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135. 大アルカナ

「で、国の名前はどうするんじゃ?」


 レヴィアはレオンの顔を覗き込んだ。


 その緋色の瞳には、どこか楽しげな光が宿っている。


「えっ!? 国名……?」


 レオンは言葉に詰まった。


 自分たちの夢を載せる理想の国の名前など、すぐには思いつかない。


 希望の国フェリシア。


 笑顔の国リリア。


 どれもどこか作ったような響きで、胸にグッと来ない。


「そんなの『アルカナ』でいいわよ」


 エリナは得意げに言った。


 黒曜石の瞳が、珍しく悪戯っぽく輝いている。


「あ……そうだねぇ……」


 レオンは考え込んだ。


 確かにアルカナが立ち上げる国なんだから『アルカナ』でいいのかもしれないが――。


 けれど、それでは何か物足りない気がした。


 パーティの名前と国の名前が同じでいいのだろうか?


「同じなのは芸が無いわ。『(メジャー)アルカナ』にしましょうよ。ふふっ」


 ミーシャが、いつもの微笑みを浮かべながら提案した。


「あーっ、いいねぇ! ふふふっ」


 ルナがノリノリで腕を突き上げる。


「私も賛成!」


 シエルも微笑んだ。


「確かに単なるアルカナじゃなくって、より重要なカードの名前って意味なら確かにふさわしい……かな?」


 レオンも頷いた。


 大アルカナ――タロットカードの中でも、特に重要な意味を持つ二十二枚のカード。


 愚者から始まり、世界で終わる、人生の旅路を象徴するカードたち。


 それは、自分たちがこれから歩もうとしている道のりにも、ふさわしい名前のように思えた。


「パーティから国への大きなグレードアップね。いいじゃない」


 エリナもまんざらではなさそうである。


「じゃあ『(メジャー)アルカナ王国』としてプロジェクトを立ち上げるぞ!」


 レヴィアは宙に指を滑らせた。


 虚空に、見えない文字を描くように。


 刹那——ポウッと淡い光が一行を包んだ。


「うわっ!」


「えっ!?」


「なにこれ?」


 温かい光が、身体の奥底まで染み渡っていく。


 まるで、祝福を受けているかのような感覚。


「お主らを王族として指定しといたんじゃ。これで我のシステム運用上いろいろな権限が付与される」


 レヴィアは、何でもないことのように言った。


「お、王族!?」


 ルナがキラリと目を輝かせた。


 その表情は、おもちゃを与えられた子供のようだった。


「え? 僕らが王様……ですか?」


 レオンは、信じられないという顔でレヴィアを見つめた。


 落ちこぼれたちが今、王族になろうとしている。


「お前らが国を作るんじゃろ? なら王様に決まっとろうが!」


 その時、レヴィアはふと、何かに気づいたように目を見開いた。


「……って、何じゃお主ら一夫多妻か!?」


「あ、いや、まぁ、これは……」


 レオンは、しどろもどろになった。


「はぁ、お盛んじゃな……」


 レヴィアは呆れたように肩をすくめた。


 そして、宙に浮かぶウィンドウをもう一度確認して——さらに目を丸くした。


「……って、さっき結婚したばっかりかい!? ほへぇ……」


 その声には、純粋な驚きが込められていた。


「面白い奴らだろ? くっくっく」


 シアンも嬉しそうに笑った。


 碧い瞳が、悪戯っぽく輝いている。


「想像以上じゃなぁ……」


 レヴィアは、改めてレオンたちを見回した。


 その緋色の瞳には、呆れと、そしてどこか感心したような色が混じっている。


「でも、新婚さんならお祝いしないとね?」


 シアンは、にっこりと微笑み――パチンと、指を鳴らした。


 その瞬間。


 眩しい虹色の光が、一行を包み込んだ。


 けれど、不思議と目は痛くない。


 温かくて、優しい光。


 まるで、祝福そのものが形を持ったかのような。


 光が晴れていく。


 そこに立っていたのは。


「うわぁ! こ、これは……」


 レオンは息を呑んだ。


 なんとそこには、四人の花嫁がいたのだ。


「素敵……」


「夢みたい……」


 少女たちの声が、風に乗って響く。


 エリナは、シンプルで気品のあるAラインのドレス。


 純白のシルクが、彼女の凛とした美しさを際立たせている。


 いつもの黒基調の軽装鎧とは違う、柔らかな雰囲気。


 ミーシャは、身体のラインに沿ったマーメイドラインのドレス。


 上半身から膝までぴったりとフィットし、そこから優雅に広がるシルエット。


 大人の色気と、聖女の清らかさが、絶妙に調和している。


 金色の髪がアップに(まと)められ、うなじが艶めかしく覗いていた。


 ルナは、ふんわりとしたプリンセスラインのドレス。


 小柄な身体を、雲のようなチュールが包み込んでいる。


 赤い髪が、繊細な編み込みでまとめられ、小さなティアラが輝いていた。


 いつもの勝気な表情が、今は恥ずかしそうに染まっている。


 シエルは、すっきりとしたスレンダーラインのドレス。


 シンプルだが、上質な生地が彼女の気品を引き立てている。


 男装の麗人が、今は完全な淑女として、そこに立っている。


 四人とも、手には色とりどりの花束――――ブーケが握られていた。


 白い薔薇、ピンクの芍薬、紫のラベンダー、青いデルフィニウム。


 それぞれの個性を映し出すような、美しい花々。


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