第五十六話 『 議論開始 』
午後6時2分
場面はレッドルーム内モレクの間〝裁判室〟と呼ばれる場所。3つの事件について事件解決を目的に議論を行う。30台ある証言台に適当な並び順で円を描いて立つ12人のプレイヤーの議論が始まる。
しかし議論開始早々から赤西の安否が気になっていた夏男がみんなに話を聞こうか迷っていた。それから議論に参加するであろうと予想していた山本カルロスの姿も見当たらない。
夏男が自ら議論の進行役を買った訳だが、気になっている事を有耶無耶にしておくのは集中を途切れさせる要素だと判断して、話が逸れる流れになってしまうが皆に2人について話を聞いてしてみる事にした。
夏男の質問に対し、答えるのは電田龍治。
「赤西は今も目を覚ましていない。だが命に別状はないからそれは安心して良いと思う。山本のおっさんに関して私には分からない」
「そうか……まぁでもあのおっさんの事だからな。何か他にするべき事でもあるのかもな。出来ればおっさんにも議論に参加してほしかったが」
無残な姿を見てから気絶していた赤西が無事だと分かって安心している様子を見せる夏男。そうと分かればさっそく本題に入らせてもらう。
まずは3つの事件について、どの事件から議論を始めようか話し合うプレイヤー。夏男サイドに立って考えると3つ中脱出ルート内で起こった2つの事件についてはある程度の証拠とヒントを固め、それを繋ぎ合わせた独自の推理がほぼ完成している状態だ。
しかし問題は〝米山恵斗殺人事件とその死体消失事件〟米山殺しについて夏男は何一つとして捜査出来ていない状態。死体を直接確認した訳でなければ、殺人現場にすら一度も足を踏み入れずにいる。
気絶している間に時間が流れてモレクの裁きが始まってしまったからだ。本来ならきちんと現場を調べたり、プレイヤーらに直接話を聞いたり事情聴取を取る捜査計画が立てられていた。
今更過ぎた事をあれこれ言ってもしょうがない。なので米山殺しについてはこの場の議論を行う際のプレイヤーらの証言を元に、展開されたヒントを繋いだ真実を議論の中で探り探り固めていくしかない。
この場において重要となるのがその場の流れや個人の説得力、対する能力は判断力や冷静さ。そのためには皆がそれぞれ納得いくような物的証拠や第三者の証言等が必要になる場合が多々あるが、その流れを一旦みんなに任せる形となってしまう〝米山殺し〟をあえて一番最初に解決したいと提案する夏男。
最終的には〝真実を明らかにすること〟 勝利を大前提に議論を進められると考えた場合……
「米山恵斗殺人事件から議論を始めたい」
夏男の提案を聞いたプレイヤーらは互いの顔を見合ってからそれぞれ頷いてくれた。議論する順番があっさり決まり、最初に議論する殺人事件は〝米山恵斗殺人事件〟で決定される。
この事件に関して物語の主人公である夏男に一切の手がかりがない。不可解な事件の中でもまた異質な〝それ〟を解き、導き出した答えから正しい犯人を暴く事は出来るのか。
運命の一戦が始まる。
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本編中断
※裁きで行われる〝議論〟についての簡単な説明
モレクの裁きの核となる犯人を暴くまでの議論について説明をします。これから行われる裁判では主に〝リアルディベート〟と呼ばれる決められたローテーションに沿って議論が進められます。
リアルディベートとは、議論が始まった際に公開される人物ら全てが話される台詞のみで進める時間と討論方法を指します。ディベート中は伝えるべき状況説明を無視とし、参加プレイヤー達の間で繰り広げられる〝生の討論〟とその一部始終を時間経過のまま公開します。
よって、リアルディベートが繰り広げられる時間の間は、人物らが発言する台詞に一切の状況説明がないという事になります。
それぞれ登場した人物の個性を元に繰り広げられる台詞を読者の方でイメージしていただいて、独自に答えを導き出していただき、犯人探しの推理に参加する事を目的とします。
リアルディベートの際には、ダレカの発言の前にダレの発言なのかを明確にする意味で人物ら生台詞の前に発言した人物の名前を表示します。
議論中に公開される人物らの一言一言をどう捉えるのか、どういった意味でその人物がその発言をしたのか等といった状況判断を一旦お任せする形になります。
しかしリアルディベートは犯人が判明するまで延々続く訳ではありません。途切れ途切れ議論を中断し、主人公である神崎夏男の視点に立っていただきます。その際に省いてました議論の状況説明や夏男独自の推理を挟んでいく流れになります。
※夏男独自の推理が公開されるのと同時にコロダレ小テストが展開される場合もあります。テストの答えは〝あとがき〟に記載されます。
まとめ!
→ ↓ リアルディベート開始Ⅰ
↑ ↓ 討論を展開、反論
↑ ↓ タイムストップ、議論中断
↑ ↓ 夏男独自の推理を元に答えを導く
↑ ← 夏男が手に入れたヒント集を使う
事件の犯人が暴かれるまで上記の流れをローテーションしていきます。リアルディベートの後に表示される数字は1つの事件でカウントされるディベート数とローテーション回数を意味します。
Ⅰ→Ⅱ→Ⅲ→と議論を始めた回数がカウントされます。
最後に忠告なのですが、犯人の中で稀に名前を偽……長々説明していると釈にぶっ殺されてしまうので説明は以上とします。裁きの場で闘うプレイヤー達の幸運を祈ります。
※ 議 論 開 始
裁判枠参加者12名
バツシマス残24種
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米山恵斗殺人事件
被害者1名
リアルディベートⅠ
夏男「まず最初に米山恵斗殺人事件について話し合う前に俺からみんなに質問がある。俺は米山という人物について何も知らないし会った事もない。とりあえず彼の事を知っている方から直接話を聞きたいんだが」
桜雪「その前に私から一つ提案があるんだけど宜しくて?」
夏男「提案?」
桜雪「ちょっと強引なやり方になるけれど……私にはこれが正しい選択肢にしか思えない。議論を重ねても犯人が分からなかった場合はみんなで特定の人物に投票を揃えるよう協力しませんか。勿論黒幕サイドをやっつける事が目的になるわ」
夏男「最終手段として犯人が分からなかった場合はチュリップに投票するって事か?」
鎌倉「なにそれ。滅茶苦茶な話ね。そこのプリティガール、此処でその提案は趣旨が違うんでなくて?」
桜雪「さっそく弱音を吐いてるみたいで悪いけど、私の最終目的も皆とは変わらないし黒幕に泣き寝入りをするつもりもない。あくまで私個人の考え方として、最悪の事態を想定して物事を進めていきませんかという意思表示。悪い話だとは思えないんだけど、どうかしら?」
電田「なんて頼もしくてお美しいお方なんだ……おっと、桜雪ちゃんの言う事なら賛成一択だろ野郎共!」
爾来也「おいそこの男。そんな見え透いた下心で人の命を粗末にするでない!」
青葉「ゲームマスターが人の子であるかどうか疑わしいところでもあるけどな。どちらにせよ最終的には黒幕の人間を倒す必要があるのは皆も承知の事。彼女の提案はもっともかもな」
※ タイムストップ
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さっそく桜雪に流れを持っていかれる夏男。桜雪の大胆な提案により夏男自身が混乱してしまう。確かに黒幕サイドにほぼ確定されたチュリぞうに投票して処刑する倒し方も一つの手ではある。
だが真実を覆い隠してまで米山に直接関与していない場合のチュイぞうを処刑し、結果的に黒幕サイドを一匹沈めて脱出に一歩前進。そんな事で本当に良いのか?
夏男の中に眠る探偵のプライドに炎が灯る。真実をねじ曲げてまで黒幕候補を処刑するだなんて、傍から見たらどっちが黒幕なのか分かったものじゃないやり方。桜雪の提案が認められた場合、このゲームに善悪など存在しないただの二大勢力による戦争へと化しただけの事。
未来の名探偵、夏男が居ておきながら謎が解けない場合の話を進められる。
探偵は真実だけを追求するに限る。真実を知らぬまま黒幕サイドにアタックを仕掛けるつもりもない。
何よりもチュリぞうが黒幕サイドの人間であると断定出来る証拠がない。もしかしたら脅されていたり、ワケありで仕方なく黒幕サイドに服従している可能性だって充分に考えられる。
チュリぞうの正体がハッキリしないことには桜雪の提案はあまりにも残酷過ぎる。しかしこんな話で議論を逸らす訳にもいかない。こうなったら……
※ 議 論 開 始
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米山恵斗殺人事件
リアルディベートⅡ
夏男「良いだろう。犯人が分からない場合は黒幕サイドの人間に投票すれば良いんだな」
鎌倉「ちょっと夏男ボーイ? あんたそれ本気で言っているの?」
夏男「だが勘違いはしないでくれ。俺は桜雪さんの意見には反対だ。この事件の謎は俺が解いてみせる。悪いが桜雪さんの言う未来にするつもりはないし必ず犯人を暴いて公平な投票をさせる。とにかく今は犯人を暴くためにみんなの話を聞きたいんだ」
電田「寒男にしては上出来だな」
爾来也「貴殿よ。我に出来る事があったら何なりと申し付けてくれ」
青葉「私も神埼君と同意見だ。そんな残酷な話があってたまるか。それに桜雪さんはパートナーの米山が殺されたというのになかなか冷めた意見をしているのだな」
桜雪「許せないのよ。こんなゲームに強制参加させた黒幕の連中が許せないの。私はどんな手段を使っても黒幕を倒す事を諦めない。そのためなら何だってするつもりよ」
創「姉さん……」
鎌倉「気持ちは分からなくもないけど、あの人形が黒幕だと断定して良いのかしら」
夏男「とにかく米山恵斗殺人事件に話を進めさせてもらう。一人一人に俺から質問をするからみんな正直に答えてくれ。答えたくない場合は無言でも構わない」
路瓶「ちょっと待ちな、夏男君」
夏男「ん?」
路瓶「青葉先生。先ほど私が言っていたようによろしく頼む」
青葉「うむ。私も神埼君と同意見だ。チュリぞうに投票するつもりもなければ犯人探しを諦めるつもりもない。恐らくこの中で米山殺しの殺害現場を捜査したのは私と路瓶さんだけであろう」
鎌倉「まさか、既に犯人が分かっているとか何だとかいう予想外的な感じな感じな感じ!?」
青葉「犯人が分かっているか。その質問についてはノーだ」
鎌倉「何よ……無駄にウズいちゃったじゃない。思わせぶりな発言は控えていただきたいわ」
青葉「だがこの事件の真相を暴く事が出来るかと聞かれたらそれは胸を張ってイエスと答えよう」
一同「!?」
路瓶「我々は米山の死体を直接調べて、彼がどのような行動に出たのかすぐに気付く事が出来たのだ。彼の異質な死体には〝日常では考えられないおかしな状態〟になっていた」
青葉「犯人を暴く気満々の神埼君には悪いけど、米山殺人事件については我々が捜査した結果の事件の真相を全てお話したい」
夏男「分かりました。捜査結果をお話下さい」
※ タイムストップ
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米山の死体は日常では考えられないおかしな状態になっていた。路瓶孫のこの言葉が引っ掛かりながらもスルーして彼らの話を聞く夏男。
突然消えた死体。おかしな状態になって発見された死体。殺人現場を捜査したのは路瓶と青葉の2名。なかなか危険な香り漂う流れのような気もするが、もしも本当に彼らが既に事件の真相へと辿り着いているのなら話は早い。
重要なのは路瓶と青葉の証言自体が真実であるものなのか。それなりの物的証拠がなくては信用するに値しない。2人に何らかの思惑があってブラフをかけようとしているのが分かったらすぐに議論を中断させよう。
2人の目をよーく見るんだ。次に口元。彼らが語る証言内容は極端な話が辻褄さえあえばそれで良い。
※ 議 論 開 始
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米山恵斗殺人事件
リアルディベートⅢ
電田「順を追って丁寧に説明してもらうのは有難いが、正直じれったいからまずは結論から聞いておきたい」
夏男「そうだな」
鎌倉「でも青葉さんはこの事件の犯人は分からないと仰っていたわよ。真相を暴く一歩手前のところまで来ていて、この議論を通じて疑惑のある人物に最後の詰めをする必要があるんじゃないのかしら」
路瓶「そもそもの話がこの事件には不可解な点が多過ぎてな。殺人を犯した犯人という訳でもないが、この事件を起こした張本人の意図が分からないから厄介なんだ。彼はどういうつもりなんだろうか」
青葉「ああ。明らかに何らかの思惑が絡んでいるからこちらとしてもどうしたら良いものか」
夏男「お聞かせ願います」
路瓶「ああ。結論から言うと……この事件には、ある人物による何らかの思惑を絡めた情報操作があってな。どういうつもりか知らないが〝彼〟はそれを実行に移してしまった。そして消えてしまった米山の死体は間違いなくこの建物内のどこかに移動されている訳だが、問題なのは米山の死体を移動した人物」
夏男「犯人が移動させた線が濃厚ですが、他にも事件の協力者が運んだ可能性はありますね」
路瓶「その可能性も考えられるが死体を調べた我々の立場から言わせてもらえば、犯人が直接死体を移動させた可能性も、第三者が死体を移動させた可能性もないと断言出来る」
一同「!?」
鎌倉「死体を運んだのが犯人でなければ第三者でもないのに死体が消えたって……え、いやアリエナッシング!」
青葉「そもそも米山恵斗殺人事件という呼ばれ自体が誤報であり、そのせいでみんなの認識がずれている。何故ならこの事件に〝犯人など存在しない〟からだ!」
一同「???」
路瓶「何故犯人がいないと言い切れるのか。答えは米山の死体に全て隠されている。桜雪さんが米山の死体を発見してから少しの時間が経過した頃、プレイヤー全員にペル電子手帳を通じて死体発見通知メールが届いた。その直後にメールを読んだ我々が現場へ駆け付け彼の死体をこの目で発見した。彼の死体を確認したプレイヤーは多数いるが、死体を直接捜査したのは我々で〝彼が死体として発見された後〟になる。しかしどうだろうかあの〝異質な死体〟は」
一同「…………」
青葉「米山は自身が何者かによって殺されたと我々プレイヤーらに誤認させるために事件を起こした……」
路瓶「米山恵斗の死体は死体ではなかった。彼は何らかの理由で殺害されたように見せかけて死んだフリをしていたが〝実は生きていた〟のだ!」
夏男「つまり、米山恵斗の死体を動かしたのは米山恵斗自身……」
※ タイムストップ
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死体として発見された米山恵斗が生きている? 一体どういう事だ。もし彼らの言う事が本当ならこの殺人事件全てが偽造であって犯人も存在しないという事になるが。
という事は米山の1件は殺人事件でも何でもない。しかしそれはおかしな話だ。殺人事件自体を起こした張本人が被害者だと思われていた米山であった場合の彼の目的、又はそのように至った理由はなんだ?
米山自身が死体ではない可能性と青葉&路瓶の証言に嘘がある場合の2つの可能性から現段階の〝2つの答え〟を考えてみよう。
コロダレテスト(答えは次話のあとがきに記載)
1.自身が死体と化せばダレカに狙われる心配もない
2.何者かに襲われていたが死には至らなかった
3.プレイヤー全員に自身が死体だと思わせる必要があった
4.そもそも青葉と路瓶の証言に嘘がある
5.米山恵斗という人物自体が存在しない
波乱の幕開け!
※後書き
本編で紹介された〝あとがき〟は各話の一番下に線引きで表示される此処の部分を指します。携帯で読まれる方は各話の次のページに載せられます。




