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繋がる私達の想い出


 今日は日向さんからのお誘いで、大学の最寄り駅付近をお散歩しています。

 出会って間もない頃を思いだし、一人ニヤけと戦っている。


「この道も懐かしいね。あれ? ここのコンビニ潰れちゃったんだ。居酒屋になってる」


「一緒に行ったお店ですし、なんだか寂しいですね……」 


 私の肩をそっと抱き寄せて、頭をポンポンと優しく叩いて下さる。

 擦り寄って、その優しさに甘える私。


「たった一年しか経ってないけど、少しずつ変わってるんだね」   


「わ、私達は……どうなんでしょうか……」


 なんでこんなに恥ずかしいこと聞いちゃったんだろう。

 顔を真っ赤にして俯く私の顎を指で掬い上げ、優しいキスをしてもらう。


「変わったこともあるし、変わらないこともあるけど……」


 そう言いながら、日向さんは人目を憚らず私を抱きしめた。

 おでこにキスをして、抱きしめる力はさらに強くなる。


「もーっと、ラブラブになったよね」


 愛くるしい笑顔と言葉に、私の何かが弾けてしまう。

 ねだるように目を閉じると、日向さんはその想いに応えてくれた。


 変わらなくて良かったことは、相変わらず、おまちの人は他人に無関心だということ。



 ◇  ◇  ◇  ◇



 フワフワしたまま、お散歩中。

 どこへ向かっているのか、次第に理解する。


「あのコンビニが存在したことは私達が覚えているし、思い出もちゃんと残ってる。居酒屋になっても、昔ここにはコンビニがあったんだ……なんて、肴になるかもしれないよね。形あるものはいつか終わりが来るけど、想いは決してなくならないと思うの。そうやって、姿を変えて繋がっていくんだね」


 言葉尻、日向さんは足を止めた。

 そこは、何回も何百回も見た景色。


 私の住んでいたアパート。

 明かりがついているので、違う住人がいるのだろう。


「ふふっ、おいで」


 私の手を引き部屋の前まで来ると、日向さんは呼び鈴を鳴らした。

 わけも分からず手を強く握りしめる私の頬を、指で優しく撫でて下さった。


「はーい……わぁ!! 雫、いらっしゃい!! 入って入って!」


「あ、彩さん? どうしてここに……」


「ふふっ、言ったでしょ? 繋がってるって」



 ◇  ◇  ◇  ◇



 私の部屋だった場所。

 ベッドもカーテンも、私が使っていた物がそのまま置いてある。

 違う所は、テレビがあることくらい。


「私達の家を買ったときに、もう少しこの場所は取っておこうと思ってたの。私達の大切な場所だから。彩になら、任せてもいいかなって思ったんだけど……どうかな?」


「どうもなにも私もう住んでるんだけど?」


 少しずつ、状況を飲み込む。

 無事私と同じ大学に合格した彩さん。

 部屋探しで悩んでいると以前聞いてはいたけれど……

 

 日向さんと出会ってからの一年は、目まぐるしく変わっていく一年だった。

 この部屋から始まって、日向さんのマンションに行き……

 実家に軟禁されて、マンションを売ったお金で私達の家を買った。

 こうして思い出すだけでも…………

 

「なんだか嬉しそうだね。どしたの?」


「ふふっ。笑っちゃうくらい……素敵な一年だったなと思ってました」


 深々と、この部屋にお辞儀をする。

 ニ年間お世話になった、私の部屋。

 あなたと初めて同じ時を過ごした、大切な場所。

 

 そして、彩さんに向かってお辞儀。

 この部屋の新しいお話は、彩さんにバトンタッチ。


「彩さん、一年しかありませんが……同じ大学生活、宜しくお願いします。素敵な一年にしましょうね」


「する! メッチャする!! ねぇ、今日泊まってってよ! ピザパして一緒にお風呂入って一緒に寝よ? あ、晴姉は帰っていいよ」


「どうせ大学で会うんだから今日は一緒に帰るよ」


「雫ぅ……お願ぃ」


 彩さんは私の手を引っ張り、日向さんは離すまいと私をガッチリ抱きしめる。

 そんな景色に思わず笑ってしまうほど、私は幸せ者。


 新しい年度。幸せいっぱいな一年の始まりです。


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