第23話 「きゃっ」→「あぶない!」→ラ〇キ〇ス〇ベ
飛び出してきたのは黒猫だった。
赤い首輪をしていたから飼い猫だな。
飛び出したっていうよりか、茂みから上半身を出したって感じだけど。
だからそんなに危険ってわけでもなかったんだけど、それがちょうど姫乃ちゃんの足下のすぐ近くだったこともあって、
「きゃ――っ」
姫乃ちゃんは可愛く叫ぶと、身体を大きくビクリと跳ねさせた。
さらに黒猫を足で踏まないように無理やりかわしにいって変な体勢になってしまい――姫乃ちゃんは本当に優しいな――大きくバランスを崩してしまった。
「姫乃ちゃん!」
それを見た瞬間、俺の身体は反射的に動き出していた。
無我夢中で両手を出すと姫乃ちゃんの身体を抱きとめる。
そのまま姫乃ちゃんの身体を――スレンダーなのでとても軽かった――グイっと引き寄せた。
ふぅ、やれやれ。
なんとか事なきを得たぞ。
俺の記憶の中の姫乃ちゃんは――今はどうかは知らないが――あまり運動が得意ではなかった。
変なこけ方をして頭でも打ったら大変だからな。
そして黒猫は黒猫で、姫乃ちゃんに踏まれそうになってびっくりしたのか、ガサガサっと音を立てながら、逃げるように植え込みの中に消えていった。
とりま、状況は一段落。
俺はホッと一安心しつつ、姫乃ちゃんを守れたことに小さな満足感を覚えていたのだが――。
「ぁ……はぅ」
俺の腕の中で姫乃ちゃんが小さな声をあげたことで、フッと冷静になった。
我に返ったとも言う。
説明しよう!
俺は姫乃ちゃんをバックハグしてしまっていた。
それもかなりぎゅっと、抱きかかえるようにして。
そして俺左手は姫乃ちゃんの腰の下あたりに、右手は姫乃ちゃんの胸のあたりにあった。
いや、「あたり」というぼかした表現は不誠実だろう。
あろうことか俺の左手は姫乃ちゃんのスカートの下にもぐりこんで太ももの付け根を、右手は姫乃ちゃんのブレザーの中に入り込んで、胸をわしづかみしてしまっていたのだ!
ラノベとか漫画で言うところのいわゆる一つのラッキースケベ。
それはもうすべすべな感触やら柔らかい感触やらが俺の手の平に伝わってきて――じゃなくてだな!?
「ご、ごめん姫乃ちゃん! とっさのことで、全然考えずに動いちゃって。だからそういう意図はまったくなかったんだ!」
俺は姫乃ちゃんの身体からいそいそと手を離すと、慌てて弁明をした。
神に誓っていやらしい意図はなかった。
マジのガチで本当に本当だ。
しかし姫乃ちゃんの身体をもろに触ってしまったのも、またマジのガチに真実だった。
俺は再会して早々またやらかしてしまったと内心、頭を抱えていたんだけど。
姫乃ちゃんは赤い顔で恥ずかしそうにしながらも、こう言った。
「ふふっ、そんなに焦って言い訳しなくても大丈夫ですよ。勇太くんがそういうことをする人じゃないのは、知っていますから」
「そ、そうか? ならいいんだけどさ」
言いながら俺が歩き出すと、2人も歩くのを再開する。
「それに私のぺったんこな身体を触っても、嬉しくないでしょうし……」
歩きながら、最後の方は自嘲するようにかすれた声でつぶやいた姫乃ちゃん。
なんで身体を触られちゃった姫乃ちゃんが、そんな悲しそうな顔をしないといけないんだ。
姫乃ちゃんにこんな顔をさせてなるものかよ、って思った。
「そんなことない。姫乃ちゃんはすごく魅力的な女の子なんだから、もっと自信を持っていいよ。俺が保証するから」
俺は自分ができうる最高の笑顔とともに、力強く断言した。
姫乃ちゃんは驚いたように目を見開くと、悲しそうな顔から一転、緊張しているような面持ちで問いかけてきた。
「じゃあ……もしかして」
「ん? なに?」
「さっきも嬉しかったんですか?」
おおう、そう来たか!




