106. 黄金色の閃光
「このスタンピードを止める。王都を救う。僕たちの手で、未来を掴み取る!」
レオンは、拳を握りしめた。
「命をなげうってでも世界を救う覚悟が――あるか?」
レオンは真っすぐな目で女の子たちに問いかける。
「……え?」「か、覚悟……?」「それって……?」「……」
沈黙。
ピチャンと落ちる水の音だけが、静かに響く。
その沈黙を破ったのは――。
エリナだった。
彼女は、よろよろと必死に体を動かし、レオンの前に進み出た。
「ぐ、愚問よ……」
その声には、揺るぎない意志がある。
「私の剣は、アルカナと共にあると誓ったわ」
その顔には、笑みが浮かんでいる。涙を流しながら、それでも笑っている。
「当たり前じゃない!」
ルナが、叫んだ。
涙を乱暴に拭い、その瞳に炎のような闘志を宿らせる。
「あんなイカれたシスターに、好き勝手させてたまるもんですか! ぶっ飛ばしてやる!」
その小さな体から、巨大な決意が溢れ出している。
「レオンの示す道が――」
シエルが、静かに、けれど力強く言った。
「ボクの道だ。最後まで、共に……」
その声には、揺るぎない信頼が込められている。
そして――。
うつむいていたミーシャが、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳からは、涙が消えている。
代わりに――。
底なしの怒りと、そして再生の光が宿っていた。
「……あの女は」
ミーシャの声が、静かに響く。
「私の『お母様』ではありません」
その言葉には、決別の意志がある。
「私の家族は……私の帰る場所は……ここにしかありませんわ」
涙の跡が残るその顔には、穏やかな笑みが浮かんでいる。
レオンはにっこりと笑うと――静かに、中央に手を差し出した。
傷だらけの手。震える手。けれど、その手には、確かな意志が込められていた。
「ありがとう……みんな」
レオンの声が、優しく響く。
「僕一人じゃ、何もできなかった。でも、みんながいる。みんなと一緒なら未来を作れる……」
その手の上に――エリナの手が、そっと重ねられた。
少し冷えて、でも力強い手。
「君となら、どんな絶望も恐れない……」
エリナの黒曜石の瞳が、静かに輝く。
ルナの手が、勢いよく重ねられた。
小さく、けれど温かい手。
「絶対、勝とうね! 私たち、ここまで来たんだもん! 最後まで、諦めない!」
緋色の瞳に、涙が光る。けれど、それは悲しみの涙ではない。決意の涙だ。
シエルの手が、優しく重ねられた。
繊細で、けれど確かな手。
「ボクは、みんなと出会えて本当に良かった。この絆がボクの全てだよ!」
シエルの碧眼が、希望の光に満ちている。
そして――ミーシャの手が、最後に重ねられた。
柔らかく、けれど芯の強さを感じさせる手。
「私……もう迷いません。みんなと共に……戦います」
ミーシャの空色の瞳から、涙が零れ落ちる。
五人の掌が、触れ合った。
それぞれの温もりが、伝わってくる――。
それぞれの鼓動が響き合い、それぞれの想いが、一つになる。
レオンは大きく息を吸った。
胸いっぱいに、空気を吸い込む。
そして――魂の底から、絞り出すように叫んだ。
「この世界の『運命』は――アルカナが変える!! アルカナぁぁぁぁぁファイト! おぉぉぉぉ!!」
レオンは魂を込め、絶叫した。
女の子たちも呼応して一緒に叫ぶ。
「おぉーー!」「おぅっ!」「おーー!」「おぉぉぉぉ!」
五人の声が、一つになる。
それは、運命への挑戦状。
それは、絶望への反逆。
それは、未来への誓い。
そして――――。
次の瞬間――奇跡がまき起こる。
五人の魂が、共鳴していく――――。
見えない波動が、五人を中心に同心円状に広がっていく。空気が震え、空間が歪み、世界そのものが呼応する。
五つの魂が、それぞれの色を放ちながら輝き始めた。
エリナの黒曜石の煌めき。
ミーシャの空色。
ルナの紅。
シエルの銀。
レオンの翠。
五色の光が、螺旋を描きながら優雅に美しく昇っていく――――。
やがて、五人の魂が、一つの巨大な意志の奔流と化していった。
それは、誰にも止められない。
何にも屈しない。
どんな運命にも、どんな絶望にも負けない。
ただ、前へ、前へと進む、圧倒的な――――意志の力!
次の瞬間――。
レオンの胸の奥で、何かが光り始めた。
砕け散ったはずのスキル。
壊れたはずの力。
それが――再び、光を放ち始めたのだ。
けれど、その輝きは以前の穏やかな翠色の光ではない。
それは――世界の理そのものを焼き尽くすかのような、荘厳なる黄金色の閃光。




