第四十九話 『 静寂の五日間 』 3/3
舞園創が逃走成功!?
特等席にて博打組所属プレイヤー回収班に指示を送っていた男、釈快晴の表情が険しくなっていく。
プレイヤー最後の逃亡者である舞園創と堂島和雄の2名を釈の部下が捕まえたにも関わらず、こちらへ向かう道中にて何者かが2人を救出した模様。逃走を許してしまった事態を現場に居た回収班から通信機にて報告を受けた釈に笑みが消える。
「舞園と堂島を逃がしただと!?」
通信相手が咳き込んでいる。外の世界で何が起こってるというのだ?
「――状況を説明しろ」
「申し訳ございません旦那様。ただいま現場を任された回収六班は謎の男〝虎の覆面〟率いる団体に不意を衝かれてしまい既に壊滅状態であります!」
「六班が壊滅だと?」
「申し訳ございません。相手の戦力は我々の予想を上回っておりました。あんなメチャクチャな連中、我々だけではとても太刀打ち出来ません」
「分かった。もう良い。お前らは生存者の手当てを済ませてから〝桜ヶ丘学園〟へ戻って来い」
「旦那様、申し訳ありません。ただいま私の横にその……覆面の男が……」
「ほう。居るのならさっさと代われ」
通信機の男の隣に居る〝虎の覆面〟が「命が惜しければ早急にディーラーへ連絡しろ」と男を脅し、止むを得ず釈快晴へ電波を通じて通信機を繋げた状況。
通信相手から聞き覚えのある男の声が聞こえてくる。
「ようディーラーの旦那。あんた今フレームデッドゲームに参加しているんだってな?」
「何者だ?」
「現場に足を運んでプレイヤーと一緒に殺人ゲームを楽しもうって腹か。いや違うね。こういう場面のお前は決して表に現れやしない真の臆病者だったな。どうせ誰も辿り着けないような場所で小細工でも仕掛けてる最中なのだろう。その度に死に逝く者を傍観してはお決まりの高笑いでもして高みの見物気分を味わっているに違いない」
「お前……聞き覚えのある声だな。さっさと名乗って求める条件を言え。だ・れ・だ?」
「余計な質問はしてくるな。さっきお前の部下が言っていたようにこっちはお前から奪い取った舞園創と堂島和雄を確保している。思ったより簡単に事が進んで拍子抜けしちまったぜ」
「らしいな。してやられたよ」
「条件なんて何もない。ただこれからお前に忠告でもしてやろうと思ってな。これから桜ヶ丘学園は外部の権力者達が取り締まる手筈になっている。時間で言ったら48時間以内の予定だ。という訳で既にゲームを進行出来るような状況ではないという事だけ伝えておきたくてな」
無言になる釈快晴。
「全プレイヤーを回収出来ずに実験も初日に強制終了となったら、いよいよお前らの組織も終わりがきたという事だな。これまで散々悪さをしてきたツケが回ってトップから順に首を落とされていくだろう。当然の報いだ。お前は何人の人間を殺せば気が済んだんだろうな」
何も答えない釈快晴。
「証拠は掴んでいる。後はお前等が潰れるのを待つだけだ」
少し沈黙が続いてから釈快晴が口を開く。
「話はそれだけか?」
「お前と恋愛について語り合うつもりはないんでな。以上だ」
釈快晴が笑みを浮かべる。詰めが甘いと言い捨て不気味な高笑いを相手に聞かせ、話が釈快晴ペースへともっていかれる。
「お前が今やっている事は俺の真似事をしている気取った連中と一緒だ。ンフフフ」
「何だと?」
「お前の正体が分かった。お前の〝守りたいもの〟も分かった」
「この期に及んでハッタリかますつもりか。最後まで醜い奴だな」
「いいやそれは違うぞ少年よ。何故ならお前の守りたいものは俺の手中にあるからだ。この意味が分かるか、んん。そうだ、そいつをいつでも捨てる事が出来る。俺なら跡形も無く消し飛ばす方法を熟知しているんだンフフフフ」
通信機を強く握り締める釈快晴。
「俺が動き出す前に大人しく桜ヶ丘へ向かえ。今のは聞かなかった事にしてやる」
「ふざけるな。悪いが俺の計画は完璧だ。奴等はお前には劣るが名のある権力者達だ。お前等が地に堕ちる日を今か今かと待ち望んでいた連中は数え切れない程いるんだよ。お前等はそういう組織だ。そして奴等が48時間以内に動き出す。お前等が実験に失敗さえすればただのイカレた集いでしかないからな。大勢のアメダマがお前等を見捨てる事だろう」
「口の悪い少年だンフフフ。黙ってお前の手に持つ通信機をスピーカーにしろ」
「スピーカーだと。何をするつもりだ?」
「お前じゃ話にならねーよ。そこに居るムチカク全員に話しておきたい事がある」
ここで少しの間黙り込む通信相手の覆面男。そして考えに考え抜いた末。
「お前の話などどうでも良い。スピーカーにはしない」
「少年も聞いて損のない話だ」
「少年とか馬鹿にしてんのか? 何の話だ!」
「ンフフフフ。お前の守りたいものの現状を教えてやるよ。だからさっさとスピーカーにしろ」
相手が相手だけに敵は何か罠を仕掛けてくるに違いない。そう確信していた虎の覆面男であるが、彼の心の内で「もしかしたら」という思いが過ぎる。そんな訳がないと自分に言い聞かせるが、結果〝釈快晴との通話を最大ボリュームにしてスピーカー設定〟にするのだった。
「舞園創、堂島和雄。聞こえるか?」
釈快晴の不気味な微笑みが続く
場面移動
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外の世界
とある外の道中にて。通信機を睨み付ける〝6人の戦士達〟が釈快晴の声に反応する。現場に居るメンバーは以下の通り。
舞園創・堂島和雄・石川奈津・虎の覆面男・村上秋博・小楽凛
虎の覆面男が5人に「奴は本物だ」と伝える。
「返事くらいしたらどうだンフフフ。まぁ良い。俺はお前等が回収されるのを待ちわびていた。こうして話が出来る日が来るとは思わなかったぞ」
無言の6人。
「何せ両者共に真っ先に死ぬタイプだと予想していたからな。通信機越しとはいえ俺と接触出来るまで粘るだなんて誰が予想出来たか」
さっさと本題に入れと怒鳴って言う虎の覆面男。
「こういう事もあろうかと俺はある〝切り札〟を用意しておいた。その切り札とはお前等が命を懸けてまで守りたいものだと確信している。さっき餓鬼が一匹俺を挑発してきたが、そいつの正体が分かった時点で一つの取引を思い付いたんだ」
通信機を握り締めて特等席に座る釈のサングラスがキラリと光る。
「〝石川奈津の命が惜しければ黙ってゲームに参加しろ〟」
虎の覆面男が固まる。他の〝4人〟も頭にクエッションマークを浮かべている様子。そして一斉に共に行動していた石川奈津を見る。
石川奈津の表情がニヤリと微笑みだした。
「お前等が救出したと思い込んでいるそいつこそが石川奈津の〝クローン人間〟だ。本物の石川は俺を恐れ、それでも守りたいものを守るため、結果的に黒幕サイドに服従している」
一瞬にして緊迫した空気が流れる。そして数秒の沈黙が流れてから5人が一斉に拳銃をポケットから取り出す。と同時に石川奈津が拳銃を自分に向け、自分自身を射殺する。
〝パァァァァァァァァン〟
「どうやらお前等はドン釈の計画する〝3つの実験〟を全て把握している訳ではなさそうだなンフフフ。良いか。プレイヤー認定されている舞園と堂島。お前等はこれから俺の指示に従って動いてもらう。今から〝五日〟だけ時間をやろう。話は以上だ」
通信が途絶える。と同時に通信機へ向かって走り出すのは舞園創。
「待ちやがれくそったれ!!」
通信が途絶えているので相手に言葉は届かない。
「ちょっと待てよ!!」
石川奈津と接触した経路を説明する。
アメダマ所属博打組によるプレイヤー強制回収から逃走していた堂島と創の2名は、途中で堂島の部下であるムチカクという組織に保護される。そしてまずムチカクが行ったのは〝石川奈津の救出〟である。
それから間もなく石川奈津の情報を掴んで救出へ向かうムチカク。
その後、堂島率いるムチカクは本物だと思われていた石川奈津の救出に成功したかと思われていた。が、しかしたった今本物の石川奈津こそが偽者であったという真実を知らされ、証拠はこれだと言わんばかりにクローン石川奈津が自殺した。
つまり前作にて2人居ると思われていた石川奈津の偽者と共に行動していた推理がくつがえり、今まで創が高橋と共に過ごした石川奈津こそが本物の〝ナツ〟なのだ!
「クローン人間ってあいつは何を言ってるんだ……」
クローンの石川奈津は、ディーラー釈快晴の仕掛けたトラップの餌と成り幕を閉じる。そう簡単に石川奈津を救出させないと言ったところか。
※2人の石川奈津の初登場や細かい行動については前作に載せてあります。
そしてこれから何も起きる事なく静かな五日を過ごした30人のプレイヤー。嵐の前の静けさか、余りにも静か過ぎる故に気味の悪い五日間であった。
ゲームは亀谷妙子と堂島快跳の死体発見通知後から何の動きもない。
エスケープルート内にてトラップルームに閉じ込められている夏男ら5名もこの五日間外に出る事が出来ず、他のプレイヤーとの接触も一切なかった。
精神的にも肉体的にも限界に達した5名は生きる気力が薄れ、もう駄目だと諦めモードになっていた。
出れない恐怖と食料のない不安。怪我をしている2名と堂島快跳の死体発見通知。外には訳の分からない怪物が居て釈快晴が監視している状況。
絶望しかない5人は涙を流して最期を迎えようとしていた。
運命の歯車が新たに動き出す〝五日後〟まで話を進める……
ゲームは現在も進行中
エピソードⅤは以上になります
※ドン釈を含めた重要人物全31人/生存者残り28人
〝チェックポイント5〟へつづく




