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109. 一番の誑し

「えっ!? そ、それは……」


 レオンは慌てて言葉を探す。


「凛々しくて、元気で、頼もしくて……誰よりも強くて……」


「そうじゃなくって!」


 エリナが、顔を真っ赤にして叫んだ。


「お、女として……ど……どうかって……聞いてるのよ……!」


 その声は、震えていた。恥ずかしさと、不安と、期待が入り混じった声。


「あ、そ、そりゃ……」


 レオンも、顔を赤くする。


「魅力的だと……思ってるよ? すごく……綺麗だし……」


「違うわよ!」


 エリナが、さらに大きな声で叫ぶ。


「そういうことじゃなくて! す、好きかどうかって聞いてるの! はっきり言いなさいよ!」


 その言葉に、牢獄の空気が凍りついた。


 レオンにしがみついていた三人も、息を呑んでその場面を見守っている。


「あ、そういうことなら……」


 レオンは、エリナの目をまっすぐに見つめた。


「す、好きだよ? エリナのこと、好きだ」


 その瞬間、エリナの顔が、耳まで真っ赤に染まった。


「……っ……」


 声にならない声が、喉から漏れる。


 そして――。


「何番目よ!?」


 エリナが、顔を真っ赤にしながら、上目遣いでレオンを睨んだ。


「へ?」


 レオンが、きょとんとする。


「四人の中で何番目に好きかって聞いてるの!」


「はぁ?」


 ミーシャが、呆れたような声を出す。


「そういうこと聞く?」


 ルナが、ジト目でエリナを見る。


「信じらんない……」


 シエルも、困ったような顔をする。


 三人は、むっとした表情で、エリナをジト目で睨んでいた。


「こ、こういうことは、はっきりしておかないと!」


 エリナが、必死に反論する。


「じゃないと、後で絶対モヤモヤするじゃない!」


「そういうことなら」


 レオンは、にっこりと笑った。


「一番だよ」


「い、一番!?」


 エリナの顔が、さらに赤くなる。


「へ?」


 ミーシャが、驚いた顔をする。


「えぇぇぇ……」


 ルナが、不満そうな声を出す。


「……」


 シエルは、無言で固まっている。


「でも」


 レオンは、優しく微笑みながら続けた。


「ミーシャも一番だよ。シエルも一番。ルナも一番」


「え?」


 エリナが、きょとんとする。


「あら……」


 ミーシャが、くすりと笑う。


「ふふふ……」


 シエルも、嬉しそうに微笑む。


「な、何よそれ!」


 エリナが、慌てて叫んだ。


「それじゃ意味ないじゃない! この(たら)しがぁぁ!」


 エリナは、レオンの頬を両手で掴んで、ぐいぐいと揺らした。


「うわぁぁぁ、何すんだよぉ!」


 レオンの顔が、左右に揺れる。


「みんな一番なんて、ずるいのよ! ずるい!」


「でも、本当なんだよ! みんな、それぞれ違う良さがあって、みんな大切で――」


「もう! 分かったわよ!」


 エリナは、ふぅと大きく息をついて、レオンを解放した。


 そして、プイッと横を向く。


「で……」


 エリナは、小さな声で聞いた。


「どうしたいの? け、け、け……結婚……したいの……?」


 その声は、か細く、震えていた。


「そ、そうだね……」


 レオンも、緊張した様子で頷く。


「そこは、ちゃんとしないといけないね……」


 レオンはしがみついている三人の腕をそっとぬけると、エリナの手を取った。


 冷たく、震えている手。


 けれど、その手を、優しく包み込む。


 そして、その黒曜石の瞳を、まっすぐに見つめた。


「エリナ……」


 レオンの声が、静かに響く。


「一生、大切にする。守る。支える。一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に生きていく」


 その言葉に、エリナの瞳が揺れる。


「だから――僕と、結婚してください」


 真剣な眼差し。


 誠実な声。


 その全てが、エリナの心を打つ。


 二人は、しばらく見つめ合った。


 時が、止まったかのような静寂。


「一生……」


 エリナが、小さく呟く。


「約束よ……? 絶対に大切にしてよ?」


「ああ、もちろん」


 レオンが、力強く頷く。


「約束する。一生、君を大切にする」


 その言葉に、エリナの目から、一筋の涙が零れ落ちた。


 それは、喜びの涙。


 幸せの涙。


 紆余曲折を経てようやくたどり着いた一つの幸せの形――――。


 エリナは、そっと目を閉じ、少し上を向いた。


 その仕草が、全てを物語る。


 限りない信頼と心の底から湧き上がる愛情――――。


 レオンも、目を閉じる。


 そして――そっと、唇を重ねた。


 柔らかな感触。


 温かな温もり。


 それは、誓いの口づけ。


「うわぁ……」


 ルナが、感動したように呟く。


「ほわぁ……」


 シエルも、目を潤ませている。


「……ふふっ」


 ミーシャは、優しく微笑んでいた。


 その瞬間――。


 祝福のように、ぶわっと黄金色の輝きが、二人を包み込んだ。




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