私はあなたの恋人だから。
父との一件から幾日たっただろうか。
呼び鈴が鳴り、日向さんがドアを開けると、部屋の前にキャリーケースが置いてあった。
「あれ? 誰もいない……あっ、これ私のキャリーケースだ」
中身を確認すると3億円入っていた。
サラッと言っているけど、とてつもない額である。
「二千万は抜かれてるね。って事は……雫を宜しくって言う意味かにゃ?」
嬉しそうに微笑む日向さんがとても可愛くて、思わず照れてしまう。
「……ねぇ、雫」
「どうしました?」
「……家、買おっか♪」
◇
コンビニに寄るかのように不動産屋に入り、お菓子を買う感覚で家を買った。
おまちって凄い所なんだなぁ……
「その場でキャッシュで払う人なんて初めてだって。なんか気持ちいいよね」
満足気な日向さんを見て、私も満足してしまう。
下見もせずに買ったので、話についていけなかったけど……どんな家を買ったのだろう。
「手続きとかしなきゃいけないけど、もう使ってもいいって言ってたから……見に行く?」
首を縦に振ると、その場で抱きしめられた。
大通り、相変わらずおまちの人達は他人に無関心。
「ひ、日向さん……その……見られちゃいます……」
「いいよ、見せとけば……二人だけの家だよ? 嬉しくて……こうしたくなっちゃった」
嬉しい筈の言葉なのに、どこか不安を感じさせる声色。
能天気に生きている私には分からないけれど、私は恋人だから……
あなたがしてくれるように、私もあなたの心を暖かくさせたい。
「じゃあ……ずっと一緒にいられますね…………」
「……雫?」
「晴……さん」
「……素敵。もう一回言ってよ」
「…………だっ、駄目です!! 恥ずかしすぎて死んでしまいます……」
「あーあ、録音しておけば良かった。ねぇ、お昼新居で食べようよ。コンビニ弁当でいいからさ」
「良いですね。ケーキとか買いませんか? その……記念の日ですし……」
「ふふっ、同じ事考えてた。行こっ♪」
路地裏に入って、日向さんは腕を組んでくれた。
いつもより少しだけ早足なのは、私も同じ。
初めて共有できる二人だけの何かが嬉しくて、幸せで。
きっと私達は、同じ顔をしている。




