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こいつら何なんだワン

「確かに、プニ長様が六助殿と柴田殿の話を真面目に聞いていたとは限らぬ。なれば『お前ら何なんだワン、そろそろ黙れワン』と仰っていた可能性もある」

「いや、プニ長様は真に尊き御仁なれば、そのようなことを仰るはずはなかろう」

「お主にプニ長様の何がわかるというのだ?」

「は?」

「何だお主?」

「キュキュンキュン(お前ら喧嘩すんな)」


 家臣団のおっさん二人の言い争いを止めるつもりでそう言うと、どういうわけか全員が一瞬、完全に固まってしまった。そして動き出すや否や、こちらを見ながら互いに顔を近付けて何やら談議を始める。


「今のは何と仰ったのだ?」

「時機で考えれば、喧嘩を仲裁しようとしてくださったものかと」

「いと尊し」

「もしや、プニ長様は元来、あまり戦を好まれない方なのでは?」

「そんなことわかりきっておるわ」「いや、本当にそうなのか?」

「ちょっと待て」


 六助は挙手をして場を制し、皆の視線を集めてから口を開いた。


「場合にもよるが、今いずれかの者が申した通り、プニ長様は戦を忌避される一面もお持ちだ。だとすると、先日の一幕においてプニ長様は『戦は止めるワン。小谷城を攻めること自体が良くないワン』と仰られた可能性も出て来るぞ」

「なるほど……!」「いと尊し」

「しかし、そうなると話は難しくなるでござる。裏切者の浅井家を攻めないという選択肢は、織田家の体裁にもかかわってくる問題なれば」


 柴田の言葉をきっかけにして、家臣団は眉根を寄せてうなる者と、抗議の声をあげる者に二分された。


「むむ、柴田殿の仰る通り。とはいえ、プニ長様の命令は絶対。逆らって小谷城を攻めるわけにはいかぬ」

「待て待てい。まだそうと決まったわけではなかろう。もしかしたら『そんなことどうでもいいけど、お腹減ったから寝るワン』かもしれないではないか!」

「それもまたいと尊し!」


 と、こんな感じで騒がしくも特に意味のないやり取りが幾度も繰り返され、議論は平行線を辿っていく。しばらくして、肩で息をする六助が全員の意思を代弁するかのごとくつぶやいた。


「結局のところ、我々ではプニ長様の真意を推し測ることは出来ぬ。ソフィア様かせめて切れ者の秀吉殿でもいれば……」


 引き続き秀吉は横山城の守備に当たってもらっているので、ここにはいない。

 誰もが口を閉ざし、先刻とは打って変わってお通夜のようになってしまった空気を噛みしめながら、よしこれで眠れるな……と思いつつ寝転んだその時、賑やかな黄色い声が鮮やかに空気を裂いた。


「はぁ~い! 呼ばれて飛び出た、皆のアイドルソフィアでぇ~す!」


 いつの間に現れたのか、ソフィアは俺の背後から家臣団の最後尾へと、軽やかに飛び回って空を駆けていく。

 最初は突然の登場で呆気に取られていた家臣団も頭が追いつくと、徐々に歓声が沸き上がっていった。


「おお、ソフィア様じゃあ!」

「ソフィア様が降臨なさったぞぉ!」

「正に救世主!」「これで我らも安泰じゃあ!」

「して、あいどる、とは何だ?」

「文脈から考えて人気者、という意味ではないのか?」

「端的に言って尊い存在ということか」「それは端的に言い過ぎでは」

「とにかくプニ長様の次に尊いことは間違いない」

「異議なし!」「異議なし!」


 まるで戦に勝ったかのように浮かれているおっさん共に、俺はドン引きしつつがっかりもした。決断を皆の手に委ねようと思っていたのに、結局俺が下さねばならない流れが出来てしまったからだ。

 まあ、当主として当然の務めと言えば務めなんだけど、各人の気持ちを考えれば俺が一人で決めるのはとても難しいことのように感じる。

 ソフィアは俺の横にまで戻って来ると、ぱたぱたと羽根をはばたかせて滞空しながら仕切り始めた。


「はい、それでは早速ですが皆さんお困りのようですので! プニ長様に聞きたいことがある方はどうぞ!」


 さっとソフィアが手のひらを上に向けて差し出すと、家臣団の方からはものすごい勢いで手が上がった。


「プニプニを! プニプニを賜ってもよろしいでしょうか!」

「おいずるいぞ貴様! 我が先じゃあ!」

「いやそれどころではないだろう! せっかくプニ長様とお話が出来るのだ! 一緒にお散歩に行くのが先に決まっている!」

「キュキュンキュン? (浅井家の話はどうなったの?)」

「浅井家の話はどうなったのかワン! と仰っています!」


 そこで皆の動きがぴた、と止まった。今日はこの光景を良く見かける。


「浅井家、ですか?」

「それはまあ、後でも……なあ?」

「キュキュン(何でだよ)」

「せっかくお話が出来るのに軍議など、プニ長様は真にいと尊しですなあ!」

「全くだ、はっはっは!」「はっはっは!」

「そうですねえ、わっはっは~!」


 ソフィアまで悪ノリし出したし、もうどうでもよくなってきた。

 そして……。


「織田家の皆様だ!」「御出陣か?」

「また勝利して国を豊かにしてくださるに違いない!」


 本当に皆で散歩にいくことになった。

 馬に乗り、ぞろぞろと行列を成して街を闊歩する家臣団に、美濃の住民たちは戦にいくものだと勘違いしている。そりゃあ、おっさんたちがこぞって犬連れて散歩にいくなんて思いもしないだろうよ。

 

 それから数時間後。

 散歩はのんびりじっくりと夕刻まで続いてしまう。城に戻る頃には、空に茜色をにじませる夕日が、山の向こうへと隠れようとしているところだった。


「しかし、プニ長様が現在お気に召されている食べ物が野菜だと知れたことは僥倖であったな」

「ああ、真にな」


 ソフィアがこちらに来るのは、俺にとってはそう珍しいことじゃない。でも夜が中心だから家臣たちと喋ることの出来る機会はそう多くなかった。

 前回好きな食べ物を聞かれた時には、面倒くさいので適当に「肉」と答えたら献上品には肉がよく出るようになったので、今回は「野菜」と答えておいた。全然回答になっていないのに満足する辺りはこいつららしい。

 現在俺は行列の中央で、六助の馬に同乗させてもらっている。ソフィアはその横をふよふよと飛んだり、たまに俺の背中に乗ったりしていた。


「それにしても、すっかり遅くなってしまいましたな」

「うむ。楽しい時間が過ぎるのは残酷なまでに早いでござるな……」


 おっさん二人が真剣な表情で何か言っている。

 六助は会話をしていた柴田から視線を外すと、今は俺の背中で休息しているソフィアに話しかけた。


「ソフィア様は、また明日もお見えになるのですか?」

「はい、また昼に来る予定です!」

「では軍議はまた明日にしましょう」


 一日散歩に付き合わされ、もうツッコむ気力もない。俺もぼちぼち帰蝶の屋敷に帰って休みたいという点では同意見だし。


「それでは、今日はこれにて解散!」


 六助の号令にて城の前で解散し、家臣団はそれぞれの帰路についた。俺もソフィアと共に徒歩で帰る。六助が送りますと言ってくれたけど、疲れていて一人で帰りたいので断っておいた。

 屋敷に帰ると、すぐに帰蝶とお市、モフ政が出迎えてくれた。基本的に帰蝶は俺に付き添って、お市は気が向けば軍議に参加するんだけど、今日はお市が沈み込んでいたので、帰蝶も付き添いで屋敷に残っていた。

 顔を合わせるなり、お市が不機嫌そうな、でもどこか怯えているような表情で尋ねてくる。


「……結局どうなったのよ」

「キュキュン(明日に延期)」

「明日に延期になりましたよ!」

「は? 何よそれ」

「キュキュン(俺にもわからん)」


 散歩のし過ぎで軍議が延期になったとか意味がわからないし、下手をすればお市に殴られる可能性もある。ここはあまり語らない方がいいだろう。

 その辺りを察したソフィアが颯爽とお市の前に出ていく。


「まあまあそれはいいじゃないですか! お腹ぺこぺこですし、早くご飯が食べたいです!」

「いいわけないでしょ」

「ご飯を食べてからでもいいじゃない。プニ長様にソフィア様、今日の夕飯は私とお市ちゃんで作ったんですよ」

「おお、美少女二人の作ったご飯、楽しみです!」


 そうして楽しくご飯を食べ、夜は更けていくのであった。

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