの風除け?は開閉式になっていて、ヘルメット本体には可愛らしい狸のイラストと共にポン助という文字が描かれている。

 ふぇぇ……可愛い……


「私が描いたの。特注だよ? こっちは私の分ね」


 日向さんは同じタイプのヘルメットに……以前私が手紙に描いたタコさんウインナーがさり気なく描かれている。


「これすごく気に入ってるんだ。ふふっ、可愛いよね」


 嬉しくて、幸せで、好きが溢れて止まらない。

 只々恍惚としてしまい……おねだりするように手を広げると、日向さんは優しく微笑んで抱きしめて下さった。


「じゃあ……行こっか♪」 


「はい、お願いします」



 ◇  ◇  ◇  ◇



 エンジンの音、車体の振動。

 少し……怖い。

 日向さんの後ろに跨ると、日向さんの甘くて優しい声がヘルメットの内部に響いた。


【無線が付いてるから、いつでもお話出来るよ。雫、しっかり掴まっててね】


【は、はい……】


 強く強く日向さんに抱きつくと、振り向いて優しく微笑んでくれた。

 私の恐怖を取り除いてくれる、魔法の笑顔。


【ふふっ。雫、だーいすき♪】



 それは、夢のような時間。


 大好きなあなたに思い切り抱きつき、私の中いっぱいに声が響く。


 私にしか聞こえないあなたの声は、沢山の愛で溢れていた。 


 私の声は、あなたにどう聞こえていたでしょうか?


 あなたの声で淡く優しく彩づいたこの世界のように、私の声で同じ景色が見れていますか?

 


 いつまでも続いて欲しい、幸せな時間。

 私の気持ちは、恥ずかしいほど抱きつく力に表れている。



【……そろそろ帰ろっか?】


【…………もう少しだけ……こうしていたいです】


【ふふっ。じゃあ……どこまで行きますか?】


【どこまでも行けます。あなたとなら……】


 少しだけ緩まった速度。

 あなたの口遊む恋愛歌は、私の見る景色と同じ色をしていた。


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