第57話 姫乃ちゃんの感謝の気持ち for 勇太。
試合が終わるとすぐに、姫乃ちゃんが俺のところに駆け寄ってきた。
「勇太くん、勇太くん! 見てましたか! 私、バスケットボールで生まれて初めて点を取ってしまいました!」
もう興奮冷めやらぬといった様子で、俺の手をぎゅっと握る姫乃ちゃん。
「あはは、もちろん見てたよ。でも取ってしまいましたなんて、その言い方はどうなんだ?」
思わず苦笑してしまう俺。
「だって私がですよ? しかも2本連続で! もう信じられません! 明日は雨ですね! いいえ、季節外れの雪かもしれません!」
「それを自分で言っちゃうあたりが、姫乃ちゃんらしいなぁ」
「だって私、テストが満点で欠席がゼロでも、通信簿の体育はずっと3が最高で。小学生の時なんて1が付く時もあって。運動会の徒競走はいつもぶっちぎりのビリで」
「あ、ああ。うん……。その、姫乃ちゃんは昔から本当に体育が苦手だよね……」
自虐ネタが笑えなさすぎて、なんて言ったらいいものか若干、返答に困った俺である。
「それが球技大会なんて大舞台で、シュートを決めることができるだなんて……。最初に選手に選ばれた時は、まったく思っていなくて。うっ、ぐすっ……」
感極まったのだろう、姫乃ちゃんは目に涙をためていた。
声もかすれて、鼻声になってしまっている。
さっきの試合が――特に得点をしたことが、体育で辛い思いをし続けたきた姫乃ちゃんには、それだけ嬉しいことだったのだろう。
「姫乃ちゃんが今日までみっちり練習した成果さ。2本ともナイスシュートだったよ。あれが勝負の流れを変えた。いっぱい練習したのが実ったね、姫乃ちゃん」
「はい……! それもこれも勇太くんが何をしたらいいかを考えてくれて。私がわかるまで丁寧に教えてくれて。練習にも付き合ってくれたおかげです」
「ははっ、姫乃ちゃんのためなら、それくらいお安い御用だっての」
なにせ俺は姫乃ちゃんに水をぶっかけた男だぞ?
「ぜんぜんお安くなんてないですから。本当にありがとうございます。やっぱり勇太くんは頼りになります」
「あはは、サンキュ」
「本当に頼りになるんですから……本当に……」
姫乃ちゃんの感情のこもったしっとりとした視線が、俺を捉えて離さない。
潤んだ瞳。
わずかに熱を帯びた頬。
うっすらとかいた汗。
そのどれもが魅力的で、どこか官能的で。
俺は姫乃ちゃんが活躍したことを嬉しく思うと同時に、なんともこそばゆい胸の高鳴りを覚えていた。
「姫乃ちゃん……」
「勇太くん……」
「…………」
「…………」
なんだかいい雰囲気になっしてしまい、俺と姫乃ちゃんがついつい見つめ合ってしまっていると――、
「だから~~? どうしてそう、すぐに二人きりの世界に入っちゃうのかなぁ~~~? ここにはアタシもいるんですけどぉ~~~~?」
俺と姫乃ちゃんのアイコンタクトを遮るようにして、横合いから小春がにゅうっと割り込んできた。




