表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/139

105. 運命に売る喧嘩

「……諦めないぞ」


 レオンの声が、静かに、しかし確固たる意志を込めて響いた。


 女の子たちが、はっとしてレオンを見る。


「僕たちは、まだ生きている。どんなに絶望的でも、諦めない限り道は開ける」


 その言葉に、みんな顔を上げる。


「必ず、ここから脱出する。そして、イザベラを止める! 世界を、王都を、救う!」


 レオンの翠色の瞳が、強く、強く輝いた。まるで、闇の中に灯る希望の光のように。


「僕たちは、アルカナだ。何度倒れても、立ち上がる。何度打ちのめされても、前を向く。それが、僕たちだ!」


 その言葉が、絶望に沈みかけていた仲間たちの心に、小さな、けれど確かな光を灯した。


「……ああ」


 エリナが、剣の柄を握りしめて立ち上がる。


「そうだな。まだ、終わってない」


「そうよ! こんなところで諦めてたまるもんですか!」


 ルナも、杖を握りしめて立ち上がる。


「私たちには、まだやるべきことがありますわ」


 ミーシャも、微笑みを浮かべて頷く。


「ボクたちは、アルカナ! 最後まで、戦います!」


 シエルも、弓を握りしめて立ち上がる。


 五人は、互いを見つめ合い――そして、頷き合った。


 まだ、終わっていない。


 戦いは、これからだ。


 しかし――――。


 その時、大きな地響きが響いた。


 ズン……ズン……。


 十万の魔物たちが、動き始めている。王都へと向かって、進軍を始めたのだ。


「くっ!」「始まっちゃった……」「あぁ……」「いやぁ……」


 女の子たちが不安そうにあたりを見回す。


 そして、その絶望を煽る重低音が――レオンのトラウマを、容赦なく揺り起こした。


 脳裏に、あの日の記憶が蘇る。


 逃げ惑う人々。そして――妹の姿。


 血を流して倒れている妹。手を伸ばしても、届かない。何もできない。ただ、見ていることしかできない。


(ダメだ……。違う! まだ何か手があるはずだ……。僕にはアルカナのみんながいる……)


 拳を握りしめる。爪が手のひらに食い込む。血が滲む。けれど、その痛みすら感じない。


 その時だった――。


 脳裏に、何かが閃いた。


 それは、稲妻のように、鮮烈に――――。


 禁書庫で見た、あの古い書物。埃まみれの、誰も読まない書物。その中に書かれていた、謎めいた一文。


『魂を喰らう呪いは、同質の魂、或いはより強大な『命運』によってのみ上書きされる』


 その文字が、レオンの心に浮かび上がる。


(そうだ……『命運』……!)


 レオンの目に、光が戻った。


(呪いが、俺から未来を視る力を奪ったのなら……)


 心臓が、激しく鼓動し始める。


(それを超えるほどの、巨大な『命運』を……この手で、ぶち上げてしまえばいい……!)


 思考が、加速する。


(この十万のスタンピードを止める。王都を救う。それは……かつて辺境の街を救った時とは、比べ物にならないほどの……世界史に刻まれるべき『偉業』……!)


 それは、途方もない考えだった。


 けれど――。


(この絶望的な状況を覆すほどの、強大な『命運』の担い手であると……この世界の(ことわり)に、認めさせることができたなら……!)


 それは、神に祈るのではない。


 神の領域に、踏み込むこと。


 あまりにも傲慢で――けれど、唯一の活路。


 レオンは、ゆっくりと顔を上げた。


 その瞳には――。


 狂気にも似た、凄まじい決意の光が宿っていた。


 もう、迷いはない。恐怖もない。ただ、やるべきことがある。それだけだ。


 レオンは仲間たちを見つめた。


 エリナは、唇を噛みしめて涙をこらえている。


 ルナは、悔しさで拳を握りしめている。


 シエルは、絶望に震えている。


 ミーシャは、裏切られた悲しみに打ちひしがれている。


 みんな、苦しんでいた。


 けれど――。


 まだ、諦めていない。


 その目には、まだ光が残っている。


「……聞いてくれ、みんな」


 レオンが、静かに、けれど力強く語りかけた。


 四人が、顔を上げる。


「俺は……無力だ」


 その言葉に、四人が息を呑む。


「今の俺には、未来を視る力もない。この牢を破る魔法も、敵を倒す武器もない。何もない」


 レオンは、一度言葉を切った。


 そして、一人一人の顔を、まっすぐに見つめた。


「だが――」


 その声に、力が込められる。


「俺には、君たちがいる」


 エリナの目が、見開かれる。


「この絶望を覆したいと叫ぶ、君たちの魂がある!」


 ルナの涙が、止まる。


「君たちと共にいる限り、僕は無力じゃない。そう、アルカナは、無敵だ!」


 シエルの震えが、止まる。


「今から僕たちは――」


 レオンの声が、牢獄に響く。


「この世界の運命そのものに、喧嘩を売る!!」


 その言葉が、まるで宣戦布告のように響く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ