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We wish you a Merry Christmas


 12月23日……街中どこを歩いても鈴の音が鳴り響く東京。囃し立てるBGM、自然と踏んでしまう小気味良いステップに、彼女も笑いながら釣られてくれる。


「ヒナァ、遅いぞぉ……もう三本は空けちゃった」

「シオちん皆んなが来る前から二本空き瓶作ってたじゃん……」


 今日はうちの事務所で忘年会兼クリスマスパーティーを行って……いや、まだ五分前だけど……

 既にアルコールの匂いを撒き散らす栞と、それをまだ三本で抑え込んでいる葵。


 全員に挨拶回りをして彼女の下へ戻ると、栞が何か彼女に吹き込んでいた。


「その……そんなに飲んでも大丈夫なんですか?」

「ふっふっふ……秘訣を教えてあげようか?」

「ぜ、是非!」

「こうして赤ワインを…………ハァ、飲み干すでしょう? そうしたら白ワインを飲んでさっきの赤ワインを中和するの。赤いのが薄くなんのよぉ」

「ふぇぇ……」


 真似しようとした彼女を制止して、栞にデコピンを食らわせた。

 酔った栞が睨みを利かせてきたので睨み返すと、彼女が場を和ませようと間に入ってくれた。


「と、ところで皆さんはサンタさんにどのようなお願いごとをしましたか?」


 その問いに沈黙が続き……事を飲み込み酔いが醒めたのか、目を見開き素面になり始めた栞。


「…………え……いや、あー……その……もう二十年くらい来てくれてない……かな。ねぇ葵」

「ソダネ……ワルイコダシ……」


「そ、そんなこと無い筈です! 何かの……間違いですよね?」


 その言葉と瞳に確信めいた未来が頭を過ぎるけど、今は片隅にしまう。


「……せっかくだし、栞も葵も欲しいもの無いの? 言うのはタダだし」

   

「そうね……私の仕事が忙しくて詩ちゃん(恋人)寂しがってるから生き物を飼おうかと思ってたんだけど、死んじゃったら可哀想でしょう? だから詩ちゃんが好きなハムスターの……ぬいぐるみとかかな。私に似てれば尚良いんだけど」

「キッショ。ババァが惚気てんじゃねぇよ」


 栞の拳で真っ赤なお鼻のなんとやらになる葵。罵声と暴力が飛び交う二人のせいで忘年出来ない忘年会に。家に帰ってからワインボトルに目が行き、彼女と二人して笑い合う。

 それから、彼女が寝静まった後寝ずにとある作業をし……24日の昼過ぎにお父さんから電話が掛かってきた。


『今し方手元に入った。市の工芸品に指定しているお陰だが、かなり無理をして割り込ませてもらった。然し……あの子が欲しているわけではないのだろう?』


「形は違っても……雫も同じ景色を見るのかもしれません。でもそれは決して悪いことではありませんから」


『……日が変わった頃到着する予定だ』


「……疲れてるのにごめんなさい。鍵はポストに入ってるそうなので」


 溜息混じりの鼻息と共に電話は切られ、申し訳なさから電話越しに頭を下げた。

 それからスマホの発送通知が一つ届き、胸を撫で下ろした。


 ◇  ◇  ◇  ◇


 12月24日午後9時


「えっ!? もう寝るの?」


「はい。少しでも……その、可能性といいますか…………良い子で……いたいので」


 尻窄みになりながら私の頬へキスをして寝室へ小走りした彼女。急いで腕を掴み胸元へと引き寄せた。


「ここまでして……逃さないよ?」


「あ、あのっ……でも……」


「私が襲えば……雫は良い子のままでしょ? それとも私を誘惑したまま寝ちゃう……ふふっ、悪い子ちゃんなのかにゃ?」

 

 ナントカの六時間、なんて冷やかされてるけど笑っちゃうくらい私達には笑えない話で、気が付けば日付が変わり彼女は寝息を立てて夢を見ている。

 リビングへ向かい彼女が書いたサンタクロース宛の手紙をこっそり覗き……思わずカーテンを捲って空を見上げてしまう。

 めぐる時雨に……サンタクロースはてんてこ舞い。


 ◇  ◇  ◇  ◇

 

 早起きをすると彼女は既にリビングにいて、プレゼント袋を握りしめながら不安げな顔で私を見つめてきた。


「おはよ、雫。プレゼント貰えた……ふふっ、みたいだね」


「その……えっと……」


「今日は言ってた通りラジオの公生がお昼にあるから、朝ご飯買いながら行こっか」


 支度している時も車に乗り込む時も、どこか上の空な彼女。

 カーラジオをつけると流れ出すクリスマスソング。赤青黄色と色付く信号機達が歌うキャロルは、窓に張り付く雨粒達を宝石へと変えていく。


【サンタクロース様、昨年はショパン直筆譜のファクシミリ版をくださりありがとございました。楽譜を捲る度、浮き立つ思いでいっぱいです。今年も魔法瓶に温かい紅茶をご用意しました。お菓子と共に、少しでも寛いでいただければ幸いです】


 何度も繰り返される歌詞に、ラジオの頭語が決まる。

 現場に着くと友人二人の姿が見えて……彼女の顔が晴れていく。


【差し出がましいお願いですが、私の大切な友人雪村栞さんと葵静さんにクリスマスプレゼントをあげていただけないでしょうか。二人ともとてもとても良い人です。どうか、二人が望むプレゼントをお願いします。恐縮至極に存じますがこれが私の願いです】


 駐車場……パーキングブレーキを引くと同時に、二人が車へ流れ込んできた。


「な、何? 二人とも……」


「聞いて聞いて! 私もシオちんもクリプレ貰ったの!!」

「クリプレなんて死語使わないでくれる? 加齢臭が伝染るんだけど」

「んだとクソババァ!!!!」


 野良猫喧嘩の様に取っ組み合う二人を引き剥がし、特設会場の楽屋へ向かう。


「そ、それでお二人は何をいただいたんですか?」


「私は……ほらコレ。お酒と肴を持ったハムスターのぬいぐるみ」

「私はシザーだよ。ジャジャーン、凄くない?」


 楽屋入りしても二人の熱は冷めず……私はただひたすらに、彼女の顔を見つめ続けている。


「葵は分かるんだけど……よく栞もこっち側に来たね。なんで?」


「いや、私も詩ちゃんの仕業かと思ったんだけど……」

「私見たの! 赤い服来た体格のいいオジさん!! あれ絶対にサンタクロースだよ!!」

「まぁこれだけだと不審者なんだけどね」

「私のこのシザー、二十万以上する国産オーダーメイド品なんだけど……ずっと欲しいって思ってたけど口に出したの一昨日が初めてだし、直ぐに直ぐ手に入る品じゃないんだよ。一年待ちとか普通だし……口に出したからサンタクロースが来てくれたのかな」

「……まぁ、こんな感じかな?」


 私に目配せして笑う栞。

 私からも目配せすると……漸く、クリスマスが訪れた。


「ところで……雨谷さんは何かもらったの?」


「…………ふふっ、はい♪」


 ◇  ◇  ◇  ◇


「よーし、ヒナちゃん今日も可愛いよ」

「いい? 余計なことは言わないように。さ、行ってきな」 


「……は、晴さんその……メ──」


 彼女の柔らかな唇を人差し指で塞ぎ、その指を自分の唇へ付けた。


「ふふっ、今から私が言うんだから。行ってきます」 


 12月25日、あまねく人々へ……どうか、届きますように。


『We wish you a Merry Christmas.こんにちは、日向晴です。晴ラジをお聞きの皆さんも、そうでない皆さんも──』


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― 新着の感想 ―
いいこじゃないのに サンタ出動w 無茶しやがって ここのサンタってば雫に甘いねw
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