第12話「だから明るくて優しい男の子だって褒めてるじゃん」
「さてと、この後はどうする? せっかくだしファミレスにでも行って、話でもしないか?」
俺の提案に、
「ごめんなさい、この後は両親とランチをする予定なんです。校門で待ち合わせをしていて、お店も予約していて。だからそろそろ行かないとです」
姫乃ちゃんが申し訳なさそうにつぶやいた。
「一生に一度の高校の入学式だもんな。姫乃ちゃんだけじゃなくて、ご両親も。楽しんできてね姫乃ちゃん」
「ありがとうございます、勇太くん」
「じゃあ校門まで一緒に行って、アタシたちは帰ろっか」
「だな」
教室を出て、校門まで3人一緒に向かう。
俺を真ん中に、左が小春、右が姫乃ちゃんというポジションだ。
さっきは張り合うように見えた小春と姫乃ちゃん。
俺は初対面の2人が打ち解けられるか少しだけ不安だったんだけど、今はすっかり意気投合した様子で、移動中も俺の話で盛り上がっていた。
どうやらさっき感じた不穏な空気は、俺の勘違いだったらしい。
よかったよかった。
「ねーねー、前の学校のユータってどんなだったの?」
「そうですね……すごく優しい男の子でしたよ。困っている子がいたら、明るい声で話しかけては、よく手伝ってあげていました」
「わかるー! ユータって、困ってる人を放っておけないタイプだよねー」
「私もよく助けてもらって。私は運動が苦手で、鉄棒の逆上がりがずっとできなかったんです。でも勇太くんが親身になって教えてくれて、励ましてくれて。おかげでできるようになったんですよ」
「わっ、えらいじゃんユータ」
「ま、まぁな。でもコツをちょっと教えただけで、あとは姫乃ちゃんが頑張ったんだぞ」
当時ぽっちゃりだった姫乃ちゃんは、体育がすこぶる苦手だった。
だから最初から自分には逆上がりなんてできないと思い込んで、諦めていた節があったのだ。
だから俺は「姫乃ちゃんは絶対できるから! 俺、練習とか付き合うからさ」とエールを送り続けた。
姫乃ちゃんが「勇太くんがそんなに言うなら、がんばってみようかな?」って、それに応えてくれただけだ。
あとはほんと、YouTubeで初心者が逆上がりをできるようになるまとめ動画を研究して、俺なりに理解ったコツを姫乃ちゃんに伝えたくらいで、別に俺がすごかったわけでもなんでもない。
頑張った姫乃ちゃんが一番すごいのだ。
さすが姫乃ちゃんだよ。
「おかげで大嫌いだった体育の時間も、少しずつ楽しくなってきたんです」
「わかるー。苦手意識がなくなると、ぜんぜん違うよねー」
「逆に、転校してからの勇太くんはどうだったんですか? 最近の勇太くんのことも聞いてみたいです」
「んー、そーだね。転校してきた頃は妙におとなしくて、落ち着いた子だなって思ったんだけど」
「あー、うん」
「ぁ……」
小春の言葉に、俺と姫乃ちゃんは鏡合わせのように顔を見合わせた。
あの時はもう本当にいろんな人に怒られたからな。
お小遣いはしばらくもらえなかったし、転校で姫乃ちゃんと離れ離れになっちゃったし、友達はゼロになったし、生活環境もガラッと変わったしで、俺も気持ちが沈んでいたのだ。
姫乃ちゃんが申し訳なさそうな顔をしていたので、俺はにっこり笑ってあげる。
すると姫乃ちゃんもふわりと柔らかく笑ってくれた。
「でも今はこんな感じー」
「おいこら小春、こんな感じってなんだよ。もっと言い方ってもんがあるだろう」
「だから明るくて優しい男の子だって褒めてるじゃん」
「お、おう。さ、サンキュー……」
そ、そんなストレートに褒めるなよなっ!
恥ずかしいだろっ!




