心満意足
大晦日、年越し蕎麦の準備をしています。
カウンター越しの日向さんは、嬉しそうな顔で私を見つめている。
「日向さん、その……照れてしまいます」
「ダメ?」
日向さんのお願いを拒むなんて出来ない。
好かれているからであって……贅沢な悩み。
でも、何をするにも日向さんの視線が気になってしまう。
顔が真っ赤なのは、蕎麦を茹でている湯気のせいにして貰おう。
◇ ◇ ◇
蕎麦が茹で終わり、二人で仲良く啜っています。
そんな最中も、日向さんはニコニコと私を見つめてくる。
「ど、どうしましたか?」
「んー……好き」
……嬉しい。
でも、本当にどうしたのだろうか。
「あ、あの……」
「もうすぐ一年が終わっちゃうでしょ? 今年の雫にはもう会えないから、いっぱい見つめて好きって言ってるの」
「わ、私も日向さんが好── 」
言葉を塞ぐように、口が塞がれる。
「今年の最後……雫の最後を私に頂戴」
あなたに始まってあなたで終わる一年は、とてもとても幸せで、満ち足りた一年でした。
言われなくたって、私の全てを捧げますから……
鐘の音がどこか遠くで響いている。
鳴り止んだ時、それは新しい年を迎えた証。
そんな鐘の音に呼応するように、日向さんは私に愛をくださる。
甘くて、蕩けて、重なって……
今年最後の、日向さんからの愛。
「雫、大好きだよ」
言葉尻、鐘の音が鳴り止む。
それは今年初めての愛の始まり。
私から……日向さんへ。
「大好きです。初めて……貰っちゃいました」
「もー……ふふっ、貰われちゃった♪」
幸せな一年の、始まり。




