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137. ちんちくりん

「何よ? こいつらにもあんたの『本当の姿』見せておいた方がいいんじゃないの?」


 シアンは、意味ありげに微笑んだ。


 その碧い瞳の奥に、悪戯を企む子供のような光が宿っている。


「いや、でも、ここ、渋谷ですよ?」


 レヴィアは困惑した声を上げた。


「いいじゃない渋谷だって。それにこいつらあんたのこと『ちんちくりんの女子中学生』だと思ってるよ? ねぇ?」


 シアンはレオンに振った。


 その碧い瞳が、悪戯っぽく輝いている。


「ち、ちんちくりんだとは思いませんが、可愛い女の子……じゃないんですか?」


 レオンは困惑した。


 確かに、レヴィアは小柄で幼い容姿をしている。


 ポテトチップスを抱えて転がり出てきた姿は、どう見ても女子中学生だった。


 けれど――『本当の姿』とは、一体どういう意味なのだろうか。


 まさか、この可愛らしい少女の正体が、まったく別の何かだと?


「ふんっ! まぁ、そういうことなら……」


 レヴィアは何かを決意したように頷いた。


 その緋色の瞳に、矜持(きょうじ)の炎が灯る。


 そしてピョンと、宙に飛び上がった。


 小さな身体が、すうっと夜空に舞い上がる。


 まるで、重力など存在しないかのように、軽やかに。


 刹那、ズン!とレヴィアが、爆発した。


 轟音と共に、爆煙が渋谷の上空に広がっていく。


 衝撃波が、レオンたちの髪を激しく(なび)かせた。


「うわぁ!」


「えっ!?」


「爆発しちゃった!?」


 レオンたちは、思わず身を縮めた。


 何が起きたのか、まったく分からない。


 レヴィアは、なぜ爆発などしてしまったのか――?


 やがて煙が、ゆっくりと晴れていく。


 夜風が、灰色の幕を払っていく。


 その向こうに、何かが見える。


 巨大な、何かが――。


「な……っ!」


 レオンは、言葉を失った。


 現れたのは、巨大な影だった。


 旅客機ほどもある巨体が、悠然と宙に浮かんでいる。それも漆黒の鱗に包まれた、恐ろしげな姿で。


 それは翼を優雅に広げ、長い首をもたげ、一行を見下ろしている――(ドラゴン)だ。


 伝説にのみ語られる、神話の生き物。


 大陸では、千年に一度現れるかどうかという、究極の存在。


 そのつややかな漆黒の鱗は、眼下に広がる夜景の煌めきを映し込んで、神秘的に輝いていた。


 まるで、夜空そのものが形を持ったかのように。


「ま、まさか……これがレヴィア……さん?」


 レオンは、声を震わせながら呟いた。


 巨大な緋色の瞳が、まるでルビーのように光を放っている。


 その色は紛れもなく、先ほどまでの少女と同じだった。


 あの、ポテトチップスを抱えていた女子中学生。


 あの、アニメを取り上げられそうになって必死にしがみついていた少女。


 その正体がこの、神話の龍だったのだ。


 巨大な翼がゆったりと羽ばたき、その度に強風が吹き荒れた。


「ほわぁ!」


「す、凄い……」


 少女たちが、恐怖と驚愕に目を見開いた。


 ウェディングドレスの裾が、激しくはためく。


 恐ろしい。


 けれど、同時に美しかった。


 圧倒的な存在感。


 神々しいまでの威厳。


 これが、真の龍の姿なのだ。


 ギョワァァァ!


 腹の底に響く重低音の咆哮が、渋谷一帯に響き渡った。


 ビルの窓ガラスが、びりびりと震える。


 大気そのものが、その威圧感に(おのの)いていた。


 街を歩く人々が、一斉に空を見上げる。


 悲鳴を上げる者、立ち尽くす者、スマートフォンを構える者――。


 渋谷の街が、一瞬にして混乱に包まれた。


「我こそが真龍レヴィアである。小僧ども、分かったか! カッカッカ!」


 その声は、先ほどまでの少女の声ではなかった。


 大地を揺るがすような、重厚な響き。


 先ほど『ちんちくりん』呼ばわりされた鬱憤(うっぷん)を、ここぞとばかりに晴らしているようだった。


「可愛い奴だろ? きゃははは!」


 シアンは楽しそうに笑った。


 そして、指先をくるっと動かす。


 淡い光が、圧倒されているレオンたち一行を包み込んだ。


 温かく、けれど逆らえない力。


 五人の身体が、ふわりと宙に浮かび上がった。


「うわぁ!」


「ひょえぇぇ!」


 いきなり無重力状態となって、空中に巻き上げられる。


 足元から地面が消え、身体が勝手に上昇していく。


 そのまま、龍の背中へと運ばれていった。


「そーれっと!」


 シアンが、軽やかに声を上げた。


 次の瞬間、五人は龍の背中に乱暴に放り投げられた。


「うわっとぉ!」


「ひぃ!」


「キャァッ!」


「いやぁぁ!」


「もぅっ!」


 ウェディングドレスが、ふわりと広がる。



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