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この恋の主役は私達


 日曜日の昼下り、外は小雨模様。

 ソファで後から抱きしめられながら、日向さんの出ている映画を二人で鑑賞しています。


 恋愛映画というジャンルだそうで、文字通り、恋いしたう愛情の物語。

 この頃は髪が短かった日向さん。

 可愛すぎる……


「キスNGの女優に恋愛映画をやらせるって、無謀だよね。見てる人達もさ、今回こそはキスするのか? みたいな事で騒いでるみたい」


 映画の中では、顔と顔がほぼ付いているくらいに近づいている。

 相手の方次第では、付いてしまうのではないだろうか……


 本当に……した事はないのかな……

 本当に……私が初めて……なのかな……


 自然と涙が流れてしまう。

 日向さんに気づかれないようにしようと背筋を伸ばした時、後から強く抱きしめられた。

 

「今までの事をさ、振り返ってみてよ。私は……どんな感じだった?」 


 今までの……


 そういえば、あの時日向さんはどこかぎこちなかった。

 あの時も、顔が紅くなりながらも優しくしてくれた。


 ……思い出すだけで、顔が灼けてしまう。


「ね? 雫が全部初めて。分かったかにゃ?」

 

 頷く事が精一杯。

 幸せで息が詰まってしまいそう。


「ねぇ、勝負しない?」


「勝負……ですか?」


「今からこの映画で流れる台詞があるんだけど……その台詞を私が男役、雫が女役。本気で演技して、私が少しでも照れて顔に出たら私の負け。ほら、始まるよ」


 事故で数年間、眠り続けていた男性。

 付き合っていた女性は、見切りをつけ彼の元を去っていた。

 それでも病床で目覚めぬ彼を励まし続けたのは、想いを伝えられずにいつも隣で応援し続けた、幼馴染みの健気な女性だった。

 奇跡としか言えない、彼の目覚め。

 目を開けたそこには、いつものように花の水を替え、カーテンを開ける彼女の姿が朝日で輝いていた。

 

 感動的なお話。

 ハンカチなくして見る事は出来ない。


【好きだ、ハルカ】


【えっ……?】


【好きだ】


【うん。私も……好きだよ】


 と、言う訳でこれを私達でやるそうです。


 日向さんが目を瞑りため息をつくと、雰囲気が一変する。

 これが女優の日向さん……


「好きだ、雫」


「ふぇっ!?」


 か、格好良い…………

 もう既に照れまくってしまってる。

 直視出来ないよ…… 


「好きだ」


 鼻先が付くほどに顔が近い。

 キス……したいな……


 思わず口づけをしてしまう。


 まるで物語の主役になってしまったような、不思議な感覚。

 なりきると、自然に言葉が出てくる。


「うん……私も。好き……だよ?」


 言い終わると同時に、ソファへと押し倒される。

 深くて長いキス。


 どれくらいしただろうか。

 雨間は、私達を二人だけの世界へと連れて行く。


「可愛すぎでしょ」


 この顔は………


「私の……勝ちですね」


「……うん、負けた」


 今日は梅雨寒。

 大好きな人の肌が、いつも以上に温かく感じた。


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