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繋がる無窮の愛


 三寒四温、気をつけていたのに風邪をひいてしまった。

 撮影は過密スケジュール。休んでなどいられないのに……


 春休み中の彼女は付きっきりで看病してくれる。

 甘えたくなる気持ちを堪えて、一人静に横になる。

 風邪をうつす訳にはいかないもの。



 中々寝付けずにいられなかったお昼頃、ドアをノックする音が聞こえた。


「失礼します。大丈夫ですか? 何か出来ることは……」


「大丈夫大丈夫。こんなの寝てればへっちゃらだから」


 この声と顔を見ると、つい安心してしまう。

 でも病は気からって言うし、もっと気を張って── 

  

「冷たっ!!?」


 彼女の手の平が、私の頬を包む。

 火照った顔なのは分かるんだけど、それ以上に冷たい彼女の手。


 冷たくて……優しくて、温かい。

 そんな不思議な感覚に包まれる。


 暫くすると彼女はバケツに入った水に手を浸けて、また私の頬を包んでくれた。

 その繰り返し。

 

「私が熱を出した時、母がよくこうしてくれました」


 冷たい水に漬けるせいか、彼女の手は真っ赤になっている。

 それでも、優しく微笑んで私を見つめてくれる。

 そんな姿に、張り詰めていた心が解けていく。


「母がよく言ってたんです。“こうやって雫の熱を吸い取ってるんだよ”って。今、本当の意味が分かった気がします」


「本当の意味……?」


「……心にこもっている熱を、吸い取ってるんです」


 おでこ同士をつけ、蕩けてしまいそうな瞳で見つめ合う。

 冷たい手の平と温かい彼女が心地よくて、心の中が穏やかになっていく。


「今だけは、何も考えずに休んで下さい。大丈夫ですから……ね?」


「……雫のことは考えててもいい?」


 一瞬目を見開いた彼女は、その後すぐに優しく微笑み、私のおでこに口付けをした。


「ふふっ、いいですよ? 手を……繋ぎましょうか」


 彼女の声を、夢見心地で聞く。

 そしていつしか……本当の夢を見始めた。



【お母さん、ごめんなさい……】


【ふふっ、今雫の熱を吸い取ってあげるね】


【ふぇぇ……お母さんの手、冷たくて温かくて……気持ちいい】


【今は何も考えなくていいからね。ゆっくり休んでね】


【……お母さんのことは考えててもいい?】


【ふふっ、いいよ。手繋いでいようね】 



 ◇  ◇  ◇  ◇


「おはようございます。具合はどうで……ふぇっ!?」


 おはようの挨拶をするよりも前に、強く強く抱きしめた。


 夢の話では終われない何かが、私の中に刻まれた。

 見えないところで繋がっている事が嬉しくて、抑えきれない想いが溢れてくる。

 胸の奥が灼けるように熱い。


「私の心の中、どうしようもない位熱いの。これ、吸い取ってくれる……?」


「…………はい。私の熱も……お願いしますね」


 この熱は無窮に冷めることはないと知りながら、私達は互いを求め合う。


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