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重なる視界


 糸雨が舞う早朝、日向さんと傘をさして散歩をしています。

 人は疎らで、傘に隠れた彼女が日向晴だなんて、私以外分からない。


 朝晩は肌寒くなり、一つの傘に寄り添って歩けば、身も心も温まる。


 時折こちらを見て微笑む度に、立ち止まって口付けを交わす。


「昨夜の月は綺麗でしたね」


 十五夜、絵に描いたような月を見ながら庭で寄り添った。

 日向さんはポン助に兎の格好をさせて、玩具の杵を背負わせていた。

 笑顔で撫でる日向さんと、満更でもないポン助。

 堪らなく尊い時間。

 その後は私が兎の格好をして……

 …………うん、恥ずかしいから止めよう。


「…………ふふっ」


「なにか楽しい事でもありましたか?」


「私ね、月を見てる雫をずっと見てたの」 


「ふぇっ!? ど、どれ位ですか?」 


「二時間くらいかにゃ」


 手を繋ぎながら、肩を寄せ合って月を眺めていた。

 只々、愛しい時間。

 月が隠れてしまう迄見ていたけれど…… 


 恥ずかしすぎる……

 私はどんな顔をしていたのだろうか。


「あ、虹だよ。ほらほら、あそこ」


 雲の切れ間に朝日が差す。

 そこに大きな虹が現れた。


「虹ってどうやって出来てるのかな」


 不思議そうに、でも嬉しそうに虹を見つめるその横顔から、目が離せなかった。


「綺麗だなぁ……」

 


【わぁ……綺麗なお月様ですね】


【…………うん、凄く綺麗だよ】 



 私の視界と、日向さんの視界が重なる。

 意図せずとも、口から出る言葉は似てしまう。

 

「はい。とても……綺麗です」


 いつまでも見ていられる。

 いつまでも見ていたい。


 あなたもこんな気持ちだったのでしょうか?


 私の視線に気付き、こちらを向く。

 雨は止み、私の好きな空になる。


 傘を閉じると、日向さんはマスクを外して私に微笑んでくれた。


「ひ、ひな── 」

  

 遮るように口付けをし、瞳で言葉を交わす。

 ちゃんと見てますから。

 あなたの美しい眼も睫毛も、唇も。

 

「ふふっ、帰ろっか。コーヒー飲みたいな」


「では切らしてしまったのでコンビニでコーヒーのお豆を買っていきましょうか」


「いいよ、家にある甘いやつで。一緒に飲みたいから」


 気持ちが、想いが溢れてしまい、はしたなくも腕を組んでしまう。

 恥ずかしくて俯いていると、日向さんは私の肩を抱き寄せてくれた。

 

 もし今顔を見てしまったら、私は堪らずキスをしてしまうだろう。


 そう思い足元を見ていると、私の小さな歩幅に合わせている靴が見えた。

 体の奥が熱くなる。


「……コーヒーは後にしよっか」


 小さく頷いて、身体を寄せ合う。

 少しだけ大きくなった歩幅。


 その後のコーヒーは、いつもより甘く感じた。


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