表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/70

7人目


 7人目、椎名シイナアオイ


 今話は、フレームデッドゲームのプレイヤーに選ばれた(強制的に参加された)椎名葵の過去を一部公開しよう。


 彼女、椎名葵の両親は彼女が6歳の頃に離婚している。それから母親に育てられるが、椎名葵はおじいちゃんおばあちゃん子であった。女手ひとつで育ててくれた母親ではあるが、朝早くに仕事に行ってしまい、夕方にはスーパーでパートをしていた。


 そんな毎日の時間に追われていた母親をフォローしながら、葵の面倒を見てくれていたのが椎名家のおじいちゃん、おばあちゃんである。


 寂しい思いはさせたくない。


 そんな椎名葵の中学時代は充実していた。初対面の人に対しての遠慮を知らず、真っ直ぐに、ただがむしゃらに頑張る彼女の元気さは、葵の通っていた中学で相当ウケていたのだ。


 そもそも彼女は人を惹き付ける魅力を幾つも揃えている。中学では目立ってしょうがないある楽器を持ち歩いていた。それは“ベース〟だ。


 何事もチャレンジするべき中学時代ではあるが、少し刺激の強い楽器になる。そんな目立ってしょうがない〝刺激〟こそが、人を惹き付ける彼女の魅力の一つでもあるのだ。


 現在はギターを片手に歌を歌っている。担当はボーカルであり、心に響くビブラートが最大の魅力である。実は小学時代から習っていたボイストレーニング教室に始まり、ビブラートのトレーニングを積んできた努力家でもあるのだ。


 そんな彼女の夢は〝世界一じゃなくて良い。最高のバンドに携わり続けたい〟


 そして、彼女自身が『最高!』と思えるバンドを作る努力をしてきた。その中で出会った仲間達とバンドを組んでいくうちに、これしかないと思えるようなバンドを組む事が出来た。


 彼女が何よりも大切にしたい事。それはバンドメンバーそれぞれの個性である。各々の個性を活かした演奏が出来るか、そのためにはどの音をチョイスすべきか。このメロディに乗っかる歌詞はこれで良いのか。私達はこれを本当に伝えたいのか。全ては作り手の個性を活かすに尽きる。


 最大限に個性を活かした小さな最高バンド。彼女の宝物・喜び・怒り・悲しみ・思い出・失敗・青春。その全てが詰まった葵が作り上げたバンド名は〝ディー-(マイナス)〟


 現在のメンバー数4人で全員が女子。中学時代の葵は、D-のベースを担当していた。他にはボーカル&ギター・ギター・ドラムを担当するバンドメンバーが3人いる。


 今回は、D-が初めてオリジナル作詞作曲をして作り上げた処女作、その歌詞を公開しよう。


 椎名葵の中学時代に作り上げた曲。当時のバンド魂を全て詰め込んだ厚みのある一作。


 普段の彼女とは違った一面。そのイメージは非常に困難になる。


――――――――――――――――――――――――――


 曲名:Blue Berry

 作詞:椎名葵 作曲:椎名葵



 四季癒えぬさりげなく

 隙間から悲しい感情一粒

 空が不自由に見えてくる


 先の言葉が便利な程

 虚しいものもないくらい

 愛が素敵とも限らない


 尖った経緯なんて春に振り返れば良い

 それでも貴公子に拳で打たれてしまう


 胸糞悪い男の始末に白旗壱語

 厳重注意は自分の美学に反する計算


 答えを探す瞬間ときの私はやや極楽

 素手で対等にシンプルに奏でる愛を

 この身で味わった痛みとマッチさせた詩


 青い実一粒あなたにあげる



 重なり合う偶然が必然

 目に映る日常の奇跡二粒

 空は永久に続いていた


 後の言葉が不便な程

 伝えられない形も増えてきて

 『素敵だね』と一言あれば違ってた


 瞬きをするたびに消えていく季節、春  

 それでも最後は抱き寄せてくれたんだ


 明日の痛みを昨日へ送るやり取り

 叶えられない自分の思いは祈るだけ


 自分に背く瞬間ときの私はやや不機嫌

 を降り強がりに滲んだ愛を

 其の手に聞き慣れたあなたをマッチさせた詩


 青い実一粒あなたにあげる



 伝わらなくても良い

 1秒でもあなたを感じていたいだけ

 幻想斬った二重のを成して

 どこまでもあなたの背中を信じていきたい



 答えを探す瞬間ときの私はやや極楽

 素手で対等にシンプルに奏でる愛を

 この身で味わった痛みとマッチさせた詩


 青い実一粒あなたにあげる


 自分に背く瞬間ときの私はやや不機嫌

 を降り強がりに滲んだ愛を

 其の手に聞き慣れたあなたをマッチさせた詩


 赤い木を宿した息吹が耐えない季節、春


――――――――――――――――――――――――――


 現在もバンド活動をしているD-のメンバー達は、失敗を恐れずに多種ジャンルにチャレンジしてきている。演奏中の衣装やらパフォーマンスやらは派手めに飾る。彼女らの最終目標は特にないみたいだが、一瞬一瞬が大事なんだよというスタンスや言葉を遠まわしに表現してみせる場面が多く、『命』や『愛』といったキーワードを並べながら伝えようとしている。


 それとは別に、椎名葵が本当に伝えたい事がもう一つある。


 彼女はまだもう一つの目標を成し遂げられていない。というよりは、隠し続けるべきだと判断して他者に言えずにいた。勿論バンドのメンバーも知らない事になる。


 しかしどうだ、この状況。


 彼女はフレームデッドゲームと呼ばれるデスゲームに強制参加させられたプレイヤーの一人である。


 ゲームの舞台が何処なのかも分からず、ただ出口を求めて彷徨っている。しかし、彼女が最終黒幕のドン釈でないとは言わない。


 15歳の彼女が本当に伝えたい事。いや、伝えるべき事。そしてそれはどうしても報告しなければいけない人がいる事。高校生活が始まった季節に頭を悩ませていた事。


 処女作の詩にあるラストの一行を現実にした事。


 それは……


「お母さんごめんなさい。アオ、馬鹿だから何も考えられていない。お腹に赤ちゃんがいるの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ