20人目
20人目、菊池昭造
旧桜ヶ丘学園時代の頃から学園長を務め、現在では改名された希望ヶ丘学園の学園長を勤める菊池。
しかし、実は彼の過去に過ごした黒歴史と犯した罪について知る者はいない。彼には血筋から巡る罪深い過去がある。
学園内で起こった1つの〝殺人事件〟によって桜ヶ丘学園を改名せざるを得なくなる際に中心となって対応したのも当時から学園長を務める菊池昭造だ。
上記を指す殺人事件は世間の間で〝桜ヶ丘学園襲撃事件〟と呼ばれ、この事件をきっかけに2つの学園が合併して新たな学園名を決定し、全てを1からスタートせざるを得なくなる。2つの学園とは旧湘南学園と旧桜ヶ丘学園。
事件直後の桜ヶ丘学園の評判と言えば最悪そのもので、周りからは殺人学園だのキチガイ学園だの罵声を浴びる事も多く、事件の全貌を明らかにしたメディアの情報が全国ネットでお茶の間のテレビ等で頻繁に流れる時期がある程に大規模なものになってしまう。
事件は5年前。事件の主犯はフレームデッドゲームの参加プレイヤーの1人にして、裁判枠の副リーダーに抜擢された篠原すみれの実の姉〝篠原由香里〟である事は本編で公開されている。
そして、それが冷凍人間を開発しようと裏社会で活動しているクライオニクスと呼ばれる科学組織をバックに、殺人事件と見せかけた殺害偽装工作が行われていたのも本編でネタバレされている。
※桜ヶ丘学園襲撃事件の詳細は、本作のはじめに(前作のあらすじ)内、もしくは前作エピソードⅡ第十六話~第十八話の中に載っております。
今話は菊池昭造の過去に迫るお話が短く展開されているが、菊池昭造が何をしている人物なのか、または本編ではどのようなポジションに立っているのか等を把握して貰えれば、サイドストーリーに繋がる伏線が一部結びつきます。
彼は今作序盤で死体で登場してしまったので、長い前振りになってしまいましたが本題は別にあります。
彼の過去……それはダレも知らない彼の隠してきた27年前からの5年間。現在とはかけ離れた生活とその人格。一言で言ってしまえば彼は〝プロの殺し屋〟である。
プロの殺し屋で代表的な組織と言えば、物語内の現在で言う博打組を指すが、その博打組と平行して活動していた殺し屋組織が当時は他にも存在し、その中の1つである〝大園組〟と呼ばれる組織の幹部に所属していたのが菊池の27年前の全てである。
27年前
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大園組・園門入り口前
2人の男と女が、大園組本部の入り口前にて〝ある人物〟の帰りを待つ。男がポケットから葉巻を取り出し、それを口に加えながら遠くをじっと見つめている。対する女は特に変わった様子もなく、ある人物の帰りを待つ。
先に口を開いたのは女の方。
「菊池さん遅いですね」
遅いですねと男に言葉を投げかけたこの女の正体は〝安藤恭子〟。対する男の正体は……
「僕は兄貴が遅れても何も苦に思わないよ。何と言っても遠くを見ているフリをして、君が髪に付けている花飾りを眺める時間を貰えるのだからね」
「あら舞園君。あたしに気があるのかしら?」
「さぁ、どうだろうね。ただ1つ言える事は僕の心は君の髪を眺めていたいと呟いているよ。どうだい、驚いたかい、気持ち悪いかい?」
「えっと、何をまたご冗談を……」
「冗談じゃないよ。僕はね、君の付けている髪飾りが本当に好きなんだ。ちょっと見せてくれないかい?」
そう言って安藤の髪飾りを手に取る舞園君と呼ばれる男。
「この花は青い向日葵だね。実はこの花には思い入れがあってね。この青い向日葵を見ていると、どうにも過去の出来事がフラッシュバックしてしまって心が締め付けられる気持ちになるんだ」
堕落的、破滅的。この上なき勝手なもの。内面に広がる闇。誰も知らない名も無き花。
「人工的に作られた花ほど人の考える〝無意味な意味〟を持つものは多いんだ。だから僕はこの花の色や特徴を観察するのが好きでね。そして驚く事に君はこの花の髪飾りがとても良く似合う」
「なにそれ、私を口説いているの?」
「迷惑かい?」
男が女を抱きしめようと近づいたその時であった。1台の黒色の車が大園組入り口門前で停車する。
「ご苦労様です兄貴!」
「お待ちしておりました菊池さん!」
車から降りるのは派手にゴールドスーツを着こなしている当時の菊池。
「待たせたな」
真っ直ぐ大園組本部へ向かって歩き出す菊池。
「例のモノは用意出来たか?」
「はい、ただいま唯我に持たせてあります。すぐに用意致しますか?」
「用意があるなら結構」
「あのー、それで兄貴……博打の奴等は〝1938売買〟について何と返答されたのでしょうか?」
「話は以上だ。目障りだから失せろ」
目障りだと言って舞園を下げさせてから拳銃を右手に持つ。黒の車から一緒に下車した下っ端の男にその拳銃を渡して一言。
「すぐに始末しろ」
始末しろと言って大園組総本部の2階へと上がる菊池と指示に従う下っ端の男。
2階に入ってすぐ右にある扉を開けて室内に居た2人の男を四の五の言わずに射殺する。
「片付けておけ」
内部で少しでも裏切り行為や目立った行動をしていると、今のように上から殺害命令が出され、殺されてしまう事が当たり前な物騒な世界。そのど真ん中で活躍するのが大園組や博打組である。
現在も過去も博打組の頭は〝釈ファミリー〟に対して、今は存在しない過去の殺し集団大園組の頭と言えば〝菊池ファミリー〟になるのだ。
当時の大園組の頭は菊池昭造の父親であるため、組の若頭として実質的な地位は組長に次ぐ権限をもつ男が過去の菊池昭造の正体である。
現在は闇組織全般から足を洗っている訳だが、その過去を知る数人の人物らが今なお菊池に接触してきたりする。それとイコールして旧桜ヶ丘学園である希望ヶ丘学園の学園長であるために学園と闇組織は切っても切れない関係を保つ事となる。
それらがきっかけになって希望ヶ丘学園を中心に、現在の闇社会を取り仕切るドン釈や博打組らが活動している事になる訳だが……
学園の関係者らはいい迷惑である。しかし一部を除いて菊池の過去を知る者など居る筈もなく、突破口を見出せないでいる学園の裏事情。
全ては菊池昭造という男の過去に踏み入れた……いや、彼の血筋が引き金になっているのだという事。
最終的に博打組に喰われて破滅してしまう大園組であるが、正確に言えば博打組の傘下に入る事で大園組の歴史は幕を閉じた。
当時の大園組組長である菊池の父親が博打組の手によって殺害されてしまい、後を継ぐように昭造の組長推薦が自然の流れであった。
が、しかし敵に隙はなく、若き昭造に組をまとめる能力はなく、畳み掛けられて博打組に完全敗北してしまう。
親父を殺した博打組について、昭造は相手に一切の恨みはない。
何故かというと自業自得であるという事、殺しの世界でいちいち人を恨んでいたらキリがないという事。
何よりも昭造自身が人殺しに対して慣れてしまう環境で育ってきたこと。これが一番大きな理由であろう。毎日のように見てきた人の死体や殺害する瞬間。
もっと言ってしまえば菊池昭造自身が何人殺したか検討がつかない。彼自身が殺しのプロである事から、一般的な死に対する恐怖を感じる事もなく、感覚が麻痺している。
人が死ぬ事の恐怖、悲しみ、絶望。そんなものは生まれた頃から忘れろと教わって育てられてきたのだ。
今では希望ヶ丘学園の学園長を勤めるカタギとして表社会に貢献する昭造であるが、彼の抱える血筋から生まれる運命はそう簡単に変えられるものではなかった。
そして現在進行形であるフレームデッドゲームと呼ばれる、人殺しを煽るようなクソゲーの開幕前に死体で発見されてしまう彼であるが、何故プレイヤー20人目に認定されたにも関わらず、殺されてしまったのだろうか。
もしかしたら最後の抵抗・最終手段に出た昭造が何らかの計画に失敗してしまい、ゲームの黒幕サイドに殺されてしまったのかもしれない。が、真実は明かされない。
彼の隠してきた過去の黒歴史が、全てを繋ぐ伏線の柱となるのか……
最後に菊池昭造の口癖みたいな言葉、その一言。
「私は希望ヶ丘学園の学園長として、学園生徒の皆さんや職員の皆さんの未来の支えとなりましょう」
※サイドストーリーⅤは以上となります。
次回は計十二話でまとめた本編〝エピソードⅥ〟に突入します。




