第四十一話 『 裁判枠の同盟 』
同盟についてのミーティング
フレームデッドゲーム1日目・午前8時15分。場所はプレイヤー達の個室からそう離れていない部屋、食堂にて。
同盟を組もうと篠原すみれに勧誘される夏男。すみれを中心とした同盟を組んでいるプレイヤーは既に9名になっていた。ゲーム開始初日のたった一時間で何という行動力をしているであろう。頼もしい限りである。
電子手帳ペルを使い、赤外線で個人情報を交換し合うプレイヤー達。個人情報を交換するのを拒否した未来と、自室で眠る篠原由香里を覗いた計7名のプレイヤーと、個人情報の交換を完了した。よって、現時点で夏男の電子手帳には7名の情報が更新される。
篠原すみれの計画する同盟を本人は『裁判枠の同盟』と言っていた。裁判枠の同盟に加入しているプレイヤーは以下の重要人物達になる。
リーダー:篠原すみれ
サブリーダー:篠原由香里
戦闘員1:爾来也伊吹
戦闘員2:鎌倉雲人
医療員1:青田向日葵
医療員2:六条冬姫
推理専1:未来
料理専1:電田龍治
料理専2:亀谷妙子
裁判枠の同盟とは、裁判にて裁判枠として参加し、投票を合わせたりする等の協力プレーをする他、枠ミッションをカミングアウトをしなければいけない場面になったら、例えこの中のダレカが裁判枠でなくとも、こちらは裁判枠一本で合わせていこう等といった〝殺人事件が起きてしまう事を前提〟とした対策が練られるものである。
しかし、人が殺されてしまうのを黙って見過ごすつもりはないようだ。殺人事件が起きてしまった場合の対策や前提としては、犯人を暴く事を最優先とする。
しかしそうなってしまえば同盟に参加するプレイヤー達は枠ミッションを達成する事が出来ない。という事でリーダーである篠原すみれより、裁判枠の同盟の方向を示す一言から物語が始まる。保健室から戻ってきた六条は治療器具を青田向日葵に渡す。青田に治療してもらいながら篠原すみれの話を聞いている夏男。特製ソースを絡めた豪華食材ロブスター料理がテーブルに並んでいる。
「我々裁判枠の同盟の脱出手段はただ一つ。人を殺して逃げ出す訳でもなければ、黒幕を暴く訳でもない」
「と言うと?」
「脱出手段は、互いに協力し合って〝エスケープルームの先にある脱出ルートを抜ける〟」
「エスケープルーム……」
ぞうさん人形は今朝観たDVDで脱出ルートについて説明していたな。確か罠があるだとかで、そこを見事抜ける事が出来たら脱出成功。すなわち枠ミッションを無視して脱出する手段を俺達は与えられている事になる。
篠原すみれの計画を聞きながら、フレームデッドゲームのルールを整理している夏男。話を続けるすみれ。
「お前らも既に聞かされているとは思うが、脱出ルートと呼ばれる場所には様々な仕掛けが用意されているらしい。中に入れば危険と隣合せの事態が想定されるだろう。どうなるかは進んでみない事には分からない。しかしだ。俺がお前らに同盟を組もうと勧誘した真の目的はそこにある。脱出ルートを一人で抜けようとはあまりにも危険過ぎる。脱出ルートを抜けるには、一人でも多くの仲間を作り、協力する必要があると見ている」
「なるほど。あくまでミッションは無視の方向でいくんだな」
夏男が一言。
「当たり前だ。俺もお前らも何らかのミッションを与えられているだろう。そこで色々と疑問が沸いた筈だ。どう考えても仲良く脱出ごっこをしましょうって感じではない内容が書かれていた」
「そうだべ。人殺しなんてウチにはできん。早うそのエスキーなんとかに行くで脱出だべさ」
亀谷がリーダーの方針を後押しをする。
「どうだ、神崎。俺達と一緒に来ないか?」
改めて同盟に勧誘する篠原すみれ。
「…………」
つまりこいつらは裁判枠として集まった提でこのゲームを動かしていくつもりなんだな。投票を合わせるか、なるほど。それに枠ミッションには参加しない方向性という。それにこの同盟には既に六条さんと篠原さんが加入済み。全てを並べていくと、この勧誘を断る理由が見つからないとも思えるが、本当にこれで良いのだろうか?
「大歓迎するわよ、ウフ★」
オカマ警察の鎌倉が歓迎している。
「ちょっと待ってくれ……」
「ん?」
「え?」
「??」
「今何時だ?」
「午前8時20分ね」
「そうだ、8時20分だ。ゲーム開始は7時だったよな。つまり、ゲームが始まってから1時間20分程度しか経過していない。昨日の大広間集合の時間を含めて考えても、この短期間でこれだけの人数を揃える辺りが気になってしょうがないのだが」
「ほぅ」
「こんなクソクラエな状況だ。何というか、計画がスムーズに進行し過ぎてやしないか?」
夏男が引っ掛かっている事。それはこの同盟を組んだプレイヤー達が、この建物に監禁される前から知り合いであるかどうか。つまり〝グル〟ではないかと疑っている。
「お前達は初対面でもなさそうだよな」
「ウチとすみれは中学からの友達だべさ。だやから初対面と違うべ」
亀谷とすみれは中学の頃からの友達。
「わ、私は皆さん初対面になります。ですが、由香里さんとは今通っている高校のクラスメイトになります」
青田向日葵と篠原由香里は同じ高校のクラスメイト。
「だべ子の他にも龍さんとは古いダチだ。だが、お前が考えそうな特別な関係ではないから安心しろ」
篠原すみれはデンデンとも知り合い。
「俺が考えそうな事って何だよおい……」
椅子に座って足を組んだ男が口を開く。
「そういう事だから春男よ、すみれちゃんに色目でも使ってみやがれ。この私が許さない。私の所持する千本ナイフが、お前の頭部を目掛けて飛んで来るかもしれないから気を付けるんだな。華麗に貫通させてやろう」
カチン
「どういう意味だいデンデンよ。言ってくれるじゃないか。しかしどうだろうか、見るからに運動神経の悪そうなお前がナイフを投げたところで、俺の頭部に命中するとは到底思えないんだが。間違ってすみれさんに当たるような事態にも成りかねん」
「お前、また苗字で呼びやがったな?」
「そんな苗字で華麗にナイフを投げれるかな?」
「試してみるか?」
「やるかおい?」
両者立ち上がる。
「何でこのタイミングで喧嘩になるのよ、一日分の〝ベジタブルン〟が足りてねーんじゃね!?」
鎌倉雲人が止めに入る。
「ちょっと神埼君。君は怪我人なんだから大人しくしておいてよね」
不気味に微笑みながら夏男に駄目だしをする未来。
「はいはい注目しなさい!」
リーダーである篠原すみれがまとめる。
「此処に監禁されている連中のほとんどが誰かしらと面識があるのは間違いない。それがどういう意図なのかは分からないが、何か裏がありそうだと言われればそうとも思える。だが、それとは別に神崎にこれだけは分かって欲しいんだ。俺達はこのクソゲームに参加するつもりはない。みんなで脱出ルートを抜けるしかないんだ」
「…………」
行ってみない事には何も分からないな。エスケープルームか。確かに一人で行くには心細い。
「お前は六条を命懸けでかばった。そんなお前に賭けてみたい」
「すみれさん……」
そこまで言うのなら……
「分かった。組む」
「組んでくれるか!?」
「ああ。何ていうか、その、これから宜しく頼むよ」
「こちらこそ宜しく願う。良かった、良かった!」
「…………」
篠原すみれか。この人がどこまで本気なのかは分からないけれど、頼りになる事間違いない。組むと決めたからには全力でサポートさせて貰うぜ。
裁判枠の同盟に加わり、10人目にして推理専を任された夏男。
その後、応急処置を終えた夏男は、治療してくれた青田向日葵に感謝の気持ちを伝え、食事をいただく。プレイヤー達は互いに絆を深めようと、一つのデーブルを囲って電田の調理したロブスターを頬張りながら会話を弾ませていた。フレームデッドゲーム初日にしてなかなか好調な滑り出しになったのだった。
本日の午後13時からさっそくエスケープルームへ突入する予定がリーダーから告げられる。
リーダーである篠原すみれの方針としては、メンバーはとりあえずこの10人でエスケープルームを攻略したいとの事。同盟の話は食事を終えたら、外部に洩れないよう一時的に禁句とする命令が出された。
1時間近くも会話をしたおかげで、プレイヤー同士の小さな誤解も解けてきたみたいだ。
「…………」
鎌倉雲人。さっきは化けもんなんて言って悪かったな。案外話の分かる奴で良かった。
青田向日葵。第一印象通りの人見知りな方だけど、親切に俺の怪我を癒してくれた。ありがとう。
爾来也伊吹。なんていうか、この人はまだよく分からないっす。まぁ馬鹿である事は間違いない。
亀谷妙子。だべだべうるさい奴だけど、美人過ぎるわ。この状況で恋愛をするってアリかな?
六条冬姫。彼女は素直で良い子だろう。頼むから俺らを裏切らないでくれよ!
篠原すみれ。何て強い女なんだ。でもよく見ると歩き方がおかしいんだよな。怪我をしているのか?
デンデン……は置いておいてっと。
未来。彼は何者なんだ。彼の考えている事がさっぱり見えてこない。悪いがお前を監視する意味でもこの同盟に参加しているんだからな。頼むから計画を乱すような真似はしないでくれよ。
とりあえず、一旦トイレにでも行って彼らの個人情報に目を通してみるか。みんなの関係性が他にも見えてくるかもしれない。それに、少し引っ掛かっている事もあるんだよな。
「どうしたの、神崎」
パンを片手に顔を近づけてくる六条冬姫。
「うお、近!」
「え?」
「と、ととととと」
「え、え、え?」
「トイレに行ってくる!」
あたふたしながら食堂を後にする夏男はトイレに向かう。実は彼の苦手なものは〝女性の色気〟なのだ。
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ある女性プレイヤーの個室
部屋中に脱ぎっぱなしの服や食べかけのお菓子が散乱している。此処はある人物の個室になるのだが……
ベッドの上に座って一人で何かを呟いている女。髪の毛を掻き毟っているのは分かるが、部屋が暗くて素顔が見えない。
「殺してやる……あの女、絶対に許さない……」
彼女の右手にナイフのような尖った光物が見える。
殺意に満ちた女が爆発寸前!?
エピソードⅣは以上になります
※ドン釈を含めた重要人物全31人/生存者残り29人
〝チェックポイント4〟へつづく




