87・加害者達は、自業自得で助けを求めることになります
「さあ、今年もやってまいりました! アレンテリア魔法学園祭の目玉イベント、迷宮探索です! 実況は私、放送部のマリーナがお送りいたします!」
放送部の生徒が特殊魔石で声を響かせ、参加者にも観戦する生徒達にも、あらためてルールを説明する。
「この競技では、各クラスの代表者五名までがダンジョンに潜り、魔獣や罠などの脅威を自身の魔力によって解決しながら、地下へと進んでゆきます。最も早く、迷宮内に隠された宝箱を見つけ、持ち帰った生徒の優勝です。ダンジョン内の様子は、あらかじめ先生方によってダンジョン内に設置された魔石を通して魔法の鏡に映し出され、皆で見届けられるようになっています!」
ようするに監視カメラのような魔道具があり、ダンジョン内の様子を、参加者ではない生徒達・生徒の保護者達など外部の人達も観戦できるということだ。
だけどもちろん、広いダンジョン内の全てに魔道具が設置されているわけではなく、映らない場所というのもある。……だからまあ、ルディーナ達は絶対何かしてくるんだろうな、というのも予想できる。
「なお、今年の優勝候補は、侯爵家令嬢にして、学園一の魔力を持つ、ルディーナ様です! ルディーナ様、一言お願いします!」
「ええ、もちろん狙うは優勝よ。私の魔法の力を、皆さんにお見せできるのが楽しみだわ」
ルディーナは、フローザに向ける鬼のような形相ではなく、あからさまに余所行きの猫被った笑顔で言った。この競技は学園祭の目玉で、生徒だけでなく保護者達も注目しているからな。この子、外面だけはいいのね。
「とても楽しみですね! さあ、それでは迷宮探索、スタートです!」
わっと、大勢の生徒達がダンジョンに入ってゆく。
各クラスの代表は五人までだが、別に五人で一つのチームというわけではない。本当は協力し合ったほうが効率よく進めるんだろうけど、まあこの面子では絶対無理だ。スタート時くらいは一緒にいても、そのうちバラバラになるだろう。
ダンジョンに足を踏み入れると、以前ここを訪れたときと同じように、やはり数多の魔獣がうろついていた。
(とはいえ、まだ聖女だってバレないほうがいいし……)
「『ヴィルレジード』、お願いね」
「お任せください、『フローザさん』」
偽名で語りながら、ひとまず彼に任せることにする。
ヴォルドレッドは鮮やかな剣さばきで、次々と魔獣を倒していった。
(相変わらず、すごい。見ていて気持ちいいわ)
初めて彼の実力を目の当たりにする、別のクラスの生徒達は目を丸くしていた。
「すごい……あれ、転入生のヴィルレジードって人でしょ?」
「素敵な人だと思っていたけど、剣の腕もすごいなんて……」
「いや、ちょっと待て!」
そこで、別のクラスの男子生徒が口を出してくる。
「うちは魔法学園なんだぞ! 魔法を使えよ、卑怯者!」
別に、この迷宮探索において武器の使用が禁止というわけではない。だが、彼は納得がいかないようだ。……というか、自分よりヴォルドレッドが目立つことが許せないのだろう。しかし、ヴォルドレッドはにこりと優美な笑顔を浮かべて――
「おっと。それもそうですね」
彼は剣を鞘におさめ、今度は掌を魔獣に向けた。
「炎よ、敵を焼き払え」
次の瞬間、周囲の魔獣が一斉に炎に包まれて消滅する。
その、一般生徒ではとても使えないような強力な魔法を前にして、絡んできた男子生徒は、あんぐりと口を開けていた。
「魔法で倒しましたよ、これでご満足いただけたでしょうか?」
にっこりと、ヴォルドレッドは男子生徒に微笑みかける。彼はビクッと肩を震わせた後、ぶんぶんと首を縦に振った。
「は、はい! 何の不満もございません!」
「そうですか、それはよかったです。では、私達は先に進みますので」
周りの人々はそれ以上何も言うことができず、私達はダンジョンの奥へと進んでゆく。
すると、ひそひそと話し声がしてきたので、能力向上で聴力を上げ、耳を傾けてみた。
「フローザの奴、ヴィル様に守ってもらってるわ!」
「ふん。一体どうやって彼を誑かしたのかしら」
「一人じゃ何もできないなんて、情けない子!」
(あなた達だって、いつも三人一緒でしょ)
自分のことを棚に上げて、よく人のことばかり悪く言えるものだ。
とはいえいちいち相手にしていたらキリがないので、私達は先に進むことにした――
◇ ◇ ◇
●ルディーナSIDE
ミア達は、順調にダンジョン内を進んでいた。
その一方で、ルディーナ達は相変わらず悪だくみをしていた。姑息にも、魔法の鏡に映らない場所を計算したうえで、誰にも知られないように、だ。
「フローザの奴、ヴィル様から離れませんね」
「一人になったところを狙ってやろうと思ったのに。これじゃあヴィル様も巻き込んでしまいますね」
「ふん、構わないわ! 最初は、麗しくて素敵な方だと思っていたけど……。この私よりあんな子に味方するような男、フローザとまとめて潰してやる!」
「そうですね。やってしまいましょう、ルディーナ様!」
「ふふ。大勢が注目している中で、あいつらに恥をかかせてやるわ」
ルディーナは床に魔法陣を描き、魔法を使う。
するとその魔法陣から、大型の魔獣が現れた。
召喚魔法だ。翼で宙を飛び、蝙蝠に似ているが、それより格段に大きい。更に、鋭い牙と爪がギラついている。
ルディーナは胸を張って、その魔獣に命令した。
「さあ、魔獣よ。フローザを叩きのめしてきなさい!」
召喚魔法とは通常、召喚された魔獣は、召喚者に従うものだ。
しかし魔獣は、一行にフローザ達のほうへ行こうとしない。
それどころか、ギラギラと戦意が漲る目でルディーナ達を見ている。
「ル、ルディーナ様……何か、おかしくありませんか……?」
「ど、どうしたのよ、魔獣! とっととフローザ達のところへ行きなさい!」
しかし、魔獣はやはりルディーナの命令を聞かない。
それどころか、鋭い爪を振り下ろし、ルディーナ達に襲いかかって――
「gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
「ぎゃああああああああああああああああああ!?」
ルディーナ達は、仮にも魔法学園の生徒なのでなんとか防御魔法で防いだものの、涙目になっていた。
「嘘……!? 召喚獣が、私の言うことをきかない……! 暴走している!」
「そんな……! どうしてですの!? ルディーナ様が魔法を失敗するなんて……!」
「こ、こんなの、何かの間違いよっ!」
しかし、三人がそう喚いたところで、魔獣に言葉は通じない。
魔獣は鋭い牙で、彼女達に噛みつこうとして――
「ぎゃああああああああああああああああああああああっ!!」
◇ ◇ ◇
●ミアside
あれからも、魔獣にも罠にも何ら苦戦することなく、私とヴォルドレッドは宝箱のある場所まで辿り着いた。
「これを持っていけばいいのね」
「はい。おめでとうございます、これであなたが優勝者です」
「戦闘はほぼあなたにやってもらったけどね」
そうして、宝箱を開けようとしたところで――
「いやあああああああああああああああっ! 助けて、誰か、助けてぇぇぇぇぇっ!!」
(ん……? この声は……)
読んでくださってありがとうございます!
次回は「聖女であると、正体を明かします」
9月19日(金)更新予定です!





