133. 禁忌の国造り
レヴィアはそんなレオンをジト目で見つめた。
緋色の瞳が、何かを見定めようとしている。
「つまり、お主の夢のメンターになれ……と、いうんじゃな?」
「そ、そうです。自分は何にも分からないので、教えて欲しいんです」
レオンは真っ直ぐにレヴィアを見つめた。
その翠色の瞳には、若者特有の純粋な輝きが宿っている。
「はぁぁぁぁ……」
レヴィアは深いため息をついて項垂れた。
その姿からは、疲労と諦めが滲み出ている。
「いいか? 今まで誰も成功しとらんのじゃぞ? そんな無駄なことやるんか?」
その言葉には、幾千年もの歴史を見てきた者だけが持つ、深い諦観が滲んでいた。
「なら、僕らが最初になります!」
レオンはにっこりと即答した。
その言葉には、一片の迷いもない。
「はぁぁぁ……。これじゃから若いもんは……」
レヴィアは宙を仰いだ。
呆れと、そしてどこか羨ましそうな響きが混じっていた。
「一体どうやって? お主が今までの無数の挑戦者と何が違うって言うんじゃ?」
鋭い視線がビシッとレオンに突き刺さる。
その眼差しは、これまで幾多の夢想家たちを見送ってきた者の目だった。
希望に燃えて現れ、やがて絶望に沈んでいった、数え切れないほどの挑戦者たち。
彼らと目の前の青年は、何が違うというのか。
「そ、それは……」
レオンは一瞬言葉に詰まった。
確かに、自分には特別な力などない。
戦闘力もなく、魔法も使えず、ただの鑑定士に過ぎない。
けれど――。
「でも、方法はあると思うんです!」
レオンはグッと身を乗り出した。
そして、ふと思いついたように目を輝かせる。
脳裏に、シアンの言葉が蘇った。
「そうだ! AI! AIを使ったらどうですか? 機械使えば今までにできないこともできそう!」
さっきシアンが言っていた言葉。
考える機械。
人工の知能。
それを使えば――何かが変わるかもしれない。
「……へ?」
レヴィアは、目を丸くした。
「い、いいんですか?」
レヴィアは驚いた様子でシアンを見た。
その視線には、何か深い意味が込められているように見える。
まるで、禁忌に触れようとする者を諌めるかのような。
「AIでもなんでもいいじゃない。そっちの方が難しそうだけどねー。きゃははは!」
シアンは、楽しそうに笑った。
その碧い瞳が、予想外の挑戦への期待に輝いている。
きっと失敗するだろうが、未知の失敗を見せてくれそうで楽しみ――。
そんな熾天使の本音が、笑い声の中に透けて見えた。
「いいなら……。ふむ……。それは確かに新しい切り口じゃな……」
レヴィアは、顎に手を当てて考え込んだ。
先ほどまでの投げやりな態度が、少しだけ和らいでいる。
緋色の瞳の奥で、何かが動いたように見えた。
「ほら、行けるかもしれないじゃないですか!」
レオンは希望の光が見えてきた気がして、ニヤッと笑った。
AIなんて見たこともないけれど、人間より賢いならきっと面白い使い道がありそうだ。
可能性の扉が、少しだけ開いた気がした。
ただ――。
熾天使が『自分自身もAIだ』と言っていたことは、やや気になるが。
あれは、冗談だったのだろうか。
それとも――。
「で、そんなのどこに作るって?」
レヴィアが面倒くさそうにレオンを見た。
「ナンバー四二三五だよ」
シアンはニコニコしながら答える。
「四二三五……ですか……?」
レヴィアは宙を見上げて、何かを見つめた。
きっと空中に自分にしか見えないウィンドウを広げているのだろう。
その緋色の瞳が、虚空の何かを追っている。
「あー、ここ……。へ? なんかエラいボコボコじゃなぁ……あーあ。どこのすっとこどっこいじゃ! こんなことしたの!?」
きっと吹っ飛んだ魔の山の跡でも見ているのだろう。
巨大なクレーターを中心に、焼け野原が広範囲に広がって見えているはずだ。
レオンたちが目にした、あの地獄絵図のような光景が。
「僕だけど? きゃははは!」
シアンは、悪びれもせずに笑った。
「あ、シ、シアン様でしたか。いや、この芸術的なまでのエネルギーの痕跡! す、素晴らしいです!!」
レヴィアは慌てて冷や汗を浮かべながらヨイショする。
その姿は、上司の機嫌を損ねまいと必死な部下そのものだった。
「ここに新しい国を作って、理想を実現したいんです」
レオンは助け舟を出すようにプッシュした。
焼け野原の上に、新しい世界を築く。
それは途方もない夢だったが――不可能ではないはずだ。
「むぅ? この荒野に?」
「今ある国を改革するのは難しいから、新たな国を作ったらどうかなって。ダメですか?」
若者特有の無謀さと、それを補って余りある情熱。
レオンはレヴィアの緋色の瞳を覗き込んだ。




