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天敵ちゃんご来訪


「ふぇっ!? 本当にカエルの卵だったんですか!?」


「そうそう、タピオカガエルの卵を使うんだってさ」


 道中、彩が彼女を騙して楽しんでいる。

 ネットで調べるとマルメタピオカガエルと出てくるので、彩はそれを彼女に見せ完全に信じ込ませている。


「ふぇぇ……神秘的な飲み物なんですね」


 空いた容器にお辞儀をする彼女。

 その姿を見て、彩はバツの悪そうな顔をしている。


 どこまでも真っ直ぐな彼女だから、一緒にいるとこちらまで背すじが伸びてしまう。


「ところで……今日はどうして雫さんのご実家に行くのかな?」

 

 何も言わずに連れ出してしまったけれど、なんて言おうか……

 彼女のプライベートな事は言い辛いし、それに何故か今日行かなければ行けない気がして……


「今日は母の命日なんです。だから日向さんはわざわざ……」


「……じゃあ、お母様が呼んでくれたのかな。彩、ちゃんと挨拶しましょうね」

「雫の事は日向家に任せなさーい」


「ふふっ、雫さんのご実家に着いてから言いなさい?」

「わ、分かってるし?」


 大好きな人が、大切な人に受け入れられて認められる幸せ。

 照れくさそうに、でも嬉しそうに俯く彼女。


 “あなたはひとりじゃないでしょ?”

 

 そうだよね、私はひとりじゃないよね。

 ありがとう、母さん、彩。


 ◇  ◇  ◇


 高速道路から降りてから一時間を超え、景色はほぼ山一色になってきた。

 

「うわぁ……こんな所に人が住んでるんだ……あの集落が雫の村?」


「いえ、あと山を二つ越えます」


「うへぇ……人より猪の方が多そう……」


 ◇  ◇  ◇


 目的地に近づくにつれ、自然と体が強張っていく。

 まぁ……良い思い出では無いからね。

 隣では随分と前から目が泳ぎ、縮こまった彼女がいる。


 そんな彼女の手を取り、指を絡め合う。

 

「今日は一人じゃないから。ね?」


 そう伝えると、絡まる指は力強さを増した。

 今必要な事は言葉では無いらしい。 


 車の速度を緩め、私達の顔がゆっくりと近づいていく。

 その間から、彩が顔を出してきた。

 おかげで私達が彩の頬にキスをする格好になってしまう。


「ふぇっ!!?」

「彩!!」


「ヘヘっ、二人分の幸せゲットだぜ♪」


 無邪気に笑い、私にアクセルペダルを踏むよう催促をして前を見つめる。


 左頬を撫で微笑むその顔は、子供のように無垢で、大人のように淑やか。 


 とびきりの可愛い顔は、私へ向けられたモノではない。 

 

「雫、私の事好き?」


「はい、好きですよ」


「私……可愛い?」 


「ふふっ、とっても可愛いですよ?」 


「へへっ……そっか♪」


 気が付けば彼女の実家の前に到着し、彩は勢い良く車から出ていった。 

 止める間もなく呼び鈴を鳴らし、豪快に扉を開ける。


「おーっす。彩ちゃんだよー」


「な、なんだ貴様は!!?」


 急いで玄関へ向かうと、仁王立ちする彩と困惑している雫父がいた。


「へぇ、ここが雫の実家かぁ。この人雫のお父さん?」


「で、出て行け!! 警察を呼ぶぞ!!」


「田舎の警察って馬に乗ってるんでしょ?」


「馬鹿にしとるのか!!?」


 今回の主役は、どうやら私達ではないみたい。


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