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打倒義昭へ?

第二章最終話です。第三章開始まではしばらくお時間をいただきます。予めご了承ください。

「織田家として講和に利用しておいて何でござるが、今の室町幕府などというものは、昔ほどの権威は持っていないでござる。彼らをこのまま野放しにしておくよりは倒してしまった方が織田家への利益は大きいと思うのでござるよ」


 たしかに、最近織田家と敵対している本願寺、浅井朝倉を中心とした勢力の現在のまとめ役が義昭となれば、このまま放置しておけばまた以前のように危機的な状況に陥ってしまう可能性が高い。

 各勢力の撃破の前にまず義昭を、というのは自然な流れかもしれない。


「そうでございましたか。であるならば、六助殿に真っ先に伝えるべきではない、という心配をする必要はなかったのですね」

「いえ、それはそれで素晴らしき配慮に。六助殿に伝えれば、打倒するにしても比叡山の時のように必要以上に暴れようとすると思うので」


 必要以上に騒いで比叡山を燃やした男が何か言っている。


「では、義昭様を攻めるのですか?」

「う~む。なるべく早期にそうした方がいいのは事実なのでござるが、そのまま家臣たちにそれを伝えれば六助殿が何をするかわからぬ」


 帰蝶は目を伏せ柴田は顎に手を当てて、二人して考え込んでいる。お市は興味がないのか、いつの間にやらモフ政の両前足を掴む形で抱っこして遊んでいた。

 ややあって、帰蝶が顔を上げる。


「攻めるにしても、理由を偽る……というのは?」

「おお、それはいいでござるな」

「私ではいい理由を思いつくことは能いませんが」


 柴田がまた、少しの間考え込でから口を開いた。


「義昭殿が『居城を攻めて欲しい』と申している、というのは?」

「それでは義昭様がただの変態になってしまわれるのでは」


 嘘つくの下手かよ。

 ツッコミを入れた帰蝶の困り顔がシュールな雰囲気を醸し出している。


「だったら、六助をどこか旅行にでも行かせて、その間に義昭を討伐してしまえばいいんじゃないの?」


 と言い出したのは、モフ政と遊んでいたはずのお市だ。興味がない風に見えて話は聞いていたらしい。


「そそ、それは妙案でごじゃるな」


 賛同した柴田の顔は赤いし噛み噛みだ。


「六助には嘘をつく形になるけど、まあ一人だけ休んで遊べるんだから問題ないでしょ」

「でも、行き先に困らない? 大体が美濃か尾張か、三河辺りになると思うけど」


 帰蝶の問いに、お市は俺を顎で示しながら答える。


「六助なら、そこの犬でもつけて適当に温泉でもいかせときゃ、行き先がどこだって満足するわよ」

「キュンキュン(勝手に俺を巻き込むな)」


 ていうか六助の扱い酷いなおい。あいつはたまにおバカなことしてるけど、真面目に頑張ってるしいいやつだぞ。むしろそれを知ってるから、家臣団があいつを悲しませないように色々と気を揉んでるんだぞ。

 俺がそう考えている一方で、帰蝶と柴田は意外な反応を見せる。


「そうか、それもいいでござるな」

「ですね。プニ長様もここしばらくはずっと戦に帯同していただいていますから、六助殿とゆっくりお休みいただくのがよろしいかと」

「うむ」

「戦でなければ、私も御一緒出来ますし」

「うむ。たまには夫婦水入らずで……というやつでござるな」


 柴田が腕を組み、満足気な表情で首をうんうんと縦に振っている。


「飼い犬と飼い主の間違いでしょ」

「もう。お市ちゃんたらまたそんなこと言って」

「キュン。キュンキュンキュ(そうだぞ。妹に甘い俺でもいい加減怒るぞ)」

「あ。ほら、プニ長様もお怒りになられてるわよ?」


 そう言いながら笑みをこぼす帰蝶。

 凄みを出したつもりでお市に近寄ったにも関わらず、控えめに頬をプニプニと突つかれてしまう。


「あんた、そんな顔したって全然迫力ないわよ」

「キュン(うるさい)」

「…………」


 あの、ちょっとプニプニし過ぎじゃないですかね……。きっと、二人きりなら存分にプニモフしたいシチュエーションなんだろうなあ。

 兄どころか母の様な心境になり、帰蝶や柴田と一緒に微笑ましい気分で見守っていると、やがてそれに気付いたお市が我に返って一つ咳払いをした。


「そっ、そうと決まれば六助には早く温泉行きを伝えた方がいいんじゃない」

「そうだね」

「とりあえずは使いの者を出すでござるか」


 そう言って部屋を出た柴田は、適当にその辺のやつに声をかけた。


 数分後。呼ばれて飛び出た六助は、何故か肩で息をしていた。


「お、お呼びでしょうか……」

「何故、そのように息を切らしているのでござるか?」

「同じ日の内に、何回か、ここと、屋敷を、往復致しましたので……」


 そう言えば、家康との食事から日付が変わっていない。外を見れば、彼方にそびえる山の稜線が茜色を帯び始め、夜の到来を今か今かと待ちわびている。

 つまり六助は鷹狩りに行って急にこの城まで引き返し、屋敷に一度帰ったかと思えばまたここ(最上階)に呼び出されたというわけだ。


 息を整えた六助は、部屋に入って柴田と向かい合うようにして座る。帰蝶とお市は少し離れたところにいて、俺は帰蝶の膝の上にいた。


「それで、こんな時間でしかも突然に私を呼び出すとは、一体どのような用件なのでしょうか」

「実は、六助殿に温泉に行って欲しいのでござる」

「何故!?」


 話すの下手くそかよ。そりゃ誰だってそうなるわ。


「比叡山延暦寺を撃破し、これから織田家に仇なす勢力をさあ潰していこうというところではありませんか。私だけ休んでいる暇などありませんよ」

「それはもちろん承知の上でござる。それでもあえてここは一つ、何も聞かず温泉に行ってはくれぬでござろうか?」

「だからどんな状況!?」


 座りながら腰を折る柴田に、六助が腕を広げて愕然としている。

 織田家中随一の口下手な柴田は、比叡山の時のような状況を除けば、基本的に頼み事は言い訳や嘘は無しでのごり押しスタイルだ。どういう風に六助を説得するかきちんと話し合わずに呼び出したのは失敗だった。

 これはまずいと言わんばかりに、帰蝶が慌てて割って入る。


「急な話で申し訳ございませぬ。ですが、プニ長様がどうしても温泉に行きたいと仰いまして」


 しゃあねえ、愛しの妻の為にここは一肌脱ぐか。

 帰蝶の膝の上から旅立って六助の元まで行き、最大限に可愛いと思える顔を作って見上げる。


「キュウ~ン(温泉行きたいな~)」

「うおおっ……」

「ご覧の通りです。私も御一緒致しますし、重臣であり信頼の置ける六助様に護衛をお願いしたいのです」


 もちろん言葉は通じていないけど、その辺りはソフィアが来て通訳をしてくれたとか思い込んでくれているはずだ。


「その間に、プニ長包囲網を形成している勢力の撃破は進めておくから安心して欲しいでござるよ」

「六助様も最近は働きづめでお疲れのご様子。ここは一つ、私やプニ長様と湯治をされては如何でしょう?」


 帰蝶のナイスな機転によって、ようやく六助は考える素振りを見せた。

 やがて顔を上げた六助は、ゆっくりと首肯する。


「わかりました。二人がそうまで仰るのであれば、この司寿六助、プニ長様と帰蝶殿の護衛を務めさせていただきます」

「ありがとうございます」


 やっとのことで事態が収束し、帰蝶と柴田がほっと胸を撫でおろした。


「あっ、ちなみに私とモフ政も行くから」

「そうなの?」


 全くの想定外な事態に、帰蝶が勢いよくお市の方を振り返る。


「そりゃそうでしょ。暇だし」


 身も蓋もない理由を聞かされた帰蝶は優しく微笑んだ。


「そっか。ふふ、楽しくなるね」


 というわけで、温泉に行ってきま~す!

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