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こうして二人は、末永く幸せに暮らしましたとさ。


 夜、長い揺れを感じ目が覚めた。

 隣を見ると、不安気な顔で私の服の袖を掴みながら見つめてくる彼女。

 優しく抱き寄せて、布団の中へ潜る。


「ふふっ、怖いの?」


「……非常時はいつも最悪の事を想定してしまうので…………この幸せな毎日が壊れてしまう事が怖いんです」


 彼女は非常食も避難グッズも、定期的にチェックしている。

 のほほんと生きている私とは違う、よくできた恋人だ。

  

「大丈夫。どんなことがあっても私が幸せにするから。お婆さんになるまで生きて……雫より長く生きるから。そしたら、死ぬまで幸せにしてあげられるでしょ?」


「…………ふふっ。では、ご飯はよく噛んで食べましょうね」


 そう言って、嬉しそうな顔で私にキスをしてくれた。

 私も……そう思った矢先、部屋の電気が切れた。

 

「停電でしょうか……真っ暗ですね」


「暗すぎて落ち着かないや。明日仕事早いのに……なんだか目が覚めちゃった」


「では……私が寝かしつけてあげますね」


 そう言うと、ベッドの近くに置いてある箱から蝋燭を何本か取り出した。

 ランタン風のキャンドルホルダーに入れ壁に掛ければ、お洒落な空間の出来上がりである。


 その手際の良さは、何度もシミュレーションしている証。 


 私の横へ座ると、とびきりの笑顔で私の頭を撫でてくれた。

 それはまるで母親のようで、思わず童心に帰ってしまう。


「さて、あるところに二人の若者がいました。二人は── 」


 寝る前に絵本を読むように、私に語りかける。

 それは、二人の女の子の冒険譚。

 聞いたことのない話……彼女の創作だろうか。


 蝋燭で照らされた美しい横顔。

 優しくて落ち着いた、安心感を齎す声。

  

 全てを包み込んでくれるその姿に、私の思考は徐々に鈍っていく。


 子供をあやす様にゆったりとしたリズムで私の肩を優しく叩き、時折こちらを見て微笑んでくれる。


 甘えるように目を瞑り、口を少しだけつき出すと、柔らかい感触と共に多幸感に包まれた。

 

 夢見心地で聞くお話は、ふわふわと私を誘って…………



「こうして二人は…………ふふっ、おやすみなさい」



 最後まで聞けなかったお話。

 目が覚めて隣を見ると、物語の主役と私が重なって見え……

 締め括りの台詞が頭に浮かんで、その幸せな結末に頬擦りをした。


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