表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コロシタノダレ ~黒幕の脅威と地下学園脱出~  作者: まつだんご
―エピソードⅦ― 「救世主と首領崩し」
61/70

第六十八話 『 救世主 』


 決着の時


 GMゲームマスターチュリぞうの本名を使って処刑までの流れを計画していた悪魔の女、ダミー六条冬姫。

 その正体を夏男は、レベル王国と呼ばれる国の今は亡き王妃のクローン王妃〝8115〟こと春子姫であり、偽名はプレイヤー名〝島村佳奈〟と結論付けた。


 夏男に島村と呼ばれた反逆者の逃走を阻むダミー六条は、血の気が抜けたように青ざめた顔色を見せる。事態はここから急展開を連鎖するのであった。


 夏男を見つめて涙を流しているダミー六条は「どうして」と小声で一言。彼女が夏男に対して疑問に思うのも無理はない。夏男は、ダミー六条の正体を知っていながら泳がせていたのだ。


 では、何故夏男はこんな最悪な状況になるまでダミー六条を泳がせていたのか。答えは米山の死体発見通知を受ける直前に山本カルロスにお願いをされた一件。

 正確な本人の言葉でまとめられないが、彼が夏男にお願いした内容は「もしも彼女の過ちに夏男が気付く事態が発生するようであれば、踏み潰すのではなくひたすら止めてほしい」だった。


 夏男の中で亀谷妙子殺人事件の解決に向けて頭を悩ませている〝迷い〟が、結果的に何も出来ずに事態の悪化を止められないのかもしれない。


 今彼の目の前に広がる光景は、気が合わないとはいえ仲間意識の高い人物〝電田〟の正義そのもの。それとは別に山本の正義も頭から離れず、どうしたら良いのか分からないでいる。


 本来であれば、トラップルームから救出してくれた命の恩人、山本カルロスのお願いを聞き、GMのチュリぞうから王妃を守るべきだと考えるが、結局のところ電田の言い分は正しいと思っている。

 確かに事情も何も聞かずに、しかも黒幕に服従していたとはいえ亀谷を殺していない少女が処刑の対象に決定されるのはあまりに残酷な話だ。


 〝ここでの処刑とは、殺人者の罪を償う目的の裁きとは違い、法の下裁かれる訳もなく、ただの実験材料か何かに使われる殺人の公開だ〟


 自分の正義を貫こうと動いていた夏男は、結果的に黒幕の思惑通りに動いて処刑するシステムに加担しているのではないかと考える。


 その時生じる彼の迷いとは、今目の前で危険を顧みず少女を守ろうとする〝友の正義〟と、母国の為に戦う王妃が、道を誤ったら潰すのではなく止めてほしいとお願いをされている〝恩人の正義〟のどちらを信じるか。


 どちらか片方を犠牲にしなくては最悪の場合共倒れに終わるかもしれない。犠牲者を出さないに越した事はないが方法が見つからない。


 今だから夏男の胸の内を話すが、彼がいま他の誰よりも信頼を寄せるプレイヤーは、気が合わないと思われている電田龍治である。

 彼と夏男は、小さな場面に置いて物事を決める際には意見が割れてよくぶつかってしまう。しかし、ここぞという大事な場面に置いては自然と2人の連携がバッチリ決まっていたりする。


 その男が今命懸けで少女を守ろうと動き出している。彼は夏男に何か合図を送るに違いない。


 青ざめた顔で夏男を見つめている六条に対して電田が困った表情を見せてアイコンタクトを送ってきた。


「デンデン……」


 時既に遅し。急展開を見せる最悪な事態は〝奪う奪われるのやり取りをしてきた者への悲劇的な末路を辿る〟と相場が決まっている。以下の通りにあっという間に決着がついた。


 まず最初に動き出したのは路瓶孫の息子として乱入してきた虎の覆面男の正体である路瓶亮介。夏男が発した言葉によって、ダミー六条の正体が島村佳奈だと気付いた亮介は、真正面からダミー六条に向かって走り出す。


 1発の銃弾が込められたハンドガンを亮介に向けたダミー六条。しかし引き金を引く事が出来ない。向かって来る亮介がダミー六条に言葉を投げる。


「お前が本名を明かさずGMの本名を名乗ってきたというのであれば、お前自身が本名を知られてはならない理由があったと考えられる。そして、このゲームで本名が知られちゃまずい理由が浮かぶのは、罪を擦り付けようと考えたお前が殺した事実を揉み消す為と考える。どうした早く撃てよ」


 ダミー六条に接近してくる亮介が話を続ける。


「そもそも黒幕サイドをそこまでして殺す動機が俺には分からなかったんだ。だけど〝ミッション達成〟が目的であれば話は別さ」


 亮介の言葉に動揺して隙を与えたダミー六条は、身体を震えさせて引き金を引けないでいる。あっという間に真ん前まで詰め入る亮介がダミー六条の腕を掴んで床に倒す。倒れた彼女が握るハンドガンを蹴り飛ばしてからそのまま腕を取って身体の動きを封じる。


「亀谷を殺してチュリぞうを処刑に追い込んで、正体を隠せば2人殺してミッションが達成される。お前がこの場で銃撃を拒むのは、殺人現場を他のプレイヤーに見られてはならない〝殺人枠〟だからだ。違うか!」


「やめて。痛い離じで」


 あっという間に完全にダミー六条を捕らえた亮介。


「こいつが島村佳奈なら話が早い。実はこの裁判に乗り込む前の事、他人の枠ミッションのその種類を占う能力をもつ未来枠のプレイヤーに占って貰った。誰を占ったか、他のダレよりも謎だった島村とかいう女の枠ミッションを占って貰ったんだ。枠ミッションが何なのか分かっても、どいつが島村なのか正体が掴めないでいた俺と未来枠のプレイヤーは、この真実を隠して水面下でお前を探していたのさ。大人しくしろ」


 亮介が未来枠の人物と繋がっていて既に島村佳奈が占われていた?


 今回の一件で六条と名乗ってきた彼女が島村佳奈である可能性が広がり、反逆者として迷っている場合ではないと考えた亮介は、夏男が彼女を島村と読んだ直後に全てを賭けて一か八か正面衝突して捕獲。


 しかしこの展開は、彼女の正体を知る夏男にとって大きな誤算だった。彼女が殺人枠であれば、爾来也同様この時点で彼女のミッションが失敗に終わり、処刑が確定される。


 夏男は唖然としていた。まさか島村佳奈が未来枠によって既に枠を占われていたなど想像もつかなかった。亮介ら反逆者3人の逃走経路は開放されたが、同時に島村のバツシマスが実行されてしまう。


 次の瞬間、またしても〝あのアナウンス〟が流れる。


 〝プレイヤーミッション失敗確定を報告。被験者ナンバー17島村佳奈1名が本日午後8時01分に殺人枠ミッションに失敗確定しました。これに伴いナンバー17をバツシマスの対象と決定し、公開処刑を行います。処刑対象者は速やかにコロサレテ下さい〟


 〝繰り返します。プレイヤーミッション失敗確定を報告。被験者ナンバー17島村佳奈1名が本日午後8時01分に殺人枠ミッションに失敗確定しました。これに伴いナンバー17をバツシマスの対象と決定し、公開処刑を行います。処刑対象者は速やかにコロサレテ下さい〟


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 重要人物 島村シマムラ 佳奈カナ(15)

 女性 身長162cm 体重50kg

 将来の夢は世界を跨ぐカメラマンになる事

 31人目六条冬姫は彼女のダミープレイヤー名

 容姿は黒髪にプリント白のTシャツとデニム

 殺人枠にして亀谷妙子殺人事件の真犯人

 レベル王国王妃のクローン人間〝8115姫〟

 17人目の被験者(第三十七話初登場)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 倒れたまま絶望的なこの状況を受け入れられずに頭が真っ白になってしまった島村は、抜け殻のように全身の力が抜けている。これ以上の抵抗する意思はないと判断した亮介は、彼女の腕を離して立ち上がる。


 それに対して夏男が亮介に向かって「勝手な真似をするな」と怒鳴る。しかしどうだろうか、亮介は島村に手を差し伸べて立ち上がらせる。


「これで命の駆け引きは一旦落着だ。とりあえず先に言っておくが、どんな理由があろうと俺は、殺人を犯したお前の行為を一切正当化するつもりはねぇ。それとは別に、俺の敵はお前ではなくあくまでこの実験の主催者達アメダマだ。俺もお前と同じバツシマス対象の身。〝自分の過ちを後悔したい時間が欲しいのなら俺と一緒に来い〟」


 逃走経路が開放され、電田が少女チュリぞうを抱き抱える。亮介にモタモタするな、早く来いと言って裁判室の入り口まで走っている。良介は立ち止まったまま島村に背を向けて彼女にメッセージを伝える。


「亀谷は死んだ。お前が殺したんだ。その事実は何をしようとも永遠に覆る日はこない。お前はその現実を痛く受け止める責任がある。それもこれも、こんな最悪な状況を作り出しているドン釈がきっかけだ。こんなクソゲームに則った裁きを受け入れるのではなく、表に出てからしっかり償え」


 震えた身体に涙を流して亮介を見つめている島村。


「お前の罪は泣く事さえ許されない。分かったら迷っていないでさっさとついて来い」


 裁判室入り口に向かって走り出した亮介。足をフラ付かせて亮介の背中を追い掛けようとした島村の背後からバツシマスが行われる〝デッドルーム〟へと繋がる鎖が飛び出してくる。


 危険を察知して後ろを振り返った島村。鎖がこちらに向かって飛び出しているのに気付いて慌てて逃げようとするが間に合わない。


 絶体絶命のその時だった。


 島村の視界から見て真横から男の姿が飛び出す。その男は島村に「早く逃げろ」と言って突き飛ばしてきた。走り出した島村が振り返って見てみると、先程の男が鎖に捕まり縛られてデッドルームへと引き摺り込まれている。


「俺の事は構わず早く逃げろ。お前にはまだやらなきゃならねぇ事があるだろうが」

「何で……え、え」


 何とデッドルームへと繋がる鎖に捕まったのは亮介だった。


「行げぇっ!」


 数秒の間にデッドルームへと引きずり込まれ、裁判室から姿を消した亮介。周りのプレイヤーも何とか助けようと駆け寄るがとても間に合わない。彼の幼馴染である舞園創が亮介の名前を何度も叫ぶ。


 処罰の対象として、反逆罪を受ける手筈の亮介が島村の道を開いて犠牲となってしまった。


「創、すまない。追加でお願いが1つ増えた。親父と」


 デッドルーム内部へと飲み込まれた亮介。


 〝親父とナツを頼んだ〟


 この悪夢の中、包帯を巻いて突然実験の舞台に乗り込んできた亮介。彼が過ごした短いデッドゲームの時間は、すぐさま他のプレイヤーの希望の架け橋へと変わり、プレイヤーの命まで救ってくれた。こんな悪夢な状況だからこそ、彼のような勇敢な男が目立って犠牲になったのかもしれない。


 人々に希望と未来を、彼の正義の下真っ直ぐに与え、伝えてくれた救世主。


 黒幕サイドによる〝人を殺すよう仕向けられた洗脳ゲーム〟という環境に置かれながらも、最後まで恐怖に屈しなかった彼の強さ、その一部始終を知る人間は皆、口を揃えて言うだろう。「あいつはあの時、唯一黒幕に勝っていたプレイヤー」なのだと。


 ※ここから先は強めの残酷描写が含まれていますのでご注意下さい。


―――――――――――――――――――――

 バツシマスⅡ

 路瓶亮介 1名

 罪08『希望の光を消してやんよ凍らしてやんよ☆人間アイス』編


 デッドルーム内へと強制送還された反逆者、路瓶亮介。目の前には裁判室が見える透明の壁。上を見上げると肉眼ではどこまで続いているのか確認出来ない程の高い天井。


 肌寒いこの一室には不気味な雰囲気が漂う。こんな状況にも関わらず亮介は、どんな事をされようがお前らの恐怖には屈しない、諦めずに最後まで自分の正義を貫くと配置されているカメラに訴える。


 上から小粒の氷が幾つも降ってくる。その中の1粒を手に取って見てみると、黒く汚れた氷が手の平で溶ける。手の平から溶け切る前に「冷たい」と感じていた氷が急変して「熱い」と感じて思わず叩いて氷を破棄する。


「何なんだ」


 次に、床に落ちていく沢山の小粒サイズの氷が溶け出し、それが〝アンモニアのような鼻をつく強い匂い〟へと変わっていく。鼻を押さえながら、隣の裁判室からこちらの部屋を叩いているプレイヤー達へと視点を変える。


 どうした事か。先程の氷から漂う強い匂いを嗅いだ瞬間から、意識が朦朧として立っていられなくなった。亮介から見て部屋の右側から床に倒れてしまう。


 床に溶けた冷たくて熱い氷が、亮介の皮膚に刺激を与えて痛みへと変わる。デッドルームに送られてから2分程で辺り一面が氷の黒色に染まっていた。


 呼吸をすれば鼻につく強い匂いと目眩に襲われ、身体中痛みながら床に倒れている。床に倒れたまま天井を見上げると今とは比べ物にならない数の黒い氷が降ってきている。それに混じって〝肉眼では確認出来ない速さのもの〟がこちらに向かって無数に放たれる。


 〝パパパパパーーーン〟


 無数の銃弾が亮介の顔や首、お腹や足に無数の穴を開ける。次に亮介の身体に開いた穴から噴き出る赤色の液体が宙を舞って倒れた彼へと戻って被る。

 痛みの余りに大きく開けた亮介の口の中に、降ってきた無数の黒い雪が入る。


 黒い雪を飲み込んでしまった次の瞬間、口から身体中噴き出る出血の何倍の量の血を吐き出す。それから直ぐに発作に襲われて身体中が痙攣。痙攣している時間経過は約5秒間。


 血まみれになり苦痛の5秒間を味わい、目を閉じてから意識を失った。


 自身の出血によって真っ赤に染まった身体と、体内の血を短時間で半分以上失った真っ青な顔を見せて、彼は息絶えた。


 × ビンリョウスケの死体が発見されました


 止められなかった悲劇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ