第27話 小春の玉子焼き
「あ、小春……」
4年前から現代へと、俺の意識は一瞬にして引き戻された。
「あ、小春じゃないしー! 完っっっ全にアタシの存在を忘れてたよね?」
「ご、ごめん。お弁当ですごく懐かしい思い出があってさ? つい思い出話に花が咲いちゃって……だからその? 別に小春を無視してたわけじゃあ、ないんだぞ? ほ、ほんとだぞ?」
「話は聞いてたけどー。遠足の時にひめのんとおかず交換したんでしょ?」
「まぁ、そういうことなんだよ」
「ふーん」
小春がじーっと俺を見つめてきた。
「な、なんだよ……?」
「そんなにひめんのん手作り弁当がいいんだ?」
拗ねたようにつぶやく小春。
「そんなことないから。小春のご飯はいつもすごく美味しいから。作ってもらえたらいつだって嬉しいから。ってわけで早速これ、玉子焼き貰うな」
俺は小春が作ってくれたお弁当の玉子焼きをお箸で掴むと、まずは半分を食べてから、続けて残り半分も食べた。
俺が玉子焼きに手を付けた途端に笑顔になる小春。
お弁当のおかずを食べるだけでこんなに喜んでくれるとか、まったく可愛いヤツだなぁ。
「どうかな?」
「甘くてふわふわで、中はトロトロで。すごく美味しい」
「やった♪」
「っていうか、母さんが作るのとそっくりそのまま同じ味だ」
「へへへー、気付いちゃった? 自分でもいい感じにできたって思ってたんだよねー♪」
小春が嬉しそうににへらーと笑った。
「そりゃ気付くよ。いつも食べてる味なんだから。でもどうやって再現したんだ?」
「どうもうこうも、春休みにユータのお母さんに教えてもらったんだよねー。砂糖メイン・塩を少々の天道家の玉子焼きの黄金比率と、ふわふわとろとろになる火の入れ方を、バッチリマスターしてきたんだから」
小春がニコニコしながらどや顔った。
めちゃくちゃ可愛いのは言うまでもない。
「いったいいつの間に……いや待て。そういや、春休みに1度、晩御飯に大量の玉子焼きが出てきた日があったな。あの日か」
大量というか、その日はおかずが玉子焼きしかなかった。
中学の友だちと遊んで帰ってきたら、晩御飯が白米&山積みになった玉子焼きのみで「えっ?」となってしまったのを覚えている。
ちなみに晩御飯だけでは食べきれず、翌日の朝、昼、晩ご飯まで残るほどの大量の玉子焼きだった。
「せいかーい♪」
「あれ小春が作った玉子焼きだったのか。だったら一言、教えてくれたらよかったのに。母さんも何も言ってくれなかったし」
今日は玉子焼きの気分なのよね、とは言っていたが。
俺はそれを真に受けて「そんなもんか」と思ったんだが、よくよく考えたらそんなわけはないよな。
俺はどんだけピュアなんだよ。
「あれはあくまで試作品だったから、ユータには内緒にしてくださいって頼んでおいたの。そんなことよりもっと食べてよ? ほらほらー」
「お、おう」
進められるままに玉子焼きをもう一つ、箸でつまもうとして──、
「勇太くん。はい♪ あーんです♪」
姫乃ちゃんの差し出したタコさんウインナー2号が俺の口元へと差し出された。
反射的にそれを咥えてしまう俺。
もぐもぐ……。
「ちょ、ひめのん!? なにして――」
「どうですか、ユータくん」
「美味しいけど、そんなことしてくれなくても、自分で食べれるぞ?」
「だって私のことを蚊帳の外にして、家族ぐるみのお付き合いのお話をしてるんですから。ムー! となって、ついやってしまいました」
姫乃ちゃんがその言葉通りに、ムー!って顔をした。
「べ、別に姫乃ちゃんのことを蚊帳の外にしたわけじゃないんだぞ……?」
なんだろう。
さっき小春にも同じようなことを言った気がする。
気分はまるで修羅場アニメの主人公だ。
「ふふっ、冗談ですよ」
しかし俺の心配をよそに、姫乃ちゃんはふわりと笑った。
いつもの穏やかで柔らかい笑顔に、俺はホッと一安心した。
どうやら怒ってはいないようだ。




