雨、階段の真ん中で
雨、雨、雨。
三日間降り続く梅雨の走り、晴さんはお部屋でヨガをしながら何か考えています。
いつもより少しだけ違う口角。何か答えが出そうな時の晴さんの癖。それはきっと、私だけが知ってる……私しか知らないあなた。
お出かけするのかな……?いつでも出られるように準備をしておかないと……そう思った矢先、あなたは嬉しそうな顔で私に微笑んだ。
「ねぇ、お散歩しよっか」
◇ ◇ ◇ ◇
お揃いの長靴に雨合羽。
あなたに合わせ、お洒落にレインブーツとレインコートなんて呼ぼうとしたけれど……そのままが好きと言われたので、長靴と雨合羽。
晴さんの会社のお知り合いの方が作ってくれた特注の雨合羽。
おバカップルになりたいと言った私の為に晴さんが考えてくれた物で、雨合羽を着ながら手を繋ぎ密着すると、袖に描かれたハートマークが一つになる……世界で一つしかない特別な雨合羽。
フードには猫の耳が付いており、今の私達は宛ら晴好雨奇な猫二匹。
長めの階段の前で立ち止まり、私の前でニコニコと微笑むあなたは……
「いくよ? じゃんけーん── 」
「ふぇふぇっ!!? 「ポンッ」」
よくあなたに言われていることを思い出す。
“私も雫も頑固だから、じゃんけんはいつもグーのあいこで始まっちゃうよね”
案の定、手を握ってしまっている私。
全てを見通していたあなたは愛らしくも悪戯気に笑い……手のひらを広げ、ヒラヒラとしていた。
「ふふっ、私の勝ち♪ パ、イ、ナ、ッ、プ、ル」
じゃんけんで勝った手の形の頭文字から取った言葉で階段を進んでいく遊び。
初めてあなたから仕掛けてきた時に反応が出来ず……知らないと言った時のあなたの驚いた顔は、忘れられない私の宝物。
どの私の初めてもあなたは喜んでくれるけど……その沢山の初めての分だけ見られるあなたの表情に……私も幸せを感じてます。
じゃんけんに勝ち続けるあなた。
だいぶ離れてしまい……次にあなたが勝てば階段は終わり。
気合を入れたあなたにチョキで勝つ私。
本来はチョコの筈なのに……離れてしまったこの距離に、想いが口から溢れ出てしまう。
「……チューしたいです」
言い訳がましく言うならば……頭文字だけなら合っている。
文字数の分だけあなたに近づくと、袖に描かれたハートマークが疼いている感覚がした。
あなたを……この心の片割れを、求めてる。
再びじゃんけん。チョキで勝ったあなたは私の方を向き、階段を下り始めた。
「……チューしてもいい?」
一段、一段と近づくに連れて……鼓動の強さが増していく。
雨粒達は段鼻で軽やかに踊りだし、少しだけ高い音をたてながら私達を揶揄っている。
私と同じ位置まで来たあなた。
これが最後のじゃんけんだと……何故か当たり前のように理解していた。
「じゃんけん……ポンッ」
お互いチョキのあいこ。
結末を見守るかのように、一瞬止む雨音。
どちらからともなく唇が触れ合うと……祝福するかのように、雨粒達は再び踊りだしていた。




