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136. 張り合う一族繫栄

 レオンはふと、自分の姿を見下ろして絶句した。


 白いタキシード。


 銀糸で刺繍された、豪華なジャケット。


 胸元には、深紅の薔薇のコサージュ。


 まるで、王族の結婚式に出席するかのような正装だった。


「結婚! おめでとーう!」


 シアンが満面の笑みで両腕を大きく広げ、祝福する。


「あ、ありがとうございます」


 レオンは、まだ状況に追いついていなかった。


 さっきまで、焼け野原での国づくりの話をしていたはずなのに、気がつけば結婚式の衣装を着せられている。


 熾天使(セラフ)の気まぐれは、本当に予測がつかない。


「そしたら記念撮影と行きますか! ハーイ! こっち向いてー!」


 シアンが、見慣れない薄い黒い板のようなものを構えた。


 その背面に、光る窓のようなものがある。


 どういう仕組みかは分からないが、この板でこの光景を描き取るらしい。想像を絶する神の技である。


「はい、笑ってー!」


 しかし、みんな慣れない状況に表情が硬い。


 エリナは照れくさそうに視線を泳がせ、ミーシャは微笑んではいるが、どこかぎこちない。


 ルナは顔を真っ赤にして俯き、シエルは緊張で肩に力が入っている。


 シアンは、不満そうに口を尖らせた。


「おーい、キミたち、結婚したんでしょ? 幸せなんでしょ?」


 みんな顔を見合わせる。どういう顔をしたらいいのかピンとこないのだ。


「じゃあ聞くけど、キミたち子供何人作るの?」


 シアンはニヤリと、悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「へっ!?」


「そ、それは……」


 視線が、一斉にレオンに集まった。


 四人の花嫁の視線が、まっすぐに彼を貫いている。


 期待と、恥じらいと、そして――ほんの少しの挑発が、その瞳に宿っていた。


 レオンは顔を真っ赤にしながら、しどろもどろに答えた。


「そ、そんなこといきなり聞かれても……ねぇ」


「私は三人!」


 シエルが、凛とした声で宣言した。


 その碧眼が、真剣に輝いている。


「なら四人!」


 ルナが、負けじと声を張り上げた。


「あらあら、なら私は十人……ね。ふふっ」


 ミーシャが、いつもの微笑みを浮かべながら言った。


 その言葉が、本気なのか冗談なのか、誰にも分からない。


「じゅっ、十人!? じゃ、じゃあ私は二十人なんだから!」


 エリナは目をぎゅっとつぶると言い切った。


 その声には、珍しく子供っぽい対抗心が滲む。


「きゃははは! いいじゃない、一族繫栄だわ!」


 シアンの笑いにつられてみんな一斉に笑う。


 緊張が、一気にほぐれていく。


 夜空の下、五人の笑い声が響き渡る。


 みんな幸せだった。


 こんなにも、幸せだった。


 絶望に突き落とされた中からつかみ取った幸せ――。


 今、こうして、大切な人たちと一緒に笑い合っている。


 それだけで、みんな胸がいっぱいだった。


「おぉ、いいねいいね! はいチーズ!」


 パシャーーッ!


 軽やかな音が響いた。


 その瞬間、五人の幸せな笑顔が永遠に切り取られた。


「おぉいい笑顔だ。ほら」


 シアンはiPhoneの画面をみんなに見せて微笑む。


「えっ! こんな風に……写るんですね……」


 レオンは初めて見た『写真』を感慨深そうに見入った。


「ふふーん。後で額に入れてプレゼントするよ」


「へっ!? そ、それは嬉しいです!」


 レオンは目を輝かせた。


「うわぁ!」


「楽しみ!」


 少女たちの声が、嬉しそうに弾む。


 思い出の瞬間に、美しく正装した集合写真。これは、きっと一生の宝物になるだろう。


 どんなに辛いことがあっても、この瞬間を思い出せば、また前を向けるに違いない。



      ◇



「さて、お腹空いたわねぇ。何食べたい?」


 シアンはニコニコしながら、みんなを見回した。


 その問いかけに――。


「肉ーーッ!」


 ルナは、勢いよく腕を突き上げた。


 ウェディングドレス姿で、まるで戦士のような雄叫び。


 そのギャップが、どうしようもなく可愛らしかった。


「私もー!」


 シエルも嬉しそうに同意した。


 お嬢様育ちのはずなのに、その目は完全に肉を欲していた。


「なら、和牛が……」


 エリナはちょっと気が引けながら言った。


 あの美味しい霜降り肉の記憶がよみがえったのだろう。


「きゃははは! みんな若いねぇ。じゃぁいつもの焼肉屋にするかな」


 シアンは目を輝かせ、楽しそうに笑った。


「おっ! いいですねぇ!」


 レヴィアも、珍しく嬉しそうな声を上げた。どうやら行きつけの店があるらしい。


「じゃ、レヴィア、僕らを乗せてひとッ飛びヨロシク!」


 シアンはポンポンとレヴィアの肩を叩く。


「は? わ、我が運ぶん……ですか?」


 レヴィアは渋い顔で口を尖らせた。


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