第35話「昔1回話しただけの話題だったのに、覚えていてくれたんですね」
「わっ、いっぱいあるー!」
「いっぱいあるな。3、40種類くらいはあるんじゃないか?」
「どれも美味しそうですね」
そこには色とりどりのスイーツが、ボリューム感満載で並べられていた。
値段はもちろん全て98円(プラス消費税)。
A3のポップには「このコーナー98円均一」とでかでかと書いてある。
「どれにしようかなー」
「ロピアのプリンアラモードあるじゃん。悩まなくても小春はこれだろ?」
よく食べている小春のイチオシスイーツだ。
「そうなんだけど、一昨日に食べたばかりなんだよねー」
「そういや晩ご飯の後に食べてたな」
「でしょ? 抹茶系がいっぱいあってどれもも美味しそうだし、今日は違うのにしようかなーって」
「なるほどな」
「あーん、でも悩むー。どーしよっかなぁ」
抹茶シュークリームや抹茶エクレア、抹茶どら焼きなどなどたくさんある抹茶系が特に気になるらしく、小春が真剣な顔で悩み始めた。
選ぶのにしばらくかかりそうな感じなので、いったん小春は放っておくことにして、俺は姫乃ちゃんに視線を向ける。
すると姫乃ちゃんが驚いた顔で尋ねてきた。
「どうして小春ちゃんの晩ご飯の後のデザートを、勇太くんが知っているんですか?」
「ん? ああ、小春が俺んちに来て一緒に食べたからだけど」
「え――?」
「家が隣だからさ、時々あるんだよ。勝手知ったる仲っていうか、お互いの両親とも仲いいしさ。ま、幼馴染みあるあるだな。だから特に深い意味はないんだ」
「そ、そうですか……毎朝起こしに来るだけでなく、晩御飯も一緒に……」
あれ? どうしたんだろう。
ちゃんと何でもないって説明したのに、姫乃ちゃんが少ししょんぼりしているように見える。
せっかくスイーツな売り場に来たんだから、楽しい気分になってもらわないと、俺もしょんぼりである。
ならばスイーツ選びの中で、姫乃ちゃんをなんとしてもハッピーにしてあげるとしよう。
とりあえず好きなものを食べられたらハッピーになれるんじゃないか?
よし、姫乃ちゃんにとって究極で至高の一品を、俺がこの中から選んでみせる!
「姫乃ちゃんはどれにするか決めた?」
「いえ、思ったよりもいろいろ種類があって、悩んでいるところです」
「これだけ数があると悩むよな。どれも美味しそうだし」
「勇太くんの、これっていうお勧めはありますか?」
「うーん、そうだな。たしか姫乃ちゃんは苺のスイーツが好きだったよな?」
「え? あ、はい」
俺の言葉に、姫乃ちゃんがびっくりしたような顔をした。
「あとパイとかタルトのサクサク感も好きだったよな? だったらこのミニ苺タルトとかいいんじゃないか?」
小学生の頃に好きな食べ物の話になって、たしかそんなことを言っていたはずだ。
「昔1回話しただけの話題だったのに、覚えていてくれたんですね」
「もちろん覚えてるさ」
初恋の女の子の話してくれたことを、たかだか数年で忘れるはずがない――とはさすがに言えはしないけど。
「もう、勇太くんってば。ふふっ」
姫乃ちゃんがふわりとした笑みを浮かべた。
いつもの姫乃ちゃんの笑顔だった。




