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コロシタノダレ ~黒幕の脅威と地下学園脱出~  作者: まつだんご
―エピソードⅦ― 「救世主と首領崩し」
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第六十九話 『 残された者達 』


 午後8時27分


 長いようで短かったモレクの裁きは、合計3人の犠牲者を出して幕を閉じた。


 一般的な裁きとは全く違う、理不尽に命を奪い取られる残酷なゲーム。ダレが殺人を犯した黒幕で、最終的にはダレを処刑するのか。ひたすら命を奪う奪われるの話し合いを、約2時間も繰り返した出口の見えない戦いだった。


 本来処刑される筈のドン釈との約束を破ったチュリぞうと、処刑を阻止しようと彼女を魔の手から救った電田は反逆罪から逃れる為、共に裁判室を後にして現在逃走中だ。


 六条冬姫と名乗っていた島村佳奈は、恐らく電田とチュリぞうとは別行動で逃走している。


 目の前で次々と人の命が無残に消えていく瞬間を見てしまったプレイヤー達は、何処に行く訳でもなくその場で泣き崩れている。


 エスケープルート参加時にて、プレイヤー達を守ろうと魔獣と呼ばれる生き物に立ち向かった命の恩人、爾来也伊吹。


 夏男とは直接接点がなかったものの、同じ境遇に立たされ、何とかミッションを達成しようと死んだフリをしていた米山恵斗。


 そして、ミッションに失敗した島村に処刑宣告を下した黒幕から彼女を守ろうと、自ら犠牲になった反逆者の路瓶亮介。


 人の死が目の前で展開された哀しみを受け入れられない周りの皆が涙を流している中で、一人ポツンと疲れた表情をして天井を見上げている夏男。


「無力だ」


 犠牲者を出さないと皆に誓った夏男であったが、結果的に黒幕は奪うべきものを奪っていく。


「俺は無力だ。こんなのおかしいだろう。何がデッドゲームに置ける正式な裁判だ」


 すぐ隣に居た鎌倉が夏男の心中を察して黙ったままそっと肩に手を添える。


「こんなの裁判でも何でもねぇ。だって考えてもみろ。この裁判でダレを裁くのか、一見プレイヤーのみんなに選択肢を与えているようにも思えるが〝俺達はただの一度も投票をしていない〟んだ。俺達が選択肢に迷っている最中に黒幕が勝手に作ったルールで横から次々に奪っていったんだ」


「そうね」


「公平にゲームが進行されているかのような錯覚をしちゃおしまいだ。こんな不公平な話はない」


「…………」


「なぁ鎌倉さん。教えてくれよ」


 流す涙もない位に疲れ切った表情を見せていた夏男の目に涙が零れる。そして静かに話しを聞いてくれている鎌倉の顔をマジマジと見つめて一言。


「どうして〝アイツら〟が殺されなければいげながったんだ」


 泣きながら哀しみをストレートに訴えてくる夏男に困った表情を見せる鎌倉。状況整理こそ出来ていないが、それでも夏男の言葉に応えてやりたいと思った鎌倉が返す。


「今は……」


「え?」


「今はどうする事も出来ないわ。それでも、きっと、残された者達は……この怒りと哀しみを無駄にしてはいけない。同じ悲劇を繰り返してはならない」


「俺はどこで間違った。どうしてアイツらを守ってやれなかったんだ」


 この結果を経て夏男が自分を責めている。さすがの鎌倉もこれには応える事が出来ず黙ってしまう。


 しばらく沈黙の時間が続いてから鎌倉が夏男に後悔しても仕方がない、大広間に戻ろうと言い聞かせる。


「単独行動は危険だわ。ここは一度みんなで大広間に戻るわよ」


 モレクの裁きの行方を見守っていた傍観室に居たメンバーも裁判室まで駆け寄る。


 結論として今はどうする事も出来ないだろう。それに、電田とチュリぞうが今もエキストラ枠の連中から逃げている最中だ。こんなところで泣き崩れても事態は変わらない。


 夏男が守れるものは、今も目の前に沢山溢れているのだから。


 場面移動

――――――――――――――――――――

 大広間エリア・ダイニングルーム


 大広間にある食堂まで引き返したプレイヤー達は、互いに協力して晩御飯を調理した。食堂内にある巨大冷蔵庫と冷凍庫の中には〝約30人分30日分の食料〟が保存されていた。


 本音を言うと、イカレた黒幕が用意した食料を口にしたくない。あんな残虐な連中に貸しをつくっているみたいで怒りが込上げてくる。


 それでも今は、この部屋にある食料を食べなければ生きて此処から脱出する目的が夢物語に終わってしまう。用意された食料のルーツが何であれ、食べれる物は手を伸ばしていかなければならない。


 部屋の中心に置かれた大きなテーブルを囲って静かに食事を済ませるプレイヤー達。


 右肩を負傷している身体で、エスケープルートのトラップルームに5日間も閉じ込められ、最終的にはモレクの裁きに参加していた夏男。食事を終えた夏男は、ピークに達した疲労に押し潰されてその場で気を失ってしまう。


 そして彼の〝夢の世界〟が広がる。


 どうして俺はこんな所に居るんだ。

 俺はこいつらと何をやってるんだ。

 何で爾来也が殺されなければならなかった。

 だいたいモレクの裁きって何だ。

 黒幕は俺達に殺し合いをさせたいのか。

 死人を増やして何の実験が成立するんだ。

 奴等の目的は何だ。殺人現場を見たいのか。

 どうして俺が選ばれた。

 今も電田が命を狙われてるんだ。

 友人が危険な状況だっていうのに、どうして俺はこいつらと呑気に晩飯を食べているんだ。

 今はどうする事も出来ない。


「アキラめるのかい」


 ダレかの声が聞こえた気がして振り返ってみるけど、視界がぼやけてよく見えない。


「ダレだ」


「サキにシツモンをしたのはミーだ」


「諦めるも何も俺はどうする事も出来ない。無力なんだ」


「ムリョク。おマエはジブンがムリョクだと……そうハンダンしたんだね」


「そうだ」


「ボクのナマエは〝スマートリー〟キミをカンシしているモノさ」


「監視? 俺を監視してどうする」


 〝キミのアタマのナカにはツネにアクがネムっている。それは、やがてジブンのイシでウゴきダそうとハタラきかけてくるハズだ。そのココロがボウソウしたサイには、スマートリーがおシオきをするケイヤクをキミとカわしている〟


 視界がボヤけてスマートリーの顔がよく見えない。目の前に広がる光景は全て夏男の夢の中だというのに、目の前に〝現れた男〟を彼は知らない。


 スマートリーという架空の人物を想像して、現実では哀しみ余りに整理のつかない状況から、夢の中で自分自身に対して近い未来の不吉な予感を言葉にしようと警告を出しているのか?


 ここから先の事はよく覚えていない。


 夏男が眠りについてから目覚めるまでの時間経過は4時間。時刻は翌日の午前1時前。


 場面移動

――――――――――――――――――――

 エスケープルート【魔獣の巣・エリアK04】


 魔獣の姿が一切見えない魔獣の巣エリアの道中を、金ピカのロングコートを肩で着た1人の男が猛スピードで走り抜けている。


 男の表情は笑みを浮かべて一見笑っているように見えるが、雰囲気は完全にキレているような不思議な雰囲気で漂っている。


 迷う事なく〝向かうべき場所へ向かっている〟殺気に満ちた男の正体は……


「さぁ新たなる器よ。大人しく恐怖にひれ伏せ。今全てを奪いに行くンフフフッ!」


 ディーラー釈快晴だ。多量出血してこのエリアから逃げようともがいている未来の元へ向かおうと、猛スピードで走っていた。


 右手には何者かと繋がる通信機を握り締めている。


「俺だ。今夜の〝ディナーロール〟の現地を教えろ」


「ただいま魔獣エリア内のK14」


「すぐ隣だンフフフ。てめぇらしっかり首領とこの一部始終を押さえておけよ」


 未来の現地を聞いた釈は、舌で自身の唇全体を一舐めしてから目の前の十字を右に曲がった。


 一方その頃未来サイドでは。


 釈の指示でルーレットによって射撃を受け、右足太ももと腹部の傷口に巻いている布切れから多量の血を流している。身体を震わせながら息を切らして傷口の痛みに耐えている未来は、その場で立ち止まって先の道をじっと見つめている。


 立っているのがやっとの様子。ぷるぷると震えた右足をぴんと立たせて〝これからこの場所にやって来るだろう人物〟を待ち伏せている。まるで釈快晴が自分の命を奪いに来るのを予知しているかのようだ。


 未来の右手には丸形小さいサイズの爆弾が見える。この爆弾を使って釈を返り討ちにしようと考えているのか?


 しばらくして未来が見つめる先からダレかが走って来る足音が聞こえてきた。次の瞬間、右手に握り締めていた小型爆弾を起動しようと震える左手で引っ張り口を引っ張る。


 数秒後に爆発を起こすだろう小型爆弾を握り締めたまま、投げるタイミングを見計らってじっと足音の聞こえる方向を見つめる。


「5、4、3、2、1」


 カウントダウンをしてから殺気に満ちた目をぱっと見開いて足音が響く方向へ小型爆弾を思い切り投げた。それと同時に爆弾を投げた方向とは反対の背後から釈の微笑みが響いて慌てて振り返る。


 振り返ると同時に199cmの巨体が広がる。同じく殺気に満ちた微笑みの男、釈快晴だ!


 悲鳴を上げる間もなく未来の首が鷲掴みされ、そのまま持ち上げられる。背後からは先程投げた爆弾の爆発音が響いている。


「爆発だと。そうか、お前は俺が来る事を察知していたんだな」


 釈によって首を鷲掴みに吊るされている未来は声を出す事が出来ない。


「それに汚ねぇ血が流れる傷口が雑に手当てされている。よくそんな身体でこの数時間生きていたな」


 未来が何か言い返しているようだが言葉が聞き取れない。笑みを見せる釈の表情が一変して殺意に満ちる。一瞬の間に何かを悟ったようだ。


「お前のバックに俺をこの場所へ導くよう手招きした人間がいるな」


「何ごばなじだ(何の話だ)」


「とぼけても無駄だ。俺がお前を選んだ理由が分かるか。見てくれさえ気に掛けなければ器なんてダレでも良い。それでも俺はお前を選ぶ必要があった。死に損ないのお前は、言っても俺が束ねる組織の幹部にして直属の部下として計画に参加した身。次に俺の言いたい事が分かるな」


「じらべぇよばなぜ(知らないよ放せ)」


「お前を助けた人物の正体を暴いて消す為だ。周到にもカメラの監視をしっかり避けながら、お前の直ぐ近くで手を貸すゴキブリを発見次第に潰す必要がある」


 釈が様々な人物に抹殺指令を出して、間接的に殺害した殺害現場を目撃している人物がいると推測する。山本カルロスや未来の兄である勇気が突然殺されたシーンだ。


 物語を少し振り返ると、確かに怪しい行動をとる未来を警戒した1人の男は彼を尾行し、結果的に追跡者として殺害現場を目撃し、重傷の未来を助けた人物がいる。


 その人物は、まるでこのゲームの内情を知るかのように、カメラの位置を押さえて監視者の目に入らぬよう未来と距離を置いて行動しているようだ。その人物は何度か登場したもう1人の巨体の男。


 首を締め付けられて今にも窒息してしまいそうな未来に、死にたくないなら手招きしている人物の名前を言えと脅している。次の瞬間。


 背後から男性の低い声が聞こえてきた。その男は背後から右手に持つ拳銃を釈に向けている。背後から殺気を感じ取った釈の表情が一変。


「後ろから失礼」


「ゾクッ」


「お前の方こそ。死にたくなければその手を離せ」


「お前ッ!」


「いきなり余りに驚いて振り返ったお前の今の行動は見逃してやろう。だが、次に妙な動きを見せれば遠慮なくお前の頭部を撃ち抜くつもりだ。もう一度言う。死にたくなければその手を離せ」


 釈を追い込んだ巨体の男、熊田威之助再び現る!


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