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求愛行動


 大学での書類作りが長引いてしまい、夕方になってしまった。

 日向さんが先に帰っているので、急いで夕食作りです。


「遅くなりました……今作るので待っててくださいね」


「雫、おかえり」


「えーっと今日はなんだっけ……エビとアスパラで……取り敢えず下処理を── 」


 台所であたふたしていると、日向さんに両手でほっぺを押された。

 思わず目が丸くなる。


「おかえりなさい」


「ひゃ、ひゃひゃひまへふ……」


「ふふっ、こっちにおいで」


 手を引かれソファに連れられる。

 向かい合って、日向さんの上に私が乗っている。


「あ、あの……重くないですか……?」


「全然。ちょっと目、瞑ってて」


 そう言われて素直に目を瞑ると、私を優しく抱き寄せて優しく背中を撫で始めた。

 時折ポンポンと叩いて、私に安堵感をもたらしてくれる。

 忙しなかった心が落ち着いて、甘い雰囲気になっていく。


 胸元に一つ痕を付けてもらうと、夕食作りの事など消え去ってしまった。


「落ち着いた?」


 口を開くとはしたない声が出てしまいそうだったので、小さく頷いた。


「よしよし。反対向いて?」


 こどもに絵本を読み聞かせる時のように、日向さんの前に私が座る。

 目の前にはタブレット。


「今日はさ、デリバリーでなんか頼もうよ。雫は何が食べたい?」


 タブレットで様々な料理を見せてくれる。

 でも、私の耳元で囁かれる声しか私の中に入ってこない。

 ただ訳も分からずに頷く事しか出来なかった。


 ◇  ◇  ◇


 という訳で、ピザとパエリアが私達の家に届きました。

 便利な世の中です。


「こういうの初めて?」


「はい。日向さんと体験する殆どが初めてですよ?」


 食べ慣れないピザのソースが鼻先に付いてしまう。

 悪戦苦闘していると、私の視界は何故か天井を見上げていた。


「ふぇ……?」


「雫の初めてを沢山共有できて凄く幸せ。でもね、もしあの時出会わなかったら……そう考えただけでいつも怖くなるの」


 そう言っておでこ同士をつけて目を瞑っている。

 日向さんの想いが、恥ずかしくも痛い程伝わってくる。


「……星の数ほど可能性があったとしても、私はどの世界でもこうして日向さんに押し倒されてますよ?」


「……どうして言い切れるの?」


 不安気に抱きしめる力が、堪らなく愛しい。


「理由は…………必要ですか?」


「……ううん、要らない」

 

 キスをして、それから……


「ん? なんで笑ってるの?」


「鼻先にピザソース付いてますよ?」


「もう、雫のが付いたんでしょ? ほら、取って」


 そう言って笑いながら鼻をつき出してきた。

 なんだか懐かしい流れ。

 それを日向さんも分かってる。


 優しく鼻同士を付ける。


「ふふっ、何やってるの?」


「……求愛行動です」


 何でこんなこと言っちゃったのかな。

 後悔しても遅くて、夕食が再開した時にはピザもパエリアも冷めきっていた。


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