113. この浮気者……
「……え?」
ルナの緋色の瞳が、大きく揺れた。
その瞳に、戸惑いが浮かぶ――。
「僕のこと……」
レオンは、少し寂しそうに首をかしげた。
「嫌い……?」
「……え? え?」
ルナは、ビクッと身体を震わせ、慌てて瞳を泳がせた。
「そんな……そんなわけ……」
レオンは、変わらず優しい笑顔で、ルナの緋色の瞳を覗き込む。
その優しさ。
その温かさ。
その真っ直ぐさ。
すっかりレオンの優しい雰囲気に飲み込まれ、ルナは抵抗する力を失った。
ゆっくりと、首を振る。
「……好き」
つい口をついて出てしまった、隠しきれない本音。
「あっ! いや、ち、ち、ち、違うの! こ、これは……」
慌てて訂正しようとするルナ。
「ありがとう、ルナ。僕も、君が大好きだよ」
レオンは、ニコッと満面の笑みを浮かべ――そっとルナの小さな身体を優しくハグした。
「あ……」
じんわりと伝わってくるレオンの体温――――。
その温かさにほだされ、そっと目をつぶるルナ。
「私……レオンのこと……好き……」
ルナは、ギュッとレオンに抱きついて、胸に顔を埋めた。
温かい。
優しい。
幸せ――――。
「チョロいわねぇ……」
ミーシャが、呆れたように呟く。
「単純よね」
エリナも、ジト目で見ている。
「なっ!」
ルナが、顔を真っ赤にして振り返った。
「何がチョロいのよぉ!! 聞こえてるわよ!!」
思わず、レオンから離れようとする。
しかし――レオンは、その可愛らしい顔を両手で優しく包み、そっと自分の方を向かせた。
「ルナ」
レオンの声が、優しく響く。
「あの二人は、僕らに嫉妬してるだけだよ」
「し、嫉妬……?」
ルナが、きょとんとする。
「そう」
レオンは、悪戯っぽく笑った。
「見せつけてやろうよ。僕たちの幸せを」
「み、見せつける……?」
「そう、幸せな人が一番強いんだよ?」
ニヤリと笑うレオン。
「そ、そうね!」
「結婚してくれるかい?」
レオンは再度問う。
「うんっ!」
ルナは、ニコッと笑った。
いつもの勝気な笑顔。
けれど、その瞳には、幸せが溢れていた。
ルナはそっと目を閉じて、ぎこちなく上を向く――――。
その仕草は、初々しく、可愛らしかった。
レオンは、そんなルナを愛おしそうに見つめ――そっと、唇を重ねた。
優しく。
愛情を込めて。
瞬間――黄金色の光が、二人を包み込んだ。
祝福の光。それは、他の三人の時よりもさらに眩く、暖かく、二人を包んでいく。
「何が嫉妬よ!」
ミーシャが顔を赤くして叫ぶ。
「この浮気者……」
エリナもジト目で光に包まれている二人を睨んでいた。
「でも……」
シエルは、少し悔しそうにつぶやいた。
「ちょっと羨ましい……かな? あんなに真っ直ぐなプロポーズ……」
【運命を共にすると誓った者を確認――ルナ・クリムゾン】
レオンの脳裏に、金色の文字が浮かび上がる。
四人目の運命が、結ばれた。
運命に祝福される二人。
「えへへ……」
ルナは、照れくさそうに笑った。
いつもの強がりは、そこにはない。
ただ、幸せそうな、心からの笑顔だけがあった。
「ずっと、ずっと、そうやって笑っていてね?」
レオンが、優しく髪を撫でる。
「うん!」
ルナは大きく頷いた。
「幸せにしてね? 約束だからね?」
ルナは少し心配そうにレオンを見上げる。
「もちろん」
レオンは、ルナの額に優しくキスをした。
「君は、僕の太陽だよ。いつも明るく、いつも元気で、みんなを照らしてくれる」
「レオン……」
ルナの目から、また涙が零れた。
嬉しさの涙。
「ありがとう……」
そう言って、またレオンは、ルナの唇に優しくキスをした。
長く、愛おしそうに。
永遠にこの瞬間が続けばいいのにと思うほど、幸せな口づけ。
牢獄の中が、四人分の黄金色の光で満たされていた。
絶望の場所が、今は希望の光に包まれている。
五人の運命が、結ばれた。
反撃が――――始まる。
◇
黄金色の光が、五人全員を包み込んでいく――――。
それは、まるで神の祝福のような、暖かな光だった。
【運命を共にすると誓った者たち――エリナ・ブラックソード、ミーシャ・ホーリーベル、ルナ・クリムゾン、シエル・フォン・アステリア】
【五つの魂が、一つの運命として結ばれました】
【『運命創造』を発動しますか?】
レオンの視界に、文字が浮かび上がった――――。




