赤くて丸い甘いもの
「キャンキャンッ!!」
「ふぇぇ……」
帰宅後、出先で貰ったとあるものを机に置くと……ポンちゃんはその匂いに興奮し、彼女はその色艶に吐息を漏らしていた。
「これは見事な林檎ですねぇ……」
「キャンッ!」
「ふふっ、仕事先で貰ったの。もの凄く甘いらしいんだけど……じゃじゃーん、糖度計。これで測れるんだって」
「ふむふむ……クラリネットのマウスピースの様な形ですね……」
それが何なのかはよく分からなかったけれど、興味津々に見つめる彼女とポンちゃんが愛しくて、纏めて抱きしめソファへ雪崩込んだ。
暫し戯れようときたけれど……餌を寄越せとカエル二匹がゲロゲロと輪唱を始めたので、渋々彼女から離れた。
「秋は虫さんも美味しいですからねぇ。一号、二号、よく噛んで食べるんだよ?」
彼女は可愛らしいことを言っているけれど、彩曰く上顎に細かい歯が生えているだけなので、実際は丸呑みしている。
直視したことはないけれど、彼女はよく庭から取った生きたなにかを餌籠へと入れている。
「ふふっ、よく食べる子たちですね」
……カエルに妬いてる自分が可笑しくなってしまい、つい鼻で笑う。
まぁ彼女も今朝トイレットペーパーにやきもち妬いていたし、似た者同士なんだ──
「っ…………そ、その……」
彼女と目が合い……その顔は見る間に赤くなっていく。
妬いていることが伝わったのだろう。嬉しさと羞恥の真ん中で固まってしまう彼女。
優しくキスをして解いていく。柔らかくなるまで、何度も何度も。
「ふふっ。せっかくだし、私たちも食べよっか」
「コ、コオロギをですか?」
「もー……赤くて丸い甘いものだよ?」
林檎を切ることくらいは私にも出来るから、くし形切りをして皿に並べる。
せっかくなので糖度計に乗せて測ってみると……
「へぇ、20度だって。えっと……一般的な林檎が13度くらいで20度は最高峰の甘さなんだって。…………わぁ、メッチャ甘い。こんな林檎初めてかも」
口に入れるとあまりの甘さに吐息が漏れてしまい、二個三個と食べ進んでしまう。
惚けた顔の私とは対照的に、どこか不満げに眉を顰める彼女。
私の視線に気づいた後一瞬だけ固まって……その後、目を瞑り深呼吸し始めた。
それは何かになりきる時の私の癖で、今では彼女にも染み込んだ癖の一つ。
目を開けた彼女はただひたすらに私を見つめ続け、顔を真っ赤にさせていく。
愛らしく頬を膨らませたかと思ったら、私の唇に優しく唇を重ねてきた。
涙目で糖度計を咥える彼女
そう、彼女がなりきったのは……赤くて丸い甘もの。
爪楊枝をゴミ箱へ捨てて、深く彼女と繋がる。
「……ふふっ。こんなに甘い林檎、初めて」
「…………もっと食べてください」
「もー……じゃあもっともっと甘くさせてあげる」
愛の言葉を囁きながら、見つめ続けて熟される。
見つめれば見つめた分だけ赤く甘く香る……私の可愛い、林檎ちゃん。




